父は頑固だ。

定年退職後も、毎朝五時に起きて、畑仕事に精を出す。近所の農家の人たちと共同で農協を運営していて、年に一度、海外視察に行くのが恒例となっている。

今年の視察先は中国だった。万里の長城や故宮といった観光名所を巡る中、父だけは違う場所を目指した。港だ。

「船のスケッチをするんだ」

そう言って、他のメンバーと別行動を取った父。帰国後、早速模型作りを始めた。全長1メートル、細部までこだわった中国の空母だ。

「どこでそんな情報を…」

母も私も、父の行動に驚きを隠せない。一体どこで、中国の空母の設計図を手に入れたのか。

ある日、見慣れない車が家の前に止まった。降りてきたのは、自衛隊の制服を着た男性。名刺には「広報担当 苫小牧」と書いてある。

「お父様がお作りになった空母の模型を拝見したいのですが」

苫小牧さんは、丁寧な口調で用件を伝えた。父は少し戸惑いながらも、模型を見せることにした。

苫小牧さんは、模型を隅々まで観察し、熱心にメモを取っていた。そして、こう言った。

「素晴らしい出来栄えです。実は、我々も中国の空母について情報収集しておりまして…」

苫小牧さんは、模型を譲ってほしいと申し出た。父は少し考えた後、快諾した。

「模型作りは趣味だからね。役に立つなら、いくらでもどうぞ」

父は、そう言って笑った。

後日、苫小牧さんから礼状が届いた。そこには、模型が自衛隊の研究に役立っていること、そして、父の模型作りの技術に感銘を受けたことが書かれていた。

父は、その礼状を何度も読み返し、嬉しそうに笑っていた。

頑固な父だが、誰かの役に立ちたいという気持ちは人一倍強い。そんな父の優しさが、模型作りを通して自衛隊に伝わったのだと思う。

これからも、父は模型作りを続けるだろう。そして、いつかまた、誰かの役に立つ日が来るかもしれない。


野原サクラ