クラバートのブログ

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2010~すきまの時間に読んだ大切な本たち(絵本・児童書中心)のなかから選んで、紹介します。小学校の図書室を16年勤務後、現在も読み続けています。

 

本書は動物学者であり、現在はグリズリーや狼の保護、湿地の保全活動を行っているディーリア・オーエンズ69歳の小説デビュー作です。テーマは「人間がどれだけ自然から学ぶことができるか」(インタビュー記事「好書好日」喜久知重比呂作2022.7.15ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」映画化記念インタビュー 「カイアはみんなの中にいる」|好書好日 (asahi.com)より)、タイトルのザリガニの鳴くところとは「生き物たちが自然のままの姿で生きている場所」(P155)の例えです。

 

 自然の描写、動物たちの生態など知識に裏付けられた安定感があります。もちろん主人公カイアの力強い生き方、謎解きの面白さも秀逸です。1500万部突破のベストセラーとなり、2020年に映画化。日本でも2021年本屋大賞翻訳小説部門一位を獲得されています。

 

「カイアが生物学の本のなかに探しているのは、なぜ母親が子供を置き去りにすることがあるのか、という疑問を解いてくれる言葉だった。」(p183)。カイアは父親のDV、家族離散後、母親からの連絡がなかったことを根に持ち、書物から答えを得ようとしますが、最終的には自らの体験から答えを導き出します。私には、幼馴染の青年、愛する裕福な家庭の青年との駆け引き・執着はまどろっこしく、カイアの出した答えも理解の範疇を超えるものでしたが、動物(行動)学者から見た「人間カイア」の行動は、すべて理に適うものだったのかもしれません。

 

先月、作者の原点ともいわれているノンフィクション『カラハリが呼んでいる』に挑戦しました。動物行動学を学ぶ若い研究者として、夫マーク・オーエンズ(のち離婚)とともにアフリカ南部ボツワナのカラハリ砂漠で、7年間にわたって野生動物を調査した膨大な記録です。共著です。過酷な状況の中で若い二人が生きぬいた証でもあります。そうして再び『ザリガニ・・・』に戻ってみますと、砂漠で遭遇した野性動物の生態や具体的エピソードが所々に出てきて頬が緩みました。

 

 

 

余談ではありますが、元夫マーク・オーエンズはザンビア政府から密猟者を容赦なく射撃したことで非難され、ディーリアも尋問のため出頭を求められました。ABCテレビは1996年に「死のゲーム:マーク・オーエンズとディーリア」という番組を放映しています。元夫の正義とカイアのそれを重ねてしまうことはやや強引な気もいたしますが、どこか引っかかりました。「生物学では善と悪が基本的には同じであり、見る角度によって変わるものだと捉えられている。」(P198)このメッセージも作品を読み解くヒントになるかと思われます。

 

 

 

 

ディーリア・オーエンズ作 友廣純訳 早川書房 2020.3.15初版発行(『WHERE THE CRAWDADS SING』 2018)