中国とは正反対なのが日本に対する予想の結果である。まず、日本が21世紀初めまでに経済的に停滞する可能性は極めて低いと述べている。

 

  過去四十年以上つづいた日本経済の目覚しい拡大が、今後二〇年にわたってつづくと

  いう保証はないし、一九六〇年代から下降の一途をたどっているソ連の成長率は、国

  家の経済政策や機構が変化すれば、一九九〇年代に再び上昇しないという保証もない

  からである。しかし、現在のトレンドからみれば、いずれも実現の見込みはきわめて

  低い。いいかえれば、二十一世紀初めまでに日本が停滞し、ソ連が経済的に繁栄する

  ことがあるとすれば、それは現在の事実によって合理的に推測しうるよりもはるかに

  劇的な状況と政策の変化によるものだろう。(p242)


 ソ連(今はロシア)については当たったが、日本については、見事に「21世紀初めまでに」失われた20年となって停滞してしまった。ここで述べられている現在の事実によって合理的に推測しうるよりもはるかに劇的な状況と政策の変化」とは、土地と株式投資によるバブル経済、それに対応する政策としてのバブルつぶし(土地取引の総量規制など)、日本の財政危機を取り上げての消費税導入と税率の引き上げ、日本国債に対する格付けの引き下げ、およびアメリカの日本の経済政策に対する圧力(日本改造計画)のことになるだろうか。この時点で、日本経済がバブルの状態にあるとポール・ケネディは見抜けなかったのだろうか。あるいは、バブルだとは考えていなかったのか。今、振り返って考えてみると「劇的な状況と政策の変化」の「状況」より「政策の変化」がより大きな比重を占めているように思われる。バブルはつぶさなくてもよかったし、消費税も引き上げる必要はなかった。アメリカの要求に唯々諾々と従って、自らの長所を台無しにしてしまったのは取り返しがつかない失策だった。 

  ただ、日本経済停滞の一因となっている少子高齢化については取り上げられている。

 

  日本が懸念しているのは、成熟しつつあるのが経済だけではないことである。人口の

  年齢構成によって、二〇一〇年までに「日本は労働年齢(十五歳から六十四歳まで)

  に該当する人々の割合が主要工業国のあいだで最低」になり、そのために多額の社会

  保障支出が必要になって活力が失われるというのだ。(270)

 

 しかし、それにもかかわらず、日本経済は成長すると予測している。これらの予測は部分的には当たっている。

 

  成熟した段階に入るにつれて日本の経済成長率が低下しているのは確かであり、かつ

  ての爆発的な輸出を支えてきた経済的優位を他国が許容しなくなってきたのも事実だ

  が、それにもかかわらず日本が将来も他の主要国よりすみやかに拡大することを予想

  させるかなり有力な理由がいくつかある。第一に、これほど原材料に依存している

  (石油の九九パーセント、鉄の九二パーセント、銅の一〇〇パーセントを輸入してい

  る)国は、鉱石や燃料、食糧の価格を引き下げるような交易条件の変化から莫大な利

  益を得る。(略)

  さらに重要なことは、二十一世紀初めまで日本の産業が最も有望な(そして、つまる

  ところは最も大きい利益をもたらす)部門、つまりハイテク部門に積極的に進出し続

  けていることである(P271)

 

 原材料の価格が下がれば利益を受けるが、上がった場合のことには触れられていない。

 ハイテク部門に進出しているが、インターネットの時代になり、ハード面では韓国や台湾、中国に追い上げられ、ソフト面ではマイクロソフトやアップルのような革新的な企業は日本に生まれなかった。状況の変化として最も大きなものは、この点だろう。

 

 そして、アメリカに対する警告が発せられている。

 

  日本の産業が成しとげた奇跡と張り合うには、テクノロジーのあれこれをまねるだけ

  ではなく、日本の社会体制の多くをまねる必要があるのだ。デヴィッド・ハルーバー

  スタムは、まさにそうした理由からこう述べたのである。「これはアメリカにとって

  二十世紀の残りの期間で最も新しい・・・最も困難な挑戦である・・・競争の熾烈さ

  という点からすれば・・・ソ連との政治および軍拡競争の比ではない」

  こうした産業面での強さだけでは足りないかのように、日本は年間数千億ドルを海外

  に貸し付けて、驚くほど急速に世界の主要債権国としての地位を確立した(P276)

 

 アメリカは「日本の社会体制の多くをまねる」のではなく、日米構造協議を通じて日本にアメリカの社会体制をまねさせた。日本は内部から自滅していった面もあるが、アメリカからの圧力も大きな役割を果たした。決定的なのは、日本はアメリカに防衛を任せているということである。軍事力を奪われたままで経済面だけでアメリカを凌駕しそうになったため、アメリカの逆鱗に触れて、いとも簡単につぶされてしまった。

 

 結論として、ポール・ケネディは次のように日本の未来を予測した。

 

  もし円が高騰しすぎたり、日本経済の「成熟」が長くつづいて生産基盤や成長率が鈍

  化すれば、状況は変わる(しかも急速に変わる)かもしれない。しかし、そういうこ

  とが起こる―そして(すでに述べたように)製造工業国としての日本が衰退する過程

  はゆるやかになると予想される理由がある―としても、ひとつだけ明らなか事実があ

  る。すなわち、二〇〇〇年までに日本が獲得すると予想される海外資産の額からみ

  て、日本の経常収支は海外からの莫大な収益によって充分に補われるのだ。つまり、

  どの点からみても、日本はますます豊かになる運命にあるらしい。

  二十一世紀初頭に、日本は経済的にどれほど強大になるだろうか? 大規模な戦争や

  環境破壊が防止でき、一九三〇年代のような世界的不況や保護貿易主義に戻ることが

  ないと想定すれば、異論の余地のない答えは次のとおりだ。日本はいまよりもはるか

  に強力になるだろう。コンピュータ、ロボット工学、遠距離通信、自動車、トラッ

  ク、造船、そしておそらくバイオテクノロジーや航空宇宙産業でも、日本は世界で

  一、二を争う存在となるだろう。金融面では、そのころには並ぶもののない存在と

  なっているかもしれない。すでに日本の一人当たり国民総生産はアメリカや西ヨー

  ロッパをしのぎ、日本人は世界で最高に近い生活水準を享受しているといわれてい

  る。世界の工業製品の生産や国民総生産に占める割合は予想がつかない。(略)

  予想しうる未来において、日本の成長の軌道はいぜんとして上昇しつづけるだろう。

     (P278)

 

 「日本の経常収支は海外からの莫大な収益によって充分に補われるのだ」という予測は当たっている。東日本大震災の後、貿易収支は一時、赤字になったが経常収支は黒字を維持し、2016年の経常収支は1987年の2倍以上になっている。

 それにもかかわらず、「二十一世紀初頭に、(略)日本はいまよりもはるかに強力になるだろう」との予測は、大はずれになった。「予想しうる未来において、日本の成長の軌道はいぜんとして上昇しつづけるだろう」との予測は正反対となり、他国に比較して格段に低い成長に止まった。それが20年以上も続いた結果、かつてのイギリスのように停滞を続け、21世紀は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」になると言われていたのが、中国に追い抜かれて「ジャパン・アズ・ナンバースリー」となり、今後、新興国に次々に追い抜かれていく状況になっている。もはや、経済規模(GDP)での競争ではなく、まず軍事面での自立を目指し、経済も日本に合った分野に特化して発展させていくことが必要だろう。