第一話 「 兄 」~中編~
杉の木から作られた丸いちゃぶ台の上に並べられた夕飯
出来たての料理からは白い湯気がゆらゆらと現れ、不規則に天井の方へ昇る。
どうやら僕が最後の一人だったらしく家族は既に自分の定位置へ座っていた。
「リオ、遅いぞ!ずっと待ってたんだからな」
僕の弟である三男のライトが口を尖らせて僕に文句を言いつけた。
まだ僕と5歳も差があるライトにとって美味しいご飯を目の前にお預けをくらうのはちょっとした拷問だろう。
メニューは僕が匂いで予想したとおり焼き魚だった。
ほかにも里芋の煮付けにほうれん草のおひたし、人参の味噌漬けなど細々とした物が並べられており、健康への気遣いが感じられる献立となっている。
はやく、はやく、と急かすライトに両親は糸のように目を細め、笑い皺を作った。
手を合わせ、いただきますをすればそれぞれ目の前に置かれたおかずに箸を伸ばし頬張る。
一家団欒の時間
学校であったことや、近所で聞いた噂話など他愛もない話に花を咲かせていると玄関先から、ごめんください、と声がかかった。
高く伸びのある、ちょっと鼻がかかった声ですぐに近所のおばちゃんだということが分かった。
ちゃぶ台に手をつき母が立ち上げれば小走りで玄関へと向かっていく。
どうせ畑で余る程採れた野菜のおすそ分けや、月に一度ある集会の話とかだろう
僕にとってなんの関係もない事だと決めつければ、赤味噌のなめこ汁を口内へ流し込みその旨味を噛み締めた。
暫くして近所のおばちゃんとの話が終わったのか母が居間へと戻ってきた。
手には青い布が握られている。
膝を折り曲げ紺色の座布団に腰を下ろし、手に持っていた布を太ももの上に置き指の腹でそっと撫でた。
「お前・・・それは・・・」
父さんには青い布が何を意味するか分かっているらしい。
目を細め笑いジワまで作っていたそれは大きく見開いて、ご飯を運ぶ手はそのままの位置で静止していた。
驚きを隠せない顔である。
ライトを見れば僕と同じくこの状況を理解できていないため、両手にそれぞれご飯茶碗と少し大きめの箸を持って小首をかしげていた。
「お父さん、どうしましょう・・・」
不吉なものだったりするのだろうか?
青い布についての情報は全く持っていないため、両親のやりとりについていけない
すると父は難しい顔のまま次の言葉を発した
「ナキリにやらせなさい」
その言葉に僕が反応しないはずがない、父の方へ顔を向けるとお互いの視線が絡んだ。
父は僕がナキリの事にだけ敏感なことを知っている。
「あの子はこの家の長男だ、神授者に選ばれたなんてとても名誉なことじゃないか」
またも聞きなれない言葉が宙に舞う。
母も納得したかのように首を縦に数回振った。
「ねぇ、さっきからなんの話ししてるの?」
疑問ばかり残る会話に痺れを切らしたライトが両親へ質問を投げかけた。
僕も思わず聞く耳を立てる、聞き逃さないよう姿勢が前のめりになった。
「・・・これはね、青布(あおぬの)って言って五十年に一度だけこの村に出回るの・・・」
興味を示した僕たちから逃げられないと悟ったのか、仕方なさそうにぽつりぽつりと母が話し始めた。
要約するとこうらしい。
今日、僕の家に届けられた青布と呼ばれるものは名の通り青い色の布の事で、そこには墨で『神授者』と書かれている。
神授者とはこの村を守り、繁栄させる神の命を受け継ぐ者として自らの人生を天に捧げ村の人々に崇め奉られる者の事を言い、選ばれた本人はもちろんその家族も称えられ、この村で神授者に選ばれるのはとても名誉な事だという。
そういえば小さい頃じいちゃんにそういう話を聞かされたことがある。
じいちゃんがまだ若い頃、友達の宗孝(むねたか)さんが神授者として選ばれたらしい。
その人は勤勉で愛想もよく、女子からはもちろん近所のおばさんやおじさんにも人気だったという。
世間からの評判もあり、神授者に選ばれても誰ひとり反対の意を示すものはいなかった。
祭りは盛大に祝われた。
毎年開かれる夏祭りや月見祭りより何倍も華やかで騒がしかったという。
そんな中、村の大通りには顔に覆面をつけた山伏姿の大人たちが列を成している。
その列の真ん中に、青い布地に白の紗綾形(さやがた)模様が入った装束を身にまとった彼が目に入った。
黒い鳥帽子を顎紐で結んで、手には淡黄色の笏(しゃく)が握られている。
真っ直ぐに前を見据えたその目は、少しの迷いもなく神の意志を受け継ぐ者として覚悟を決めた顔つきだった。
いつも以上に見せる彼の神々しい輝きはまさに神そのもであり、ほっと感嘆の吐息を洩らしてしまう。
一歩、また一歩と近づいてくる友人との距離が短くなるにつれ、早くなる鼓動。
昨日まで他愛もない話に花を咲かせ笑いあった仲とは思えないほどの緊張を感じ、自然と手に汗を握っていた。
彼が自分の前を横切るまであと数メートル、まるで妖怪に出くわした時のようにじっと見つめていると、不意に顔をあげた彼と目があった。
咄嗟に開いた口から言葉が出ない。
ただひゅっ、ひゅっ、と掠れた吐息が出てくるだけである。
山伏立ちの足音や、神授者を見ようと集まってきた村の人たちの騒々しい声にもちろんこの吐息が聞こえるはずもなく、相手から見れば相当間抜けな顔をしてるのだろうと思った。
声もでなければ、手も動かせない。
唯一動く目玉を使い、彼を視界から外さないよう必死に追い続ける。
すると友人は自分に向けて微笑みかけた。
今まで見てきたものと同じ、頬にえくぼを作って目を細める。
とても優しい笑顔だ、その笑顔に今まで自分の体を拘束していた呪いが解けたのか、自分は足を踏み出すことができた。
不思議な感覚に戸惑いながらも彼のもとへ足を進める。
ほかの人の肩にぶつかりながらも人ごみを割り入って、最前列にまでたどり着いた。
突然のことにびっくりした顔で歩く足を止めた友人。
「がんばれよ」
それしか言えなかった。
他に言いたいことなんていっぱいある。あるはずなのにそれしか出てこなかった。
その短い言葉を言い終え、またじっと彼の眼を見つめる。
自分の言葉に理解するまで少し時間がかかったが、彼はまたも目を細めて「あぁ」と返した。
遠くなる背中を見つめながら、彼に幸せが訪れることを誰よりも強く祈った。
悲しみも涙もない日々を送れますようにと。
それから長い月日が経ったが、じいちゃんはまだ彼の姿をみていない。
見ていないが信じているらしい、この村の守り神として大役を果たしていると。
まだ彼は村の北側に位置する社の中で生きていると。
そんな話を思い出してふと思った。
正直に言ってナキリに神授者なんて似合わない。
家に引きこもってるし、学校にもいかない、かと言って家の手伝いをしているわけでもない。
どこをどう見ても神の命を継ぐ者としての器があるとは思えなかった。
誰でもいいのだろうか?
暦か何かで決めていたり、村人たちによる投票?
またもぐるぐると頭の中をめぐる疑問。
それを打ち消すように頭をぶんぶんと軽く振り乱せばちゃぶ台の上に置いた箸尾再度手にとった。
話している間にすっかり覚めてしまった夕食。
白い湯気を出してつやつやとしていたご飯も冷たい外気に触れて固くなり、食感も悪くなっていた。
だからといって残すことはしない。
全て平らげれば、両手を合わせてごちそうさまをし、食器を流し台へ運んで水につけた。
もうナキリは食べ終わっているだろうか、日が落ちて冷たくなった廊下をひたひたと足音を立てながら、夕食前に来ると約束していたナキリの部屋へ向かうのであった。
__________
・・・疲れた
もう背景描写が書けなくて書けなくて・・・
苦し紛れに出したものもあります。
修正点ありましたら遠慮なくどうぞ。
いつになったら一日が終わるんだ?
次回は後編です。
杉の木から作られた丸いちゃぶ台の上に並べられた夕飯
出来たての料理からは白い湯気がゆらゆらと現れ、不規則に天井の方へ昇る。
どうやら僕が最後の一人だったらしく家族は既に自分の定位置へ座っていた。
「リオ、遅いぞ!ずっと待ってたんだからな」
僕の弟である三男のライトが口を尖らせて僕に文句を言いつけた。
まだ僕と5歳も差があるライトにとって美味しいご飯を目の前にお預けをくらうのはちょっとした拷問だろう。
メニューは僕が匂いで予想したとおり焼き魚だった。
ほかにも里芋の煮付けにほうれん草のおひたし、人参の味噌漬けなど細々とした物が並べられており、健康への気遣いが感じられる献立となっている。
はやく、はやく、と急かすライトに両親は糸のように目を細め、笑い皺を作った。
手を合わせ、いただきますをすればそれぞれ目の前に置かれたおかずに箸を伸ばし頬張る。
一家団欒の時間
学校であったことや、近所で聞いた噂話など他愛もない話に花を咲かせていると玄関先から、ごめんください、と声がかかった。
高く伸びのある、ちょっと鼻がかかった声ですぐに近所のおばちゃんだということが分かった。
ちゃぶ台に手をつき母が立ち上げれば小走りで玄関へと向かっていく。
どうせ畑で余る程採れた野菜のおすそ分けや、月に一度ある集会の話とかだろう
僕にとってなんの関係もない事だと決めつければ、赤味噌のなめこ汁を口内へ流し込みその旨味を噛み締めた。
暫くして近所のおばちゃんとの話が終わったのか母が居間へと戻ってきた。
手には青い布が握られている。
膝を折り曲げ紺色の座布団に腰を下ろし、手に持っていた布を太ももの上に置き指の腹でそっと撫でた。
「お前・・・それは・・・」
父さんには青い布が何を意味するか分かっているらしい。
目を細め笑いジワまで作っていたそれは大きく見開いて、ご飯を運ぶ手はそのままの位置で静止していた。
驚きを隠せない顔である。
ライトを見れば僕と同じくこの状況を理解できていないため、両手にそれぞれご飯茶碗と少し大きめの箸を持って小首をかしげていた。
「お父さん、どうしましょう・・・」
不吉なものだったりするのだろうか?
青い布についての情報は全く持っていないため、両親のやりとりについていけない
すると父は難しい顔のまま次の言葉を発した
「ナキリにやらせなさい」
その言葉に僕が反応しないはずがない、父の方へ顔を向けるとお互いの視線が絡んだ。
父は僕がナキリの事にだけ敏感なことを知っている。
「あの子はこの家の長男だ、神授者に選ばれたなんてとても名誉なことじゃないか」
またも聞きなれない言葉が宙に舞う。
母も納得したかのように首を縦に数回振った。
「ねぇ、さっきからなんの話ししてるの?」
疑問ばかり残る会話に痺れを切らしたライトが両親へ質問を投げかけた。
僕も思わず聞く耳を立てる、聞き逃さないよう姿勢が前のめりになった。
「・・・これはね、青布(あおぬの)って言って五十年に一度だけこの村に出回るの・・・」
興味を示した僕たちから逃げられないと悟ったのか、仕方なさそうにぽつりぽつりと母が話し始めた。
要約するとこうらしい。
今日、僕の家に届けられた青布と呼ばれるものは名の通り青い色の布の事で、そこには墨で『神授者』と書かれている。
神授者とはこの村を守り、繁栄させる神の命を受け継ぐ者として自らの人生を天に捧げ村の人々に崇め奉られる者の事を言い、選ばれた本人はもちろんその家族も称えられ、この村で神授者に選ばれるのはとても名誉な事だという。
そういえば小さい頃じいちゃんにそういう話を聞かされたことがある。
じいちゃんがまだ若い頃、友達の宗孝(むねたか)さんが神授者として選ばれたらしい。
その人は勤勉で愛想もよく、女子からはもちろん近所のおばさんやおじさんにも人気だったという。
世間からの評判もあり、神授者に選ばれても誰ひとり反対の意を示すものはいなかった。
祭りは盛大に祝われた。
毎年開かれる夏祭りや月見祭りより何倍も華やかで騒がしかったという。
そんな中、村の大通りには顔に覆面をつけた山伏姿の大人たちが列を成している。
その列の真ん中に、青い布地に白の紗綾形(さやがた)模様が入った装束を身にまとった彼が目に入った。
黒い鳥帽子を顎紐で結んで、手には淡黄色の笏(しゃく)が握られている。
真っ直ぐに前を見据えたその目は、少しの迷いもなく神の意志を受け継ぐ者として覚悟を決めた顔つきだった。
いつも以上に見せる彼の神々しい輝きはまさに神そのもであり、ほっと感嘆の吐息を洩らしてしまう。
一歩、また一歩と近づいてくる友人との距離が短くなるにつれ、早くなる鼓動。
昨日まで他愛もない話に花を咲かせ笑いあった仲とは思えないほどの緊張を感じ、自然と手に汗を握っていた。
彼が自分の前を横切るまであと数メートル、まるで妖怪に出くわした時のようにじっと見つめていると、不意に顔をあげた彼と目があった。
咄嗟に開いた口から言葉が出ない。
ただひゅっ、ひゅっ、と掠れた吐息が出てくるだけである。
山伏立ちの足音や、神授者を見ようと集まってきた村の人たちの騒々しい声にもちろんこの吐息が聞こえるはずもなく、相手から見れば相当間抜けな顔をしてるのだろうと思った。
声もでなければ、手も動かせない。
唯一動く目玉を使い、彼を視界から外さないよう必死に追い続ける。
すると友人は自分に向けて微笑みかけた。
今まで見てきたものと同じ、頬にえくぼを作って目を細める。
とても優しい笑顔だ、その笑顔に今まで自分の体を拘束していた呪いが解けたのか、自分は足を踏み出すことができた。
不思議な感覚に戸惑いながらも彼のもとへ足を進める。
ほかの人の肩にぶつかりながらも人ごみを割り入って、最前列にまでたどり着いた。
突然のことにびっくりした顔で歩く足を止めた友人。
「がんばれよ」
それしか言えなかった。
他に言いたいことなんていっぱいある。あるはずなのにそれしか出てこなかった。
その短い言葉を言い終え、またじっと彼の眼を見つめる。
自分の言葉に理解するまで少し時間がかかったが、彼はまたも目を細めて「あぁ」と返した。
遠くなる背中を見つめながら、彼に幸せが訪れることを誰よりも強く祈った。
悲しみも涙もない日々を送れますようにと。
それから長い月日が経ったが、じいちゃんはまだ彼の姿をみていない。
見ていないが信じているらしい、この村の守り神として大役を果たしていると。
まだ彼は村の北側に位置する社の中で生きていると。
そんな話を思い出してふと思った。
正直に言ってナキリに神授者なんて似合わない。
家に引きこもってるし、学校にもいかない、かと言って家の手伝いをしているわけでもない。
どこをどう見ても神の命を継ぐ者としての器があるとは思えなかった。
誰でもいいのだろうか?
暦か何かで決めていたり、村人たちによる投票?
またもぐるぐると頭の中をめぐる疑問。
それを打ち消すように頭をぶんぶんと軽く振り乱せばちゃぶ台の上に置いた箸尾再度手にとった。
話している間にすっかり覚めてしまった夕食。
白い湯気を出してつやつやとしていたご飯も冷たい外気に触れて固くなり、食感も悪くなっていた。
だからといって残すことはしない。
全て平らげれば、両手を合わせてごちそうさまをし、食器を流し台へ運んで水につけた。
もうナキリは食べ終わっているだろうか、日が落ちて冷たくなった廊下をひたひたと足音を立てながら、夕食前に来ると約束していたナキリの部屋へ向かうのであった。
__________
・・・疲れた
もう背景描写が書けなくて書けなくて・・・
苦し紛れに出したものもあります。
修正点ありましたら遠慮なくどうぞ。
いつになったら一日が終わるんだ?
次回は後編です。
第一話 「 兄 」~前編~
いつからだろうか、兄の笑顔を見なくなったのは。
あぁ、そうだ、僕が12歳の時だった。
今はもう17歳、5年の月日が経っている。
黒く真っ直ぐに伸びた癖のない黒髪は、僕の双子の兄であるナキリの瞼の上を軽くつつき、それに兄は数回ぱちぱちと瞬きをした。
日に焼けていない白い肌にその髪は余計に黒さを増し、まつ毛の存在さえも強く主張した。
唇は刺激に弱いのか、それとも何度も舌で舐めているからか縦じわが刻まれており、乾燥して唇の皮が逆だっている。
顔だけ見ると不健康そのものだ。
縁側で僕の隣に座っている兄の顔を眺め続けていると、その視線に気付いたのかばっちりと目が合ってしまった。
特に逸らす必要もないし、兄の顔ならずっと一日中見ていたかったので見つめ合ったまま僕は目から眉、鼻から口、終いには輪郭さえもこの目に焼き付けようとした。
兄も見つめ返してくるが目は一点を見つめたまま。
そう、僕の目を見ているのだ。
兄には相手の目を見て今何を考えているのか探ろうとする癖がある。
当然分かるはずがない。
だって当たったことは殆どないのだから。
合致する視線に耐え切れなくなったのか兄の方が先に僕から目をそらした。
僕の中にはちょっとした優越感と幸福感が沸き起こった。
実はこの時間がとても好きだったりする。
思わず吹き出してしまえば、兄は僕の顔を見て不思議そうな顔をした。
僕が笑った理由がわからないのだろう。
「兄さん」
いつも通りの呼び方を口にすれば
「リオ、俺たちは双子だよ?ほぼ同時に生まれてきたんだから名前でいいのに」
いつもこうだ。
兄はこの呼び方が好きじゃないらしい。
というより、上下関係をつけたくないようだ。
本当のところどちらが先に生まれたかなんて分かってない。
以前母に聞いてみたこともあったが、生みの親でもある母でさえ忘れた、と答えるものだから詳細は不明のまま。
でも親戚のおじちゃんやクラスメイトから、ナキリの方が大人しくてしっかりしている、なんて言われているものだから自然とナキリが兄という立場になってしまった。
僕もその意見に納得できるし、本人も嫌がってはいないのでそのままになってしまったが、兄自身双子という関係で僕らの中では同等の立場にしたいと望んでいるようだった。
「・・・じゃあ、ナキリ」
言われたとおり名前で呼んでみる
何?と短く返事が返ってきたがその顔はどこか落ち着いていて少し曲がっていた眉も元の形へと戻っていた。
「呼んでみただけ」
そう、特に用事や話すネタはなかった。
ただ相手の、兄の名前を呼んで気を引きたかっただけなのである。
呼ばれただけの兄はまたも眉を曲げて困った顔をした。
今日は一段と変な弟だと思われたに違いない、と心の中で思えば僕は縁側につかない足をぶらぶらと揺らして、時折吹いてくる春の暖かい風を感じた。
日が沈みかける時間帯に差し掛かれば空は青から茜色に姿を変え、太陽は白から狐色に変わる。
少しずつ、少しずつ沈む夕日を何も喋らずただ二人して縁側に座り眺めていた。
夕飯の支度ができたのだろうか、家の奥からは微かにいい匂いが漂ってきた。
今日は焼き魚だとわかると腹の虫が一斉に鳴き始める。
虫の声が聞こえたのか兄は僕のほうを向いて鳴った原因であろうお腹に目を遣り
「お腹すいたろう?行っておいで」
と僕を夕飯へ行くよう促した。
「兄さんは?」
「部屋で食べるよ」
また兄さんと呼んでしまった僕に訂正しようと口を開けるも、口うるさく言って機嫌を損ねてしまう僕を思ってその言葉を飲み込み、今日も一人で食べることを伝えた。
特別変わったことではない、兄さんは12の頃から部屋で、ひとりで食べるようになった。
最初は嫌だったけど時間が経てば慣れてくるもので今となっては気にすることはなくなり、引き止めることもなくなった。
あまりいい事ではないのは分かっている。
しかし本人の希望なのだ、夕飯の時以外は話に付き合ってくれるためそのぐらいの我儘は許すことにした。
部屋の奥から僕を呼ぶ声がする。
はーい、と返答すれば僕は立ち上がり長時間座って固まってしまった体をほぐすように腰をひねったり肩を回したりした。
全身に血が回り心なしか手足が暖かくなったような気がする。
「それじゃあ兄さん、ご飯食べてくるね。後で部屋に行ってもいい?」
同じように立ち上がった兄も僕と同じ動きをした。
顔や性格は似てないけれどこういう所は同じだったりするから僕たちは改めて双子なんだな、って思う。
利き手や頭を掻く仕草、嘘を付くときの目の動き、湯船に足を入れる順番だって一緒だ。
こんなに多くの共通点があって誰が双子じゃないと言えるだろう。
一つの命が分かれて二つの生命を誕生させた。元はひとつだったのだ。
この共通点を見るたびに兄と一心同体のような気がして自然と顔が綻ぶのであった。
「兄さんじゃなくて、ナキリ。 俺が食べ終わった後ならいつでもいいよ」
それじゃ、と僕の横を抜けて廊下の奥へと進んでいく兄。
すれ違い様に匂う優しい香りは兄のものだ。
肺にその匂いを十分に取り入れ、味わうようにしてゆっくりと鼻から抜くと、僕は兄の方へ体を向け、
「絶対だからね」
と釘を刺すように後付した。
廊下の奥は日が当たらず薄暗い場所、だが夕方となればそれは闇となる。
黒く深いその影に飲み込まれていく兄の姿を見送っていれば、見えなくなったと同時にドアを開け、ぱたん・・・と閉める音が聞こえた。
目が使えなければ耳を。
僕はこうして兄の行動すべてを五感で感じ、把握する。
斜めに差し込む夕日に照らされながらしばらくそこで立ち止まり兄が消えていった闇を眺め続け、暫くしてから家族の元へ向かうのであった。
_________
なげぇ、なげぇよ
途中で何書いてるか分かんなくなった。
誤字・脱字あれば報告お願いします。
いつからだろうか、兄の笑顔を見なくなったのは。
あぁ、そうだ、僕が12歳の時だった。
今はもう17歳、5年の月日が経っている。
黒く真っ直ぐに伸びた癖のない黒髪は、僕の双子の兄であるナキリの瞼の上を軽くつつき、それに兄は数回ぱちぱちと瞬きをした。
日に焼けていない白い肌にその髪は余計に黒さを増し、まつ毛の存在さえも強く主張した。
唇は刺激に弱いのか、それとも何度も舌で舐めているからか縦じわが刻まれており、乾燥して唇の皮が逆だっている。
顔だけ見ると不健康そのものだ。
縁側で僕の隣に座っている兄の顔を眺め続けていると、その視線に気付いたのかばっちりと目が合ってしまった。
特に逸らす必要もないし、兄の顔ならずっと一日中見ていたかったので見つめ合ったまま僕は目から眉、鼻から口、終いには輪郭さえもこの目に焼き付けようとした。
兄も見つめ返してくるが目は一点を見つめたまま。
そう、僕の目を見ているのだ。
兄には相手の目を見て今何を考えているのか探ろうとする癖がある。
当然分かるはずがない。
だって当たったことは殆どないのだから。
合致する視線に耐え切れなくなったのか兄の方が先に僕から目をそらした。
僕の中にはちょっとした優越感と幸福感が沸き起こった。
実はこの時間がとても好きだったりする。
思わず吹き出してしまえば、兄は僕の顔を見て不思議そうな顔をした。
僕が笑った理由がわからないのだろう。
「兄さん」
いつも通りの呼び方を口にすれば
「リオ、俺たちは双子だよ?ほぼ同時に生まれてきたんだから名前でいいのに」
いつもこうだ。
兄はこの呼び方が好きじゃないらしい。
というより、上下関係をつけたくないようだ。
本当のところどちらが先に生まれたかなんて分かってない。
以前母に聞いてみたこともあったが、生みの親でもある母でさえ忘れた、と答えるものだから詳細は不明のまま。
でも親戚のおじちゃんやクラスメイトから、ナキリの方が大人しくてしっかりしている、なんて言われているものだから自然とナキリが兄という立場になってしまった。
僕もその意見に納得できるし、本人も嫌がってはいないのでそのままになってしまったが、兄自身双子という関係で僕らの中では同等の立場にしたいと望んでいるようだった。
「・・・じゃあ、ナキリ」
言われたとおり名前で呼んでみる
何?と短く返事が返ってきたがその顔はどこか落ち着いていて少し曲がっていた眉も元の形へと戻っていた。
「呼んでみただけ」
そう、特に用事や話すネタはなかった。
ただ相手の、兄の名前を呼んで気を引きたかっただけなのである。
呼ばれただけの兄はまたも眉を曲げて困った顔をした。
今日は一段と変な弟だと思われたに違いない、と心の中で思えば僕は縁側につかない足をぶらぶらと揺らして、時折吹いてくる春の暖かい風を感じた。
日が沈みかける時間帯に差し掛かれば空は青から茜色に姿を変え、太陽は白から狐色に変わる。
少しずつ、少しずつ沈む夕日を何も喋らずただ二人して縁側に座り眺めていた。
夕飯の支度ができたのだろうか、家の奥からは微かにいい匂いが漂ってきた。
今日は焼き魚だとわかると腹の虫が一斉に鳴き始める。
虫の声が聞こえたのか兄は僕のほうを向いて鳴った原因であろうお腹に目を遣り
「お腹すいたろう?行っておいで」
と僕を夕飯へ行くよう促した。
「兄さんは?」
「部屋で食べるよ」
また兄さんと呼んでしまった僕に訂正しようと口を開けるも、口うるさく言って機嫌を損ねてしまう僕を思ってその言葉を飲み込み、今日も一人で食べることを伝えた。
特別変わったことではない、兄さんは12の頃から部屋で、ひとりで食べるようになった。
最初は嫌だったけど時間が経てば慣れてくるもので今となっては気にすることはなくなり、引き止めることもなくなった。
あまりいい事ではないのは分かっている。
しかし本人の希望なのだ、夕飯の時以外は話に付き合ってくれるためそのぐらいの我儘は許すことにした。
部屋の奥から僕を呼ぶ声がする。
はーい、と返答すれば僕は立ち上がり長時間座って固まってしまった体をほぐすように腰をひねったり肩を回したりした。
全身に血が回り心なしか手足が暖かくなったような気がする。
「それじゃあ兄さん、ご飯食べてくるね。後で部屋に行ってもいい?」
同じように立ち上がった兄も僕と同じ動きをした。
顔や性格は似てないけれどこういう所は同じだったりするから僕たちは改めて双子なんだな、って思う。
利き手や頭を掻く仕草、嘘を付くときの目の動き、湯船に足を入れる順番だって一緒だ。
こんなに多くの共通点があって誰が双子じゃないと言えるだろう。
一つの命が分かれて二つの生命を誕生させた。元はひとつだったのだ。
この共通点を見るたびに兄と一心同体のような気がして自然と顔が綻ぶのであった。
「兄さんじゃなくて、ナキリ。 俺が食べ終わった後ならいつでもいいよ」
それじゃ、と僕の横を抜けて廊下の奥へと進んでいく兄。
すれ違い様に匂う優しい香りは兄のものだ。
肺にその匂いを十分に取り入れ、味わうようにしてゆっくりと鼻から抜くと、僕は兄の方へ体を向け、
「絶対だからね」
と釘を刺すように後付した。
廊下の奥は日が当たらず薄暗い場所、だが夕方となればそれは闇となる。
黒く深いその影に飲み込まれていく兄の姿を見送っていれば、見えなくなったと同時にドアを開け、ぱたん・・・と閉める音が聞こえた。
目が使えなければ耳を。
僕はこうして兄の行動すべてを五感で感じ、把握する。
斜めに差し込む夕日に照らされながらしばらくそこで立ち止まり兄が消えていった闇を眺め続け、暫くしてから家族の元へ向かうのであった。
_________
なげぇ、なげぇよ
途中で何書いてるか分かんなくなった。
誤字・脱字あれば報告お願いします。

