昨日まで聞いたことのなかった言葉を、初めて聞き、同じ日に、
それも違う媒体で、見たり聞いたりすることがありました。
ちょっと前のことになりますが「加齢臭」という言葉です。
中高年に特有の体臭といった意味で使われていて、
その対策には、この製品をといった感じで使われていたように記憶しています。
若いころは父親や年配の方に、なんとなく感じていましたが、
煙草や、お酒、整髪料などのにおいが混ざり合ったものだと思っていました。
現在の自分ではほとんど意識したことがありませんが、
それが「匂い」ではなく「臭い」であると言われれば、
心穏やかではなくなります。
この言葉ほど、はっきりした記憶はありませんが、
草食系男子、女子力、インスタ映え、おひとりさま、
などなどいくつも思いつくものがあります。
こういった言葉は誰かが考え、意図的に広めたもののような気がしていました。
例えば先ほどの「加齢臭」は資生堂が命名したものだそうです。
同社の製品開発センターの調香師が中高年の集まりで、
感じる独特のにおいが気なったことがきっかけとか。
各年代に同形のシャツを着てもらい、付着した体臭を分析して、
年齢とともに増える原因物質を特定したことに始まるもののようです。
化粧品会社が、不安とその解決手段のデオドラント製品をセットにして広めた。
その他の言葉もそうに違いないと考えておりました。
でも、どうやらその考え方は違うようです。
「欲望することば」(集英社新書)によると、
人間はなんとなくこんな風にしたい、あるいはあんなふうになりたくない
などの欲望をうまく言語化できない不器用な存在である。
そのくせ、それが具体的な品物や、言葉になって現れると、
これが欲しかったとか、そうこういうことなんだと合点して、
便利な道具として製品や言葉を使い始める。
ということらしいのです。
もやもやしていたものがすっきり姿を現すようなものでないと、
大勢の人には認知してもらえないようです。
これまで挙げた言葉以外にも、イクメン、美魔女、スーパーフード、
下流社会、リア充、公園デビュー、ブラック企業、自撮り、終活など、
そういう言葉の群れを、私はある日突然聞き始める言葉と呼んでいました。
これも、前掲の本ではもっともらしく「社会記号」と名付けられ、
あれこれ、分析、考察しています。
まさに私の頭の中にもやもやとしてあったものがすっきり一つの基準でまとまり、
まさにそれだよと感じられるものになっていますが、「社会記号」という言葉が、
加齢臭のような大勢の人に使われる社会記号になるか興味のある所です。