ファースト・ラブ
ー無性に与えられる愛を君へ・・・ー
「どうした?」
「よく、わかりました・・・。」
「・・・随分、あっさりしてるんだな・・・芝居を続けたいんじゃないのか?」
「・・・続けたいです。でも、私には無理です・・・。」
「何が?」
「・・・愛しても、必ず愛し返してくれる保障もないのに・・・会った事もない見ず知らずのたくさんの人達を一度に愛することが
できるんですか・・・?」
「・・・。」
キョーコの言葉に思わず、黙り込む椹だったが、
(どんなに努力して愛しても、『あの人』とショータローは振り向いてくれなったのに・・・。)
「・・・だがな、君も芸能人になりたいって思ってここにきたなら、人に見られたい愛されたいという気持ちはあったんだろう・・・?」
唾を飲んでゆっくりと訊く。
「・・・そう・・・ですね・・・。」
儚く、ふ・・・と微笑むキョーコ。
(でも・・・もう・・・・・・疲れた・・・・愛してほしいから愛する努力も・・・・心底から・・・本当に・・・疲れてしまった・・・。)
「・・・!!」
その微笑みに椹は言葉を失ったーーー。
『そう・・・ですね・・・。』
キョーコがいなくなった後、椹は一人で考え込む。
(なんなんだ・・・あの子は・・・何故観衆を愛せるのかと問いただしてくるし・・・おまけにあんな・・・)
先ほどのキョーコの表情と言葉に
(何かに疲れきってしまったと言うような目で・・・。)
眉間に皺を寄せて考え込んでいると、
「!!!」
眉間にどすっと痛いぐらい誰かの親指で突かれた。そのため、椹は眉間の部分を自分の両手で押さえる。
「~~~~~~~~!!!」
「うふふ、どうしたの、おじさまったら。こんなトコロで怖い顔なさって。」
そういうのは椹の眉間を突いた人物で
「心配で声もかけずに通り過ぎるなんてできなかったわ。」
「あ!」
椹はその人物をみて驚く。
「マリアちゃん。」
「はあい。」
なんとその人物はキョーコが頬を摘んで引っ張った女の子で、
「あ、そっか。おじさまがこんなところでのんきにお茶してるってことはオーディションの結果がでたのね?」
そう聞いてきて
「ん・・・?う、うん・・まあ・・・。」
「やった!61番の方ってどうなった!?」
なんて聞くと椹はその番号をきいた途端に61番だったキョーコを思い出して黙り込む。
(あの子・・・あのままほっといて平気なんだろうか・・・。)
「・・・おじさま?」
マリアは首をかしげて、椹が答えてくれるのを待っていたが結局彼は答えてはくれなかった。
その頃のキョーコは、あまり平気ではないようで、借りている部屋で座り込んでかなり落ち込んでる。
(・・・私・・・考えてみれば、お客さんに愛情をもって接したことなんてないかもしれない・・・だって、ショータローの旅館にいた時は、ショータローのお母さんにほめてもらいたくてやってたわけで、お客さんに喜んでもらいたくってやってたんじゃないもの。結局・・・子供のときに私が誰かのために動くのはいつも『ショータロー』と『あの人』だった。『愛されたかった』から・・・だから・・・)
「『愛されたい』なんて思えば、思うほど無駄。だって・・・むなしくなるだけもの。『あの人』・・・母親だって、どれだけ頑張っても
私に見向きもしなかった。私の努力はいつも無駄なばっかりで・・・そのせいで私は大切なものを失ってしまった・・・!」
『君には欠けている感情があるらしい。』
(それは・・・「芸能人」として・・・?ううん、違う・・・人間としてだ・・・。)
そう思うとキョーコは溜まらず泣き出した・・・。
「可哀想に・・・キョーコちゃんすっかり落ち込んじゃってるよ。」
おかみさんはその様子をみたため、大将に報告する。
「・・・。」
それを大将は聞いているものの、黙り込んで、卵を素早くかき混ぜ、
「おかみさん、キョーコちゃんがどうかしたの?」
お客さんがキョーコのことを聞いてきたが、
「え・・・あ、まあ・・・ね。」
おかみさんは誤魔化そうとする。
「えーーなになに。」
「気になるな~~~~。」
だが、お客さん二人は問いただして、
「・・・なんでもねえよ。」
今まで黙っていた大将が口をあけた。
「ただ、ちょっとけつまずいてコケただけだ。誰だってやるこった。」
厚焼き玉子を巻きながらいう大将、その言葉におかみさんは微笑だが、
キョーコが二階から降りてきた。
「キョーコちゃん、大丈夫なのかい!?」
そのため、おかみさんはキョーコに歩み寄ると彼女は元気なさそうな表情で
「はい、大丈夫です。ちょっと出かけてきます。」
といい、その手には鞄を持っている。
「え、こんな時間にかい!?」
現在の時刻はPM23;00で、年頃の女の子が歩く時間ではなく、おかみさんは驚いたが、
キョーコはそのまま、外にへと出かけてしまった・・・。