伊藤政則が振り返る、プログレッシブ・ロックの時代「『原子心母』は聴いたことがないような音楽だった | 音楽とごはんとお酒のブログ

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伊藤政則が語る、1980年代に入ってからのシーンの変化|Real Sound|リアルサウンド ブック

ソース

https://realsound.jp/book/2025/06/post-2039789_2.html

 

 

ブリティッシュ・ロックは、白人の音楽

 

――1980年代になると、ハード・ロック/ヘビー・メタルに関しては、ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘビー・メタル(NWOBHM)のムーブメントがあり、プログレでもマリリオンなどネオ・プログレのブームが起きます。

 

伊藤:1979年にアンダーグラウンドで新世代によるハード・ロックの動きがあって、アイアン・メイデンが突出して違うことをやっていた。当時ロンドンにいると、マリリオンの話が入ってきた。ピーター・ガブリエル時代のジェネシスそっくりだといわれたけど、僕はその時期のジェネシスを見ていないのもあって、新しい世界だと思った。ネオ・プログレは、けっこう見ました。若手プログレとまとめて呼ばれていたけど個性的なバンドが多かった。1970年代のムーブメントも同様です。なにか起きる時は、4歳くらいの幅でだいたい同じ世代です、ネオ・プログレもNWOBHMも。マリリオンのライブでは、10代、20代前半の客が多かったですね。

 

――本を通して読むと、ブリティッシュ・ロックへのこだわりが印象的です。

 

伊藤:EL&Pのグレッグ・レイクとのインタビューで、プログレッシブ・ロックとはなにかと聞いたら、「自分が音楽をやり始めた時、ブルースやソウルなどいろいろあったけれど、僕がやりたかったのはヨーロッパ人のアイデンティティを強く出したものだった。それを君がプログレッシブ・ロックと呼ぶなら、そういうものなのかもしれない」と彼がいったんです。この言葉がすごく頭に残っている。我々がプログレと認知している形態に黒人はあまりいない。わかりやすく白人の音楽なんです。当然、クラシックから影響を受けている。エリック・クラプトンのような黒人のブルースから多大な影響を受けた人たちとは違う。でも、クラプトンのようなものがあったから、ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンのようなハード・ロックが出てきた。プログレとハード・ロック、この2つだけあれば、僕はとりあえずなんとか生きていけるなっていう。クラプトンがやったのも、黒人が教えてくれた音楽を白人流に構築したものでしょう。ツェッペリンのジミー・ペイジは、ブルースを自分流に解釈した。そう考えると、ブリティッシュ・ロックは、白人の音楽なんだよね。黒人のブルースではなく、白人のブルース・ロックだ。

 

――1980年代にクリムゾンが再結成した時、オリジナル・メンバーだったレイクは、「今のバンドはアメリカ人がいるからクリムゾンではない」という風にいっていましたね。

 

伊藤:クリムゾンこそ進化し続ける音楽ですよ。アメリカ人を入れたり、スタイルを変えたり。ちょっと話がそれるけど、なにか新しいことが起きると、1970年代には同時多発的に広がるにしても国ごとに定着して形になるまで数年かかった。今はインターネットがあって違うけど。例えば、クリムゾン、EL&P、ジェネシスなどをイギリスで見たアメリカ人が、地元に帰り似た音楽を自分のものにしてデビューしたのが1976年とか、それくらいでしょう。自主制作ではなくレーベルと契約してスタジオで金かけてレコーディングするまで、3、4年かかる。1975年頃からアメリカン・プログレッシブ・ロックのブームが起きて、スターキャッスル、パブロフス・ドッグ、カンサスなどが出てきた。カンサスなんてハード・ロックとプログレをあわせた感じで、それがまた各国に広がる。結局ルーツはイギリスだから、僕はブリティッシュ・ロックについて書くことが多いのかもしれないですね。

 

ドリーム・シアター以降、ドリーム・シアターを越えるものはない

 

――本では、プログレにおけるテクノロジーの重要性についても触れられています。

 

伊藤:かつてのプログレは、モーグ博士のシンセサイザーのような新しいテクノロジーと共存していかなきゃならない時代に生まれた。そもそもロックって、テクノロジーの恩恵を受けてロックになっているんです。ローリング・ストーンズとかの初期のロックは、ステージで歌っている最中に、テーブルで飲み食いする人の声も聞こえた。まだ観客の声を消せるほど、バンドの音に物理的パワーがなかった。1960年代末になって強い音を出せるアンプや、それをミックスできるボードで調整して大音量を鳴らせる技術が成立した。ロックがロックとして独り歩きを始めるようになったのは、観客の声が聞こえなくなってからなんだな。例えば、ボブ・ディランだってアコースティック・ギターのフォークからエレキ・ギターに替わって、あれだけ客が衝撃を受けた。

 

――今、プログレと呼ばれているもののなかでも、プログレッシブ・メタルと呼ばれるドリーム・シアター以降と、それ以前とは違いませんか。

 

伊藤:ドリーム・シアターの源流はカナダのラッシュですよ。ラッシュはもともとハード・ロックだったけど、イエスも好きだったから『西暦2112年』のようなコンセプト・アルバムを作った。どんどん進化してポップになったりテクノロジーをとり入れたりした。ドリーム・シアターはラッシュみたいなバンドがやりたくて始まったけど、ドラムのマイク・ポートノイが加入してメンバーにメタリカとかアイアン・メイデンを聴かせ、メタルの要素をまぶしていく。ラッシュやイエスだったところにアイアン・メイデンやメタリカを乗っけるなんて、若かったからできた。それでドリーム・シアターが成功すると、シンドロームみたいにそっくりなバンドがいっぱい出てくる。過去にも繰り返されたことだけど、ドリーム・シアター以降、ドリーム・シアターを越えるものはない。

 

――現在のプログレで特に気にしているバンド、アーティストはいますか。

 

伊藤:スティーヴン・ウィルソンかな。新作『The Overview』は、宇宙飛行士が宇宙から地球を見たという内容で大作2曲のみ。ポップというと顔をしかめるロック・ファンもいるけど、『The Overview』はプログレのポップ要素をうまく打ち出していてよかった。彼は、キング・クリムゾン、イエス、ジェスロ・タルなどプログレ名作のリミックスを多くやっているでしょう。マスターテープを預かってレストア、リミックスする仕事をきちんとできる数少ない1人です。技術があるだけでなく、プログレッシブ・ロックとはなにか、バンドのアイデンティティはなにかをわかってやっている。2025年のリミックスであっても今の音ではなく、1970年代の発表当時の音はこうでしたという形で提示する。なかには無茶苦茶今の音にしちゃう人もいるけど、その同じアルバムに親しんできた人には聴けたものではない。でも、スティーヴン・ウィルソンは聴ける音にできるんです。

 僕は去年、ピンク・フロイドのデイヴィッド・ギルモアがロンドンでソロ・コンサートを行なった時、楽屋でウィルソンと会いました。彼は「デイヴィッドがあれだけ楽しそうに音楽をやっている姿を見られて、本当に嬉しかった」といってた。プログレのベテランには亡くなったり、今はなにもしていない人もいるけど、つまらないやり方でやり続けている人もいる。そのなかで「楽しそうに音楽をやる姿を見られて嬉しかった」という見方をできる彼は、信用できるなと思った。

 日本では今、Evraakや曇ヶ原などプログレのバンドがいろいろ活動しているけど、1970年代前半くらいまでのプログレに触れた人がそこにオマージュしたり、ヒントをもらったりしながら、違う形でいろいろなものを足してやっている。先祖返り的でありながら自分たちの世代で再構築している。プログレッシブ・ロックはもともと進化する音楽という意味だから、時代とともに進化して今につながっていると考えたらすばらしいことだよね? これがどんどん続いていけば、ロック・イズ・デッドにはならないように思いますね。

 

■書誌情報
『伊藤政則 ライナーノーツ集 プログレ編』
著者:伊藤政則
価格:2,200円
発売日:2025年4月14日
出版社:シンコーミュージック