映画監督のパク・ジュンイルさんのことは、業界では知らない人はいないだろう。ご両親が日本で成功されたおかげで、巨万の富を築き、その財力を惜しみなく映画製作に注ぎ込んでいる。

しかし、ジュンイルさんの本当の情熱は、古い日本家屋を集めることにあるらしい。ソウルや地方で売りに出されると、まるで宝探しのように目を輝かせて買い付けに行くそうだ。そして、それらの建物を丁寧に解体し、ソウル近郊にある広大なセット村へと運ぶ。

そのセット村は、まるでタイムスリップしたかのような空間が広がっている。日本統治時代の古い建物が立ち並び、まるで当時の街並みがそのまま再現されているかのようだ。うちの息子が出演しているドラマの撮影にも、このセット村が使われている。

息子は、ひょんなことからジュンイル監督と知り合い、ドラマ出演のチャンスを掴んだ。役どころは、日本で暮らす在日韓国人の小学生。息子はまだ小学3年生だが、監督の目に留まるほどの才能があったのだろう。

撮影が始まると、息子はたちまちセット村の風景に魅了された。まるで自分が本当に日本に住んでいるかのような錯覚に陥るほど、リアルな空間が広がっていた。

ある日、息子は撮影の合間に、桜の木の下で一人佇んでいた。満開の桜の花びらが風に舞い、まるで雪が降っているようだった。その美しい光景を目に焼き付けながら、息子はふと、自分のルーツについて考え始めた。

「僕は韓国人だけど、日本にもルーツがあるんだ。この桜の木のように、二つの国に根を張って生きているんだ。」

息子は、桜の木を見上げながら、そう心の中で呟いた。そして、この経験を忘れずに、これからも俳優として成長していくことを誓った。


野原サクラ