ファースト・ラブ
ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー
その頃、キョーコはあのままずっとうつ伏せ状態で瑠璃子の言葉のまま待っていた。
(の・・・喉が渇いたよ~~。お・・・お水ほしいよ~~・・・。)
まだ季節は寒いとはいえ、日差しがあたってポカポカしている。
しかも、過酷な労働の後のためにキョーコはすごく喉が渇いていた。
(でも、体がだるくて重くて立てられないよ~~。瑠璃子ちゃん・・・まだロケ現場についてないのかな・・・。)
そんな考え事しかできなくなっていたキョーコをよそにロケ現場についている瑠璃子はスタッフから水をもらってそれを飲み、
休んでいて、助けを呼ぶやる気など毛頭もない。
(うう・・・せめて日陰に入りたい・・・。)
目の前を見れば、木が立ち並んでる場所があって、今のキョーコからみればオアシスだ。
でも、動こうとすると左の足首にまるで釘をかなづちで一気に打ち込むような痛みを発し
激痛で声にもならない叫びを上げる、キョーコ。
(うう・・・動けない・・・誰か・・・誰か私に気付いて~~。)
キョーコの願いもむなしく、誰も通らないし何も通らない状態。
「はふぅ~・・・。」
(せっかく・・・何か大事な何かを掴みかけたのに・・・さっきの私、自分の感じてる苦痛より瑠璃子ちゃんを守らなきゃって気持ちのほうが勝ってた・・・まるで子供の頃の私みたいに・・・もしかしら、もうそこへあの頃の気持ちが帰ってきるのかもしれない・・・なのに・・・こんなトコで人知れずに干からびるの嫌だ~~!!)
そう思っても動けないし、声を出して助けを求める元気もない。
(誰か・・・)
「・・・。」
心の中で助けを求めて、キョーコはそこでふっと思う。
(誰か・・・?あんなに努力してもショータローには振り向いてもらえなかったのに・・・?それどころか・・・。)
『お母さーーん、お母さーーん!!』
離れていく後ろ姿の自分の母親。
『いやぁーー!!置いてかないでぇーー!!』
幼いキョーコはその後を必死に追いかけながらも結局追いつけなくて
『いい子にするからぁ、置いていかないで・・・』
座り込んで泣き始めた。
(それどころか・・・母親にも振り向いてもらえなかったのに・・・)
「・・・。」
黙って過去に浸かるキョーコ。だが、ある記憶が頭によぎった。
『キョーコ。』
それは、自分をやっと見てくれた久遠の微笑みだった。
(久遠・・・何してるかな・・・私がこんなとこで倒れてるなんて知ったらどうするかな。まあ・・・私がここにいるだなんて知らないんだから、どうしようもないんだろうけど・・・。)
彼のことを考えると少しだけ、キョーコは元気が出た。
「久遠のことだから、きっと探して見つけ出してくれるだろうな・・・。」
苦笑いして呟くと耳元でカサ・・・と草が動く音がした。
「・・・ラブミー部員発見。」
その声を聞いてキョーコは顔を上げると心臓の鼓動が高鳴った。
「やあ・・・君が転んでいるのは休んでるのか?それも行き倒れてるのか?」
なぜなら、目の前にはその彼がいたからだ。
「・・・どうやら行き倒れてたみたいだな。」
でも、すぐに我に返ってやっと方向転換した。
(だ、だって、このひとは『敦賀蓮』だもの!!私の大切な人ではないから!!はっ・・・!!でも、なんでよりによって『敦賀蓮』がどうしてここにくるのよ!?思わず、ドキってしちゃったじゃない!!まったく不意打ちだわ!!もっと暇そうなスタッフがくればいいのに!!)
「あ、あの・・・もしかして瑠璃子ちゃんから事情を聞いてここに?」
確認したくてキョーコは蓮に顔を向けてきくと
「瑠璃?ああ・・・ようやく彼女きたみたいだね。さっき上にいる俺のマネージャーから連絡もらったよ。」
携帯をポケットから出して答える。
(え・・・違うの?)
そんな会話を二人はしていると何処からか男性二人が出てくる。
その手には釣竿があって、彼らとつりでもしてたのだろう、ガードレールに一本の釣竿が立てかけてある。
「あーもーみろー!足で蓮に敵うわけないねーだろー。俺達、今夜罰ゲームだぞー。」
「す、すまん~~。」
「魚は釣れねーし、最悪・・・お?」
二人の片方が、蓮とキョーコが会話していることに気付く。
「もしかして・・・今回の君の仕事の相手はその松内瑠璃子か?」
「そうですけど!!それがなにか!?」
「・・・いや、別に。」
蓮に当てられ、キョーコはまた顔を違うほうへと向けたが、
「・・・。」
彼の視線が左の足首にへといく。
(おかしいな・・・瑠璃子ちゃんがロケ現場に向かってもう20分くらいは経ってる気がする・・・。何故誰もきてくれないの・・・?
ロケ現場ってここからまだそんなに離れてるのかしら・・・。)
一方、キョーコは頭の中で色々と考えていていると
「ちょっと失礼。」
物凄く痛い場所である左の足首を蓮に捕まれ、しかも体がくるりと反転した。
その瞬間、ゴ○ラがギャオオオオオオと暴れるような痛みがして地面を思い切りにどんどんどん!と叩く。
「そーとー痛がってるぞ。」
それをみてる男性一人はそう言うと蓮はしれっとして
「ま・・・痛いでしょうね。骨にヒビが入ってると思われます。」
そう答える。
(嘘・・・!!)
キョーコもまさかそこまで悪化してるとは思っていたなかったので結構ショックを受ける。
「ひとまず上に連れて行きましょう。ここじゃあなにもできない。」
蓮はそう言うとキョーコを抱き上げた。当たり前だが、キョーコは驚く。
(え゛・・・!?な、なに!?この状況は!!)
そんな訴えが聞こえたのか蓮は
「少し我慢しろ・・・。」
彼女に視線を移してそう言うとすぐに正面を向き、上にへと歩き出した。
(ちょ、ちょっと待ってよーー!!私はどう反応したらいいのよーー!!)
キョーコはキョーコで硬直してどう反応したらいいのか頭の中でぐるぐると考えていた・・・。