桜の季節、夫の意外な一面を再発見した。

夫は普段、お酒をほとんど口にしない。会社の飲み会でも、どんなに誘われても断り続け、ただ話を聞くだけ。そんな夫が、唯一心を許して杯を交わす相手がいる。それは、ホームレスの人たちだ。月に一度ほど、彼らと酒を酌み交わし、夜を明かすという。

そんな夫の姿勢が評価されたのか、今では社長の運転手を任されている。以前の運転手が飲酒運転で問題を起こして以来、白羽の矢が立ったのが夫だった。社長が飲んでいる間、夫は車で待機し、パソコンで時間を潰しているらしい。

帰り道、酔った社長は夫に様々なことを打ち明けるという。ある日、社長は「Bくんは惜しいな。専門卒じゃなくて、どこでもいいから大卒だったら、うちの経営陣に加えてあげられるのに」と漏らしたそうだ。この会社では、大卒以外は課長補佐までしか昇進できない。それでも、夫は「まだ若いんだから、夜学に行けばいいのに」という社長の言葉に全く興味を示さない。

夫は、学歴や出世よりも、気の合う仲間との時間を大切にしている。桜の花が咲き乱れる中、私はそんな夫の姿を誇らしく思った。彼は、世間の常識にとらわれず、自分自身の価値観で生きている。

満開の桜の下で、私は夫の生き方に心から敬意を表した。彼は、桜のように、自分らしく、力強く、そして美しく生きている。


野原サクラ