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    竹松のいない守人会議 1

   8-1



「よお」
「待たせてあい済まぬ」
「やっほ~~」
「何なんだよ、一体・・・」
「ここかあ・・?」
「おー」
「あ、アニキと角之進さん」
そこには7人の守人たちが集まっていた。


熊獣人・孫兵衛
タヌキ獣人・八助
虎獣人・虎三太
猪獣人・万十
猪獣人・大腹
狼獣人・布袋 輝之助
ゴリラ獣人・豪原 角乃進

そして、遅れてやってきたのは・・・


「悪い、雑事に少々、手間どってしまってな」
虎三太の叔父でもあり、本来なら守人の1人でもある虎五郎だった。

「何だよ、オジキ、こう見えてもオレも結構、忙しいんだぜ」
「大丈夫だ、手短に終わるから心配ない。さて・・・」
「ちょっと待て、虎五郎、これは守人の会議なのだろう」
「そうだが」
「ならば、竹松を忘れている。あいつ抜きでの会議など・・・」
「いや、これはあいつ抜きで始めなくてはならん。なぜなら、議題は・・・
”どうやって、あいつを追い出すか?”
なのだから・・・」
「へえ~~何か、面白そう」
ノッている八助、ニヤニヤ笑う虎三太。

しかし1人だけ・・1つだけ空っぽの椅子を眺め、不機嫌になっている男がいた。
そして彼の不機嫌度は、会議が進行するにつれ、ますます深まっていった。


「竹松・・・あの男をオレはこの獲土から追いだしたい、力をかしてくれるか?」
「ああ・・」
「もちろん」
「まあ、やってもいいぜ」
「分かった、力をかそう」
大半の守人が賛同の意を表す中、1人だけ違う意見の者がいた。
「・・真っ平だな」
「あん?」
虎三太はじめ、全員の視線が集まったが、男は・・熊獣人は動じず、じっと前を見据えていた。
「そんな弱い者いじめなど、真っ平だと言ったのだ」
「ハッ!普通だろ?弱ェヤツをいたぶることなんざ」
「したいなら勝手にすればいい。ただ・・オレはごめんだ」
のっそりと席を立って出ていこうとする熊獣人に虎三太が言葉を投げつける。
「お前、変わったじゃねえか、孫兵衛、まえはすっげえ無口で、何事にも無関心だったくせによ」
「別にいいじゃないか、人の勝手だろ」
「原因はあの竹松だろ。妬けるねえ~~」
「もし、あいつにちょっかいを出そうと考えているのなら・・まず、全力のオレと鬼たちを敵に回すことになる。
よく考えて行動することだな・・・」
「おい、孫兵衛!」
「とにかくあいつは・・竹松はオレが守る。オレしかあいつを守ってやれるヤツはいないんだから・・」
「おーおー、坊やのことがママは心配でたまらないってか。笑えるねえ・・クッ、クッ、クッ・・」
「虎三太・・ケンカをうってるなら・・かうぞ」
「出ていくなら勝手に出ていけ」
「おい、孫兵衛」
虎五郎が、彼にしては穏やかな声で呼び止めた。
「オレに楯突(たてつ)いたヤツが一体、どうなるか・・後でみっちり教えてやるよ・・」
「・・・・・」
孫兵衛は、一同をじっくりとにらみつけてから・・静かにドアを閉めた。


ドアの音が消え去ると、虎五郎は難しい顔でこちらに向き直った。
「さて・・どうするか・・」
「いいよ。あいつを消すのはオレがやる」
一番、隅に座っていたためほとんど目立たなかったイノシシ獣人が。立ち上がり発言した。
「消す?いや、その必要はない。この獲土から追い払えば・・・」
「手ぬるい、そんなことじゃ許せない」
ダイフクのねじ曲がった憎悪の炎はどんどん勢いを増していった。
「あいつは・・オレの兄貴を奪った・・オレから兄貴をとりあげた・・殺す・・殺す・・殺してやる!!」
「どうやって?」
「そんなの簡単さ。仕事中に事故がおこる・・そして人が1人死ぬ・・別に珍しいことじゃないだろ」
そう言うとダイフクは足早に歩き去っていった。
フッと、辺りの空気がゆるん・・いや、だれた。
「・・これであいつもおしまいだ。暴走する妄想ほど危険なものはないからな」
「はい、拍手~~・・相変わらず外道で狡猾。人を思い通りに動かすことにかけちゃ、天才的だよなあ~~オジキは」
「自らは手を汚すことなく、口先一つで人を動かし人を殺す。なかなかできることじゃない」
「おいおい、何を言ってるんだ、オレは何もしちゃいない。ただ、ダイフクが勝手に動いただけだ」
「いやいやーーなかなかできることじゃないよお・・」
「そんなにほめるなよ・・照れるじゃないか・・・」
「ちょっと・・やりすぎじゃねえのか、虎五郎」
さすがに気がとがめた万十が口を出したが、彼はただ冷たい視線を向けただけだった。
「オレのやることに口出しはするな」



虎五郎はテーブルの上に置いてあった、一枚の紙を取り上げた。
守人全員の顔写真と名前が書いてある。そして・・竹松だけ、×印がついている。
「オレの計画の邪魔をするヤツは・・消えろ」
彼は、孫兵衛の顔にも大きく×印をつけた。

   二十一、天獄の夜・・・2


みに「すっげええ・・・」
「な、一食抜いて、正解だっただろ」
無言でうなずいた竹松の腹がグ~~と鳴った。
初めて見る、においも見た目もうまそうな料理の数々に、彼は興奮しまくっている。


「あれはステーキ、あれは鶏唐(とりから)、あれはブタのしょうが焼き・・」
「あれはエビのチリソース、あれは春巻、あれはギョーザ・・」
両隣の万十、八助、2人の食い意地のはった守人が、一つ一つ並んだ料理の説明をしてくれた。
その度に竹松はコクコクと首を振ると同時に、よだれを飲み込んでいる。


「お~~い、お前、酒はいけるクチかい?」
コックリとうなずくのを見て、虎獣人がニッコリと人のよい笑みを見せる。
「そいつはよかった。ほれ、これが日本酒だ・・”丹頂”に”ずいずいずっころばし”。
”荒磯”に”瀑布(ばくふ)”、”おっとっと”もあるぞお~~」
(何だ、虎三太って思ってたほど悪いヤツじゃねえ。誤解してすまなかったな・・)
「これは、外国の酒でビール、こっちはワインにウイスキー、ブランデーもあるぞお・・ほれ」
「お・・すまねえ」
虎獣人からグラスを受け取った竹松は、なぜかクンクンとにおいを嗅いだ。


「おい、何やってるんだ」
「いや・・やっぱ、外国の酒だけあって変なにおいがするなあって・・」
「ハハハ、そりゃそうだろ。ほれ、グッといけ、グッと」
「お・・おう・・」
ゴクッ・・ゴクッ・・ゴクッとのどが鳴る。
強引な勧めもあって口をつけたものの、竹松にはその酒はあまりおいしいとは思われなかった。


(まだ人間のくせに・・いやに勘がいいな。今のところ、こっちを信用してるから、あっさり飲んだが・・
テルの野郎より扱いにくい。さすがはカミサマに選ばれた”守人”ってことか・・・)
虎三太の視線の先には、今日の主役がいた。
彼はたくさんの人々のあいさつと祝福を受けて、戸惑いながらもうれしそうに頭を下げている。
もうじき、その笑顔が消えるとも知らずに・・
「・・カミサマ、か・・・・・」
一人そっとつぶやく虎三太の口調は、珍しく哀れさを含んだ、奇妙に苦々しいものとなっていた。



「何だ、ずいぶん、楽しそうじゃねえか」
「あ・・ああ・・・」
(こりゃあ、オレの取り越し苦労だったかな)
あれだけ心配していた虎三太も孫兵衛が後ろで目を光らせているせいか、
それとも彼自身に何か思惑があるのか、いやに大人しかった。




「・・それでは、この獲土に新しい守人が来たことを祝して・・乾杯」
「かんぱーーい」
虎五郎が、その堂々たる風格でグラスを差し上げると、一斉に拍手が起こった。


「今宵は祝いの宴(うたげ)だ。さ、みんな、どんどんやってくれ」
言われなくてもみんな、食ったり飲んだり、歌ったり踊ったりと騒ぐのに忙しい。
「では、やってきた守人、竹松君からみんなに一言、お願いします」
「おい・・・おい、竹松、お前だよ」
「え・・何、何、何??」
万十にそっとひじを小突かれた竹松は、危うく酒にむせるところだった。
何が何やら分からずに、小パニック状態に陥る。


「スピーチだよ、スピーチ」
「な、何だ、それ?」
「何でもいいから、一言、言えばいいんだよ」
兄貴の隣にいたダイフクが、うんざりした声で説明する。


「え・・えーーーッと・・・・・」
立ち上がった竹松は、みんなから見やすいようにしつらえられた段の上に立ち、
渡された黒い棒(マイクというそうだ)を手にし、そこで・・固まった。


(な・・何、言やいいんだ・・)
今までこれほど大勢の人々の目にさらされたことはない。
緊張のあまり体は強張り、のどはカラカラ。
今、誰かに押されたら、そのままぶっ倒れてしまいそうだ。
「おーーい、早く話せよお・・」
「大丈夫だ、竹松、大丈夫」
低いが落ち着いた孫兵衛の声が・・目が・・スーーッと心を沈めていく。
(た・・たしか、何でもいいんだよな)
「えーーッ・・おやすみ」



   ガダダッッ



ずっこけたのは、およそ半数だろうか。ノリのいい国民だ。


「お、お前、何、言ってんの」
「え・・だって・・一言言えって・・」
「何で”おやすみ”なんだよ」
「だ・・だってこれ、夜になるとする、あいさつなんだろ」
「正確には寝る前だ」
「ま、あながち間違っちゃいないわな」
食うのに飽きてタバコをふかしていた虎三太が、嫌な笑いをうかべる。
そろそろ待ちきれなくなったのか、いい子の仮面が外れかかっている。


「こら、虎三太!」
「ん?」
「いや、何でもない何でもない」
「おっと、そろそろ守札を受け取る時間だな」
「え・・ちょ・・」
「また後で食えばいい」
片手にハムサンド、片手にカツサンドを持ったまま、竹松は引っ張られていった。




「さ、受け取りなさい。これが君の”守札”だ」
「あ・・ど、どうも・・」
顔の周りに白いヒゲがぐるっと縁取っている神主の獅子獣人が、そう言って渡してくれた。
「もしも失くしても別にあわてることはないからね。ただのお守りと考えてくれればいいよ」
「あ・・あ・・い・・・」
町人の彼にとって、神主はお偉いさん。
緊張するのが当たり前だが、この人はそんな彼の心中を察してか、優しいいたわりの言葉をかけてくれた。


「これが・・”守札”・・」
それは、何の変哲もない木の札。
わざわざ、こんなに恭しいことまでして受け取る価値があるのか?と、思わせるほど、何でもないただの板きれに見えた。


「絶対に失くすなよ」
スッと隣に背の高い影が立った。
「大切な何かを・・誰かを守ること・・・それが”守人”の使命だ。よく覚えておくんだな」
説明してくれたのは、たしか布袋 輝之助とか言った初老のオオカミ獣人だ。
礼を言うと、彼はこちらを一瞥してフンッと鼻を鳴らし、そっぽをむいた。
「別にお前のためにしたわけじゃない。孫兵衛一人では子守りも大変だろうなとおもったまでのことよ」
「何だとおッ!」
「まあ、落ち着け、竹松・・テル、お前も言いすぎだ」
「フンッ・・・」
彼は明らかに竹松のことを軽蔑(けいべつ)している。
(でも・・何でだ?)
その理由がさっぱり分からない。


「じゃあ、行こうか・・」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ」
振り向くと、あの神主さんがわらじをはいて、せっせと駆けてきた。
「まだ、何か・・」
「・・竹松君・・」
「え・・」
彼は真剣な眼差しで竹松の目を見据えてきた。両手でギュッと彼の手を握る。
「いいかい、気をしっかりもつんだ、いいね?」
「あーー・・は、い・・」
それだけ聞くと満足したらしく、うなずいてまた足早に帰っていった。
「ん?」
握られた手のひらにお守りが一つ・・・
「竹松、行こう」
「あ、ああ」




「ほら見ろ、あの2人、すっかりできあがってるぜ」
「ん?」
どんちゃん騒ぎの宴会に戻った竹松は、人ゴミをかきわけながら、
この獲土で知り合った数少ない知り合いに誰か会わないか、一生懸命、探していた。
孫兵衛も一緒についていこうとしたのだが、”子どもじゃねえんだし・・”
と竹松が言ったのと、知り合いにお神酒を勧められたため、断れず、
「あまり人のいないところにいくんじゃないぞ」
と忠告をして、仕方なく1人で歩かせた。


(まあ、あいつらもこんなに人のいるところでは、妙な真似もすまい)
そして見つけたのが、何と、黒鬼の彦兵衛。
「よお・・」
「うげッッ!」
もちろん、鬼たちも宴会には加わって、さかんに飲み食いしていた。
ここは、寺の敷地内。
鬼たちも心得ていて、悪さをすれば神罰が下ると分かっているため、彼らは大人しくしていた。
人間や獣人に化けているヤツもいれば、元の姿で歩きまわっているヤツもいる。


で、彦兵衛はというと・・
「・・くそっ」
化けるのが面倒くさいと、そのままの姿で歩き回っていたのが、まずかった。
当人は苦虫をかみつぶしたような顔になり、急いで逃げ出そうとしたが、
竹松が手招きすると、しぶしぶ彼のそばへ寄っていった。


「ちょうどいい、ちょっと肩、借りるぜ」
「へ?」
「よいしょっと・・」
身軽にスルスルと上っていった竹松は彦兵衛に肩車してもらい、探しはじめたのだ。
その姿は、いやでも全員の目につき、注目の的になった。


こ・・こいつ、わざとやってるんじゃねえだろうな・・


「おッ・・いたいた」
見ると八助が見事な宙返りを見せながら、でたらめな歌を歌っていた。


おちゃらけ音頭


?馬の耳におはようさん アジサイの花にゴメンナサイ
ステーキ3番、ギョーザが2番、鶏の唐揚げ1バンバン
おちゃらけおちゃらけ、おちゃらけ音頭
おちゃらけ音頭でヨイヨイヨイ


そしてその横では少し小高いところに立った万十が、自慢のボディーを見せびらかしている。


出っ腹バカの歌


オレの出っ腹 どてっ腹 誰でもおごる太っ腹♪
たまには痛む 横ッ腹 頭の中はパラッパラッ


「今日はとっても気分がいいんだ。みんなを抱きしめてチューしたいくらい」
ちょうどいい高さに来た彦兵衛に、上機嫌の万十が唇を迫ってきた。
「・・・やめろ」
「ほれ、これ食うか?」
そう言って、小鉢に盛ってあるひじきと大豆の煮物を勧めてくる。
「豆はだいずにだいずに食うもんだ・・なんてな。ガッハッハ」
酔っ払った万十が、今度は太いごつごつした腕を竹松の首に回してきた。
「いいかあ・・これからの時代はもっとグローバルでスタンダードにいかなきゃあなあ・・」
「お前、意味、分かってんのか?」
静かに酒を飲んでいた輝之助が、冷静なツッコミを入れる。
「いや、全然」
「・・だと、思った」
ガッハッハ・・また、万十の豪快な笑いが辺りに響きわたった。




ゴーーーーン


「ん?」
竹松は、焼酎を飲んでいた手を止めた。そして・・立ち上がる。


ゴーーーーン


「おッ・・」
「やあっとか・・」
八助が宙返りをやめ、虎三太がいすから立ち上がり、伸びをする。


ゴーーーーン


「時間だよ、兄貴」
「うん?ああ、分かった」
ダイフクに引っ張られた万十は、ブルッと体を震わせた。


ゴーーーーン


「いくか」
「ああ・・」
布袋 輝之助と豪原 角之進の2人は、寺の庵(いおり)へと歩いていく。


ゴーーーーン


「・・・・くッ・・・」
小さな声で孫兵衛が低いうめきをもらす。


ゴーーーーン


陰鬱(いんうつ)な鐘の音が夜の闇に余韻を残す。


「終わりだ・・」
「はじまりだ・・」
「始まった・・」


皆がざわめきだす。
さっきまであれほど騒いでいた人声が途絶え、だんだん静かになっていく。
そして1人去り2人去りと境内からいなくなっていく。


「楽しい宴会だったなあ・・みんなもいいヤツばかりだし・・」
トイレにいた竹松は、この鐘の音を聞いてこれが宴会が・・儀式が終わる合図だという解釈をしていた。
ようやく守人たちに気を許した竹松の肩を、誰かがたたく。


「ん?」
「パーティーは終わった・・これから、本当の儀式の始まりだぜえ~~・・」
ようやく味わえる快楽と嗜虐(しぎゃく)に虎三太の笑いは口が裂ける程、不気味なものとなっていた。