※注意!妄想です!BLです!苦手な方はお戻りください。
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Side:O
 
 
 
 
 
N「大野さーん、洗濯カゴのところ以外に洗濯物があったら出しといてくださいね」
O「お、おう」
 
 
 

 洗濯機を置いている脱衣所から顔だけのぞかせたニノが、リビングで絵を描いているおれに聞こえるよう大きめの声をだす。
 絵を描くふりをしながらちょこまかと動き回るニノを目で追っていたおれは、慌てて返事をした。
 
 
 
 徐々に暮れゆく部屋の中、ちょっとキョドってるおれをじっと見たニノは、次の瞬間には相好を崩した。
 おそらく、おれが絵に集中するあまり条件反射で答えたわけじゃないと確信したんだろう。
 

 再び脱衣所に引っ込んだニノ。
 水音が聞こえてくるから、今度は風呂掃除を始めたのだろう。
 
 
 
 
 

 おれは昔っから、絵をかきはじめたら集中しすぎて周囲の音が聞こえなくなってしまうことがある。
 たまに入り込みすぎて寝食を忘れ、病院送りになったことも何回か……。
 
 そんな絵を描くことしかできないおれが、それを生業とできたのはまさにラッキーなことだ。
 
 
 

 そう、おれの職業は"絵描き"だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 初めてニノをこの家に招待した時、描きかけのスケッチブックをテーブルの上に置きっぱなしにしていた。
 そのことに気づいて隠そうとしたが時すでに遅く、見られていた。
 
 
 
 
 
 正直、見られたくはなかった。
 それくらいに納得のいくスケッチでは無かったから。
 

 自分でさえ納得のできないスケッチを見たニノが何を言うのか、怖かった。
 聞きたく、無かった。
 
 
 
 だけどニノは予想もしないことを言った。
 
 
 
 
 
 
 
N「大野さんの職業は、絵描きさんだったんですね」
 
 
 
 嬉しげにおれのスケッチを見つづけている。
 

 ニノは、絵なんか描いたことが無い素人だ。
 それなのに、ただのスケッチを見て、おれが絵で生計をたてているって、疑いもせずに納得していた。
 
 
 

 それを見て、すごく感動した。
 自信をもらった。
 
 だってそれは、おれの絵に何かを感じてくれたという証拠だから。
 その瞬間、失いかけていた情熱が体の中を駆け巡り始めた。
 
 
 
 目の前のニノは、「他のページも見ていいですか?」っておれに許可を求めてくる。
 動揺しながらも「ああ」と頷いたら、嬉々としてページをめくり始めた。
 

 おれの描いたスケッチを見るニノ。
 そのニノに、今まで描いてきた絵を見てもらいたいって思っている自分に驚いた。 
 だって誰に対してもそんなこと思ったことなかったから。
 
 
 
 
 

 おれのことを"絵描き"と表したニノ。
 画家でもイラストレーターでもなく、"絵描き"。
 
 
 

 感動しながらも、ハッとした。
 

 絵をかきはじめたチビのころから、おれは単なる"絵描き"なんだ。
 自分が思うままに描くだけの、ただの"絵描き"。
 
 
 
 絵でお金をもらえるようになってから、そのことを忘れていた。
 依頼された絵を描くことに意識が行き過ぎていて、なんで絵を描いているのかという根本的なことを忘れていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 実はニノに出会う少し前から、スランプになっていた。
 今までの人生の中で初めてのことで、どうすればいいのかわからず焦りだけが募っていた。
 

 そんな時に見つけたのが、ニノ。
 絵を描くことだけにしか興味を見いだせなかったおれが初めて興味を抱いた人間。
 
 
 

 あの時、ニノに声をかけた自分を褒めてやりたいほど、会えば会うほどニノへの興味が膨らんでいた。