ファースト・ラブ

ー無性に与えられる愛を君へ・・・ー



「自分の生きたい道を思い通りに生きるのは楽じゃねーんだ。コケるたびにヘコんでたんじゃ決して前へは進まねぇ。」

あの後、大将はそう言ってテーブルの上に男性の拳くらいのダルマをキョーコの前におく。

(・・・?)

置かれたダルマをキョーコは見つめる。

「こいつに片目いれろ、お前の決心が揺るがないように。そして次にコケてもすぐに起き上がれるようにお前の決意を印とけ。」

大将の言葉の元、キョーコはそれを借りた部屋にもって行き、

小さなテーブルの上で倒して、ダルマが自分自身で起き上がるのを見た後、

(面白いな・・・ダルマって自分で起き上がるんだ。)

「・・・よし!!必勝、祈願っ。」

筆ペンを出し、ダルマの片方の目に目を書く。

「お芝居で有名になって、芸能界でも久遠の側にいられるようになったら、もう片方の目を入れよう。」

(もう一度やってみよう、私にできることは何でも。いきなり女優やタレントになれなくてもそこに繋がるキッカケを掴むチャンスがあるはず。倒されても倒されても起き上がってみせる・・・!!)

決心を固め、キョーコは新たな決意を元に立ち上がった。

「おや、キョーコちゃん、早速かい?」

降りてきたキョーコをみておかみさんが聞く。

「はい、再チャレンジ行ってきます!!」

元気よくキョーコは答える。

「泣いて家に帰ってきたら入れねーぞ。」

すると大将がそういったが、

「・・・平気。私、ダルマになりますから。」

キョーコは笑顔でそう言い返した。

流石の大将もその言葉にどう反応していいのか困ったが、微笑んで

「行って来い。」

「はい!!」

大将の言葉にキョーコは元気よく答えた・・・。

「ふ~~む・・・今日で四日目か・・・オーディションで落ちた者の場合ルールとして待ってやれるのは、社長曰く、不合格を言い渡されてから一週間。それを超えるとあの子がウチに入れる余地は完全になくなる・・・。」

LMEの社内、椹がコーヒーを飲みながら言う。

「・・・賢明ですね。」

その横には椅子に座ってコーヒーを飲む、久遠・・・いや、敦賀蓮の姿。

「何を血迷ってそういう企画が持ち上がったのか知りませんが、何も好き好んでそういうのを事務所に入れる事はないですよ。」

冷たく言い放つ蓮に椹は

「・・・・蓮は、随分と会った事もないのに、例のあの子が嫌いなんだな。」

そう聞くと蓮は笑って

「・・・いえ・・・別に・・・嫌いなわけじゃないですよ。気に入らないだけです。

にっこりとスマイルを椹に向けるので、

(同じ意味では・・・?)

椹は心の中でつっこむ。

「・・・やっぱり気に食わないか?こういう形で不合格者がウチに入ってくるのは。」

「・・・そうですね。」

椹の言葉に蓮は低い声で言う。

「やっぱりか・・・お前の業界への姿勢はウチの社長より厳しいしな・・・。」

ため息して納得する椹。その傍ら、蓮は別のことを考えていた。

『・・・私達、芸能界では「他人」になる必要があると思う。』

それはキョーコは言っていたことで、もうそれを久遠は実行していた。『敦賀蓮』としては嫌うことで。

「・・・ああ、そう言うこと。・・・なもんでウチのそういうのがそちらにお邪魔した時はヨロシク頼むよ。ああ、じゃあ・・・また。」

そこで電話を受話器に置く、ローリィ。

どうやら、どこかに頼みごとをしてようで、

「これでほぼ根回しはできたかな。・・・後は彼女が来るのをまつだけだ。」

全てが終わったのか、ローリィは微笑んだ。

その頃、キョーコとは言うと、

(ついに来てしまった・・・!!)

黙ったまま、LME事務所を見上げある。

(きっと第一関門はお決まりの対応をしてくるであろう、フロントお姉さんズ!!)

そう考え、キョーコはそっとLME事務所への中にへと入る。

(そうと分っていて、わざわざ馬鹿正直にフロントへと向かうほど、私だって馬鹿じゃない!!だから、私はそのお姉さんたちに見つからないように、椹さんや社長さんに会う必要があるのよ・・・!!)

考えたとおりにキョーコは物陰に隠れながら、あたりを捜索すると「関係者立ち入り禁止」の看板が道を塞いでいるのをみて、

(これだわ!!この道はきっと顔パスのスター芸能人が通る道!!そうと決まったら!!)

心に決めたキョーコはそれを飛び越え、走り出したが、

誰にかにぶつかって、ぶつかった人物はすごい音をたてて、倒れた。

(ひ・・・っ。や、やばい・・・!!)

その人物の正体に人目で気付いたキョーコは思わず逃げるように背中に壁を当て

「・・・す、すみません・・・あ、あの・・・。」

(だ、だって、この人・・・!!)

一応謝ると人物はバッとキョーコを見て

「悪いと思ってるなら、ボサッとしないで手ぐらい貸しなさいよ!!」

(大物女優の上尾君子さんなんだもの・・・!!)

睨んできたが、キョーコは言われた通りにすぐに手を貸して、散らばった荷物もきちんと積みなおす。

(うあ~~この人、テレビみても恐そうなんだよな・・・やっかいな人にぶつかっちゃったな・・・。)

「・・・本当に私の不注意ですみませんでした。」

恐そうなので、キョーコはお辞儀して謝り、機嫌をこれ以上損ねないようにする。

「あんた見かけない顔ね。新人!?」

上尾はキョーコの顔を見て聞く。その質問にキョーコは一瞬、チョトンとしたが

(いずれはなるんだし、いいよね?)

「・・・はい。」

頷くと上尾は

「だったら、こっちへ入って来ないの!!新人のうちは正面から出入りするようにマネージャーから聞いて・・・」

叱り始めたが、思い出したことがあったのか途中で言うのをやめる。

「・・・?」

だから、キョーコは不思議に思うと

「・・・もしかして・・・あんた、アレ・・・?例の新しくできたっていうセクションの新人!?」

上尾はわけの分らないことを言い始めたのでキョーコは

「は・・・・?」

うまく反応はできなかったーー。