(要旨)

■GDPは国内総生産。作った人に聞いて合計する。

買った人に聞いてもGDP統計は作れる

■GDPの国際比較は国力の比較、一人当たりなら豊かさの比較

財政赤字、政府債務残高等の対GDP比は国際比較可能

実質経済成長率が高ければ失業が減り、景気は拡大

潜在成長率を上回ればインフレ、下回れば失業が心配

 

(本文)

GDPという言葉は、誰でも聞いたことがあると思いますが、「それって何?」と聞かれて説明出来る人は少ないようです。一言で言えば、「国の経済の規模を示すもの」なのですが、それだけではわかりにくいですね。そこで、GDPに関する入門的解説を記してみました。経済初心者にはもちろん、一般の方にもご笑覧いただければ幸いです。

 

■GDPは国内総生産。作った人に聞いて合計する。

GDP統計の作り方は、3通りありますが、国内総生産という言葉に最も相応しいのは、作った人に聞いて合計する方法でしょう。日本には30万円の部品を作った部品メーカー、それを仕入れて100万円の自動車を作った自動車メーカー、それを仕入れて120万円で売った自動車販売会社の3社だけがあるとします。各社に「何円分のものを作りましたか?」と聞いて合計したのがGDPなのですが、ここで作ったというのは「自分で作り出した分」という意味です。これを「付加価値」と呼びます。

 

部品メーカーは部品代金30万円分を作り出していますが、自動車メーカーは、自分で作り出したのは自動車代金100万円から部品代30万円を差し引いた70万円分だけです。自動車販売会社は、自分では何も作っていませんが、100万円で仕入れた物を120万円で売っているのですから、20万円分の価値を産み出しているのです。彼等がショールームやパンフレットを作らなかったら自動車は売れませんから、サービスも立派な生産活動なのです。したがって、当然に理髪もタクシーも大学の講義もサービスの生産としてGDPに計算されている事になります。

 

買った人に聞いてもGDP統計は作れる

上記自動車の3社の付加価値の合計は、自動車の小売価格ですから、この3社に聞く代わりに、消費者に「何円分の自動車を買いましたか?」と聞いてもGDP統計が作れることになります。もちろん、「理髪やタクシーや大学授業料等に何円使いましたか?」とも聞く必要があります。

 

もっとも、それだけでは不十分です。たとえば日本企業が作った自動車が輸出された場合、消費者への聞き取りだけでは漏れてしまうため、税関へ行って輸出された自動車について聞いて、それを加える必要があります。そうした種々の調整を行えば、GDPの出来上がりです。

 

GDP統計の作り方は、今一つあるのですが、省略します。3つの作り方で同じ結果が得られる事から、「三面等価の原則」と呼ばれています。もっとも、若干の誤差は当然あります。その主因は、GDPがサンプル調査に基づく統計である事です。たとえば消費者全員に聞くのではなく、1万人に1人に質問し、回答を1万倍して全国民の消費額を推計したりしているのです。

 

■GDPの国際比較は国力の比較、一人当たりなら豊かさの比較

日本のGDPは、米国、中国に次いで世界第三位です。これは、米国経済の規模が世界一であるという事です。もちろん、洋服の生産量だけであれば中国が世界一でしょうが、米国の得意な物は米国が圧倒的に世界一でしょうから、総合的に判断して米国の方が経済的な国力は上だという事になるわけです。

 

たくさん作っている国は、たくさん使って豊かに暮らしているのが普通ですから、GDP統計は国の豊かさを表す統計としても使われます。作った物の半分を輸出して国民が質素に暮らしている国なんて、聞いた事がありませんから(笑)。輸出入は行なわれていますが、輸出入が同額であれば、生活水準に大きな影響は無いでしょう。

 

もっとも、中国人が日本人より豊かに暮らしているというわけではありません。それは、中国国内で作られた物を多人数の中国人が使っているので、一人当たりの消費量は多くないからです。従って、豊かさの指標としては、一人当たりのGDPが重要だという事になります。

 

細かい事を言うと、為替レートの問題があります。ドル高円安になると、外国の一人当たりGDPが日本より大きくなります。日本人も外国人も生活は今まで通りなのに、為替レートが動いただけで、「外国人の方が日本人より豊かだ」という事になりかねないのです。注意が必要ですね。

 

今ひとつ、途上国は為替レートが安い傾向にあるので、途上国の生活水準は低く見えてしまいがちです。統計的には1日1ドルで暮らしている人が世界中に大勢いますが、日本の感覚で捉えると誤解しますね。彼等は、1日1ドルで暮らしているということは、ラフに言えば、彼等が1日に作り出す物の値段が1ドルなので、彼等が1年間で作る農作物は365ドルで買えるのです。日本より、遥かに物価が安いのです。

 

財政赤字、政府債務残高等の対GDP比は国際比較可能

日本と米国の財政赤字は、どちらが大きいでしょうか?そのままの金額を比べても、あまり意味はありませんね。経済規模が違うからです。米国が日本の3倍の経済規模だとすれば、財政赤字が2倍であったとしても、日本より財政は健全だという事になるでしょう。3人家族で年収900万円の家族と、年収300万円の独身者の家計簿を比べて、前者の赤字が2倍でも、問題は後者の方が深刻でしょうから。

 

政府債務残高についても同様です。これについては、GDPがフローの統計で、残高はストックの統計なのに、割って良いのか、という質問を受ける場合がありますが、家計でも借金が年収の何倍あるのか、というのは重要な指標ですよね。年収は家計の、GDPは国家の経済規模を表すので、残高等のストック統計のGDP比を求める事には意味があるのです。御安心下さい。

 

実質経済成長率が高ければ失業が減り、景気は拡大

経済成長率は、景気論議で頻繁に登場します。経済成長率が高いという事は、昨年より多くの物(サービスを含む、以下同様)が生産されているという事なので、昨年より多くの人が雇われているはずで、失業が減って景気が良いはずなのです。

 

なお、経済成長率には、今年のGDPを昨年のGDPで単純に割った名目経済成長率と、そこから物価上昇率を差し引いた実質経済成長率があります(厳密な計算は少し複雑ですが)。GDPの金額が倍になっても、物価も倍になっていたら、生産量は増えず、雇用も増えず、景気も回復しないでしょうから、景気との関係で注目されるのは実質経済成長率(以下、単に成長率と記す)です。

 

潜在成長率を上回ればインフレ、下回れば失業が心配

成長率がゼロだという事は、昨年と今年と同じ量の物が生産されたという事なので、不満は無いはずですが、この言葉は「ゼロ成長だから不況だ」といったネガティブな使い方をされます。それは、技術が進歩するからなのです。

 

技術が進歩すると、昨年と同じ物を作るために必要な労働力が昨年より少なくて済むようになります。そこで、失業者が増えてしまうのです。従って、ある程度経済が成長しないと不況になってしまうのです。一方、ある程度以上に成長率が高くなると、労働力不足となり、インフレになってしまいます。その分岐となる成長率の事を「潜在成長率」と呼びます。

 

もっとも、成長率が高くなってからインフレ率が高まるまでには、ある程度の時間は必要です。雇用が増え、失業者が雇われて行き、人手不足になって賃金が上がるまで、しばらく時間がかかる事、などがその理由です。

 

ここで技術の進歩というのは、発明発見の事ではなく、使われている技術の水準の事を意味しています。日本の工場は、そこそこの技術水準の機械を使っていますので、最新式の機械に買い替えたとしても、生産性はそれほど上がりません。従って、日本の潜在成長率は低くなっています(0.5%程度ではないかと言われています)。

 

一方、中国の工場では手作業も多いので、機械を導入すると生産性が劇的に改善します。そこで、潜在成長率は7%程度ではないかと言われているのです。中国の成長率が6%という場合、日本人から見ると「羨ましい」と思うでしょうが、中国では「失業が増えてしまう」と焦っている、というわけです。

以上。

 

 P.S.

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