「やめでぇぇーーいやだぁーーー」



「お前が悪いんやろうが」
 



そう言って父は私の目の前で
兄を浴槽に沈めていた。








私はとある県のとある田舎町に生まれた。

1つ年上の兄は知的障害を持っている。




若くして親になった父にはそのことを受け入れる力がなかったのかもしれない。




父はことあるごとに兄を過剰に叱っていた。




きっと"普通"の息子に育てたかったのだろう。




でも、障害には勝てなかった。

それが歯痒くて
怒りの矛先を兄に向けたのだと思う。







小学4年生の夏休みのある日、


兄は、父に食べてはいけないと言われていたアイスを食べてしまった。



仕事から帰宅した父に、


「お前が食べたんか?」


と聞かれた兄はとっさに


「僕じゃない」


と嘘をついた。




しかし、兄の部屋からアイスの棒が見つかった。




父は兄を庭に連れ出し、
ゴルフクラブで頭を殴りつけた。






そして泣く兄をリビングに正座させ、
何度も蹴り倒した。




「泣くな。泣いたら蹴るぞ。」


そう言って、泣く兄を何度も何度も蹴り倒した。





「嘘だけはつくなと言ったやろうが。」





「ごめんなさい。嘘をついてごめんなさい」



泣きながら、恐怖で、ほとんどなんて言ってるか分からなかったけど、兄は多分そう言っていたと思う。





母も私も、父のことが怖くて止めようなんて思わなかった。
ひたすら暴力が終わるのを待つしか無かった。









(兄はアイスを食べただけなのに·····)




少し離れた場所からそれを見ていた私の頬を涙が伝った。




すると父が私を見てこう言った。





「なんでお前が泣くんか?」





「お兄ちゃんがかわいそう·····」


そう、ささやきに近い声を漏らした私に父は


「こいつが悪いんやろうが」




と一言、言い放った。













また、ある冬の日


父が私と兄2人に買ってきてくれたきな粉餅を兄が全部食べてしまったことがあった。




そのときも父は兄を執拗に怒鳴り、


最終的に、リビングに出していたストーブの上で鉄のスプーンを熱し始めた。





父は兄にズボンを脱がさせた。




そして熱くなったスプーンを兄のお尻に当てた。








兄は強くなっていた。泣かなかった。

というより、もう感情が擦り切れていた。







私も、涙が出なかった。


私の場合は 父を怒らせる兄に対して怒りの感情すら湧いていた。





母はそのとき初めて泣いていた·····