キリンの掌

キリンの掌

いらっしゃいませ♪
主に、思い付きの自己満足ショートショート。
その他、日々の出来事や、いくつかある趣味についても。広く浅~く。
首が長くなる程の、スローペースな更新がモットーです。
どうぞ、ゆっくりしていってください(`・ω・´)y

Amebaでブログを始めよう!
無意味な事象ほど、人を退屈させることはそうそうない。
ロシアでは、半日かけて掘った穴を、また半日かけて埋める。という拷問が存在するぐらいだ。
自然界には、人間のように物事を論理的思考で読み取る生物などいないと言われている。
目の前に存在する物事に意味を見出せなくなると、人間の思考はやがて疑問符の連鎖で埋め尽くされる。
積み重なったそれらは、解決されることもなくストレスへと変換され、脳内を破壊していくのだ。
そののち、破壊を繰り返した脳は思考が停止し、人間が生命維持を続けるための機能も次々と弱っていく。
その先に待つものは死である。
身体疾患を持っていたわけでもなく、ただ「疑問が解決されない」というだけで人は死ぬ。
私もきっとそう。

---------------------------------------------------------------------------


ふと目を覚ますと、私は知らない場所にいた。
なぜか腕から足にかけて縄で自由を奪われたまま、白い何かにくくり付けられている。

メリーゴーランド?

私は自分が誰で、いつからここにいたのか、どうやって連れて来られたのか、何も覚えていない。
知らない。と言うべきか、記憶が完全に欠落しているのだ。
そして、すぐ隣で同じように縛られながら、こちらをじっと見つめている男のことも。私は知らない。

-------この男は何か知っているのだろうか?

怖かったが、私は勇気を出して話しかけてみた。
「あの……ここはどこなんですか?私たちはどうして縛られているんですか?」
男は少し呆れたような顔で質問を聞き、遠くを見つめながら答えた。
「知らないね。俺もさっき目が覚めたばかりだ。」
「はぁ……そうですか……。」

------何かがおかしい。

男は明らかに嘘を吐いていた。
状況はわからないが、この男は何かを知っている。
第一、突然こんな状況に置かれた者が、あんなに冷静でいられるだろうか?
少なくとも私の頭の中は、疑問と恐怖でいっぱいだった。
しかし、頼みの綱は隣にいる男だけだったので、もう一度聞いてみることにした。
「あ、あの、私とどこかでお会いしたことありますか?」
少し間を置いて、男は答える。
「そうだなぁ。会ったことがあると言えばあるが、ないと言えば無い。こうして顔を合わせるのは初めてだがね。」
混乱していた私の頭は、更に訳がわからなくなった。
あると言えばあるけど、ないと言えば無い?
何か知っているのに、不安そうな私を見て、からかっているのか?
解決しようと話しかけたことで、余計に問題が増えた。
私は冷静になろうと思い、とりあえず一呼吸置いた。

------逃げよう。

何がどうしてこうなったのかわからないが、疑問を解決する為にも、まずはこの縄を解かなければ。
両手両足に、渾身の力を込める。
しかし、私の細い腕で何重にも巻かれた縄が切れるはずもなく、力尽きた。
私が肩で息をしながら他の手段を考えていると、それを見た男が突然大声で笑いだした。
その瞬間、私の不安と恐怖は大きな苛立ちへと変わった。
「ちょっと、あんた!何がおかしいのよ!?笑ってなんかいないで、あんたも何かしなさいよ!」
私は男の笑い声に負けないような大声で、叫んだ。
「いや、ははは……。すまない。なぜ逃げようとするのか。と思ってね。つい笑ってしまった。君はさ…」
男が悪びれない様子で答えたため、怒りがピークに達しそうだったが、男が何かを話しだしそうなことに気付き、私は黙った。
「あれだろ、誰かに捕まったと思っているだろう?でも違うんだな、これが。俺たちは、こうなるべくして、こうなったんだ」
またも意味がわからないという顔をすると、前を顎でくいっと指しながら男は続けた。
「ほら、目を凝らして見てごらん。同じようなのが遠くに見えるだろ?そろそろだな……よぉく見てろよ。」
男の視線の先は、かなり遠く、米粒ぐらいにしか見えなかったが、そこには同じような二人組がいた。
私たちよりもメリーゴーランド同士の距離が近いらしく、寄り添っているようにも見えた。
恋人同士なのか、なぜだか少し、気持ちが緩んだ。

その瞬間。

------ガタンッ! !

一瞬二人の乗る馬が揺れ、視界から消えた。
まるで宙を舞うように、二人は消えたのだ。
何が起きたか理解できない私は、慌てふためいた。
……あの二人は……死んだの?
「死ぬんじゃない。ほら見ろ、あそこだよ。」
また男の示す先に視線を落とす。
ふいに景色が揺れた気がした。
しかし揺れたのは、私の見ている「それ」ではなかった。
私自身。
隣にいる、あの男も。
メリーゴーランドごと。
いや、もっと下。
白い土台ごと、私は宙に浮いていた。
直後、物凄い勢いで叩きつけられた。
意識が遠のきながら、誰かの声が聞こえてくる。

「もぉー!たまごはボクが取ったんだぞっ!にいちゃんはイクラがまだ残ってるじゃーん!!」

薄れゆく意識の中で、私は今まで起きた全ての事象、理由を悟り、消えてしまいそうな声で呟いた。

「…………め、召し上がれ…」