釣りキチ三平 | Museo Kircheriano

釣りキチ三平

タイトル: 釣りキチ三平 DVD-BOX 1
タイトル: 釣りキチ三平 DVD-BOX 2

釣りバカ日誌」という漫画がある。
釣り好きのサラリーマンの人情喜劇というものだ。
寅さん亡き今は松竹を支える、大きな柱になっている。
釣りバカの名前どおり、主人公は、釣りが大好きで、それこそバカみたいな様子。
しかし、私は以前に似たような名前の漫画を読んで知っている。
釣りキチ三平」だ。
この二つの漫画は釣り好きという部分を除いて、あんまり共通項のない話だが、
肝心の釣りに対する姿勢の部分でもかなりの差をみてとれる。
「釣りバカ日誌」の主人公は釣りが好きだが、それでも社会生活を送れる程度に嗜んでいる趣味に
すぎないし、魚が針にかかれば、それこそなんでも良いとすら思える観がある。
対して「釣りキチ三平」は、釣りというものに対して、恐ろしいくらい真剣である。
いくつかのエピソードからわかるが、


葦で作った竿で、川釣りをしているエピソードがある。主人公の肉親であるおじいさんは、最高の竿師であり、現在ただ一人の孫である三平君には、高級な竹竿を持ちながらも、葦の竿を使うのである。
理由は、それは釣っている魚が小さいために、竹竿では感触が面白くないから。
あえて簡単に折れてしまいそうな葦竿を使って、大物の感触を味わうのが三平君の釣りだ。
釣れるのは当たり前、というところからしか出てこない発想だ。


また、怨み竿というエピソードでは、怨念のこもった竿が登場するが、この竿は、手に持つと釣りをしたくてたまらなくなるという竿である。しかも魚が物凄く釣れるのだった。
この竿は、竿師の真剣さが竿にこもるものだが、そこには、娯楽を微塵も感じさせない。


多くのエピソードで三平君は、幻の魚を釣っているが、考えてみれば釣れるのであれば、幻とは言われない。
しかし、三平君は釣る事を目的とし釣れる、物凄い腕利きぶりだ。


三平君は、おおよそ道具にこだわらない、葦の竿のように極端な難易度を求めたり、特殊な道具を除けば、こだわっている様子が見えない。
釣りには、ストイックな姿勢で臨んでいるようだ。


テレビでアニメーション化もされている。
この際に「釣りキチ」の「キチガイ」という部分で悶着あったらしいが原作者 矢口高雄氏の説得によりタイトルの変更はされなかったと聞く、この逃げていない姿勢は素晴らしい。


釣りバカは、大らかな嗜好の釣りであるが、釣りキチは、ストイックなまでに真摯な姿勢で釣りに臨む。
どちらが、正しいかは分からないが、真剣という言葉が空々しくなった今は振り返るものがあるかもしれない。

そういえば、「釣りキチ三平」の連載終了後に掲載された読みきりもオムニバスで釣りが題材だったが、人生と釣りを準えた話で、人生の滑稽さと儚さを描いたものであった。
特に最後の話は、カーボンで作られた鮎竿が電線に触れて釣り人が絶命するというショッキングなものでもあった。

釣りは趣味と言うよりは、人生の一部のようなもの、そこが「釣りキチ」たる所以なんだろう。
これが、人生だというものが持てたら、それだけで満ち足りた生き方ができるかもしれない。