桜の季節、夫の新たな挑戦が始まった。

夫の会社には、社員が国内外の大学で学べる留学制度がある。給料をもらいながら、学費も会社が負担してくれるという、なんとも羨ましい制度だ。夫は専門学校卒だが、学歴に引け目を感じることはなく、むしろ今の生活に満足している。29歳になった彼は、すでに隠居後の計画まで立てている。厚生年金が満額になったら会社をパートにしてもらって、悠々自適の生活を送るつもりだ。

そんな夫に、会社の人事や部長は毎年「今年こそ留学に行ってほしい」と期待を寄せていた。夫はいつも留学候補に選ばれるのだが、取締役面接の直前で辞退してしまうのだ。しかし、今年は違った。取締役が提示した条件が、夫の心を動かしたのだ。

「大学の4年間、仕事をしなくていい。中学高校みたいに一日中拘束されるわけじゃない。卒業できるだけの勉強をすれば、あとは好きなことをやっていいんだ」。この言葉に、夫はついに首を縦に振った。義父の農業を手伝いながら、大学で新たな知識を身につけることができる。夫は工学大学の社会人入試を受け、晴れて大学生となった。

満開の桜の下で、私は夫の新たな門出を祝福した。彼は、桜のように、自分らしく、そして力強く、新たなステージへと進んでいく。


野原サクラ