≪ 江藤 ≫
そいつは、空也と供に来店した翌週から3日に一度は葡萄家にやって来た。
もう1ヶ月になる。
最初は空也と待ち合わせかと思ったものだが、そうではないらしい。
有名な映画監督の息子で、
空也の従兄弟の 相馬 久芳 が所属する映研の先輩で監督で、
あの日、空也とヤった奴。
そいつは6席だけあるカウンターの端に座り ”本日のパスタ” を食べた後、コーヒーだけで3時間以上粘る。
(うちはファミレスじゃねぇっつうの!)
葡萄家はイタリアン・レストラン、しかも地域じゃまぁまぁ有名な店だって言うのに、
ファミレスよろしく居座って、ノートを広げてずぅっと何やら書き込んでいる。
コーヒーのお替わりを注ぎに行ったときにチラッと見たら、4コマ漫画みたいな絵を描いてた。
シャーペンを走らせる指は長く、手の甲に浮き上がった青緑色の血管が酷く大人っぽく見えた。
『挿入の前に指でイッちゃったけど。』
この指が、空也のアソコを・・・。
「盗み見は良くないなぁ?」
ふいに顔を上げたそいつに笑顔で言われて、心臓が止まりそうになる。
「ぁ、すみません、つい・・・。」
「これね、映画の絵コンテ。 建物でいったら設計図、芸人でいったらネタ帳。
つまり、すごぉくプライベートで大事なものなんだよね。」
「はぁ。」
「君が主役のお友達だからって、安易に見せられるようなものじゃないわけ。」
「主役の・・・って、空也が主役ってことですか?」
「ショート・フィルムだけどね、彼に出て貰うことになってる。」
そう、なんだ・・・。
まさかあいつ、主役取るために枕営業したわけじゃないだろうな?
「空也君が初めて銀幕に出た作品を観て、
彼の華やかな外見から漏れ出る闇を撮りたい・・・って思って台本を書いたけど、
いざ彼とセックスしたら、僕の彼へのイメージが全て引っ繰り返されてしまって、ね。」
そいつは愉快そうに微笑む。
「僕はね、空也君は凄く計算高い子だと思ってたんだ。
例えば、 『桜の花びらを掴んだら願いが叶う』 なんてジンクスを話したら、
本気で花びらと格闘する振りをして見せて、
『あなたの願いが叶うことを祈る』 なんてさらっと言ってのける様な。
そんな可愛い振りをして、本当は、
爽やかに微笑みながら蜘蛛を握り潰せる子だろう・・・ってね。
ところが、それこそが外見に合わせて作り上げられた ”空也” という偶像で、
現実の彼は、蜘蛛を両手で包んで窓から逃がしてやるような子だった。」
何が言いたいのかよく分からない言い回しだったが、
少なくとも空也は、蜘蛛を握り潰すような猟奇的な面は全くもって持っていない。
画面を通すと、猟奇的な奴に映るんだろうか。
「素の彼とずっと一緒だった君には分からないだろうね、
”空也” という商品がどう世間に映っているか、なんて。
短期間で素の彼に触れるには、セックスが一番の近道だった。 快楽は、本質を曝け出すからね。
彼を抱きながら、空也君には蜘蛛は殺せない、って確信したよ。
彼のピュアな部分を映し出したくて・・・お陰で、台本を一から作り直しだ。」
『一から作り直しだ。』 と言いながら、そいつはとても楽しそうだ。
「此処に来ると、ピュアな空也君が思い出されて、筆が進むんだよね。」
此処での空也は芸能人ではなくてただの二十歳の男で、こいつ曰くピュアな素の空也だ。
その時間は彼にとって凄く特別なもので、大事なもので。
それをフィルムに晒そうとするこいつは、空也を餌食にするハイエナの様に思えた。
「君は、空也君とセックスしたことあるんでしょ?」
・・・はっ!? 突然何を言い出すんだこいつはっ!
「君にとってセックスは性欲か、或いは形而上の愛云々の果ての行為かもしれないけれど、
僕にとっては、相手を知るための手段に過ぎない。」
ますます意味が分からない。
こいつは何が言いたいんだ?
「まぁ、頑張ってよ。」
頑張る・・・って、何を?
「そんな焼き殺すような目で僕を見たって、彼は手に入らないよ?」
・・・ムカつく。
分かってる、空也と寝たこいつにいくら嫉妬したって、何の意味もないことを。
それでも、ムカつくものはムカつくんだから仕方ないだろう?
「ご馳走様、また来るよ。」
来なくていいっ!
って言うか、二度と来るなっ。
「またのお越しを、お待ちしております。」
儀礼的に笑顔を作りながら、奥歯が軋んだ。
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すみません、1時間遅刻です(汗
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