新宿のネオン煌めく繁華街から少し離れた場所にある小さな公園。夜になると、そこには夜の商売をする女性たちが集まってくる。彼女たちは華やかな衣装を身に纏い、笑顔を振りまくけれど、その瞳の奥にはどこか寂しげな影が漂っている。

私と夫は、そんな彼女たちの姿を毎日のように見ていた。ある寒い冬の夜、震えながら公園のベンチに座っている女性を見かけた時、いてもたってもいられなくなった。彼女たちは好きでこんなことをしているわけじゃない。きっと、何か事情を抱えているに違いない。

「私たちに何かできることはないだろうか?」

夫と話し合いを重ね、シャッターが閉まったままの小さな商店を借りて、女性専用のシェルターを作ることにした。トイレは清潔に保ち、温かい食事とゆっくり休めるベッドを用意した。そこは、彼女たちが安心して過ごせる場所。誰にも邪魔されず、悩みを打ち明けられる場所。

シェルターがオープンすると、さまざまな事情を抱えた女性たちが集まってきた。夫の暴力から逃れてきた女性、借金に苦しむ女性、家族を失い孤独を抱える女性……。彼女たちは、桜の花が咲き誇る春、新緑がまぶしい夏、紅葉が美しい秋、雪がしんしんと降る冬、それぞれの季節の中で、それぞれの物語を紡いでいく。

シェルターの名前は「桜」。彼女たちが、いつか桜のように美しく咲き誇ることを願って。

ある日、シェルターに一人の若い女性がやってきた。彼女は、両親の借金を返済するために夜の仕事をしているという。

「こんな生活、もう嫌だ。でも、他にできることがない……」

彼女は泣きながらそう訴えた。私は、彼女の手を握りしめ、優しく語りかけた。

「大丈夫。あなたは一人じゃない。私たちが、あなたを支えるから」

彼女は、私の言葉に励まされ、少しずつ笑顔を取り戻していった。そして、シェルターで知り合った仲間たちと支え合いながら、新たな道を歩み始めた。

桜のシェルターは、今日も静かに女性たちを受け入れている。彼女たちが、この場所で傷ついた心を癒し、希望の光を見つけることができるように。そして、いつか、自分らしく生きる強さを手に入れることができるように。


野原サクラ