筆者は世論調査の専門家ではありませんが、今回の米国大統領選挙前の世論調査が余りに外れていたのを見て、その理由などを考えてみました。

 

■有権者が本音と建前を使い分けた

最大の理由は、「隠れトランプ」の存在だと言われています。有権者が「本音と建前の使い分け」をしている、という事ですね。世論調査には建前で回答し、投票用紙には本音を書いた有権者が大勢いた、ということなのでしょう。

 

「日本人は建前と本音を使い分けるので、日本人の言うことは信用出来ない」と言う外国人は大勢います。たとえば、「前向きに検討します」が「残念ですが」という意味だったり。しかし、本音と建前の使い分けは、米国人も立派にやっています。

 

「人種差別はダメだ」と言うのは建前ですが、数十年前までは公然と人種差別が行なわれていた国ですから、多くの人々の本音として人種差別意識が残っている事は想像に難くありません。それ以外にも、女性差別意識なども強く残っているのかも知れません。クリントン氏に対して「女のくせに生意気だ」と思っていた(しかし口には出せなかった)有権者も多かったのでしょう。

 

今ひとつ、「トランプ候補の支持層は負け組だ」というイメージがあるので、「自分は負け組だと思われたくない」という人、「自分は負け組ではない」と思いたい人、等も世論調査で「トランプ氏に投票する」と答えたくなかったのでしょう。

 

そうした人々が、世論調査には(及び一部では出口調査でも)「クリントン氏」と答えて、実際にはトランプ氏に投票した、という事なのでしょう。

 

■世論調査には回答し、投票には行かない人が存在

日本の選挙では、若者の投票率が高齢者より低いので、「世論調査に回答したが投票に行かなかった若者」が大勢いると言われています。そうなると、世論調査の結果を選挙結果の予測に用いる際には、「高齢者の回答はそのまま加え、若者の回答は半分を加え、合計の多い方が勝つと予想する」といった工夫が必要になるのかも知れません。

 

米国の事情はわかりませんが、トランプ氏の支持者の方が熱心で、投票率も高かった、という事もあったのかも知れませんね。一般に、現状に不満を持っている人の方が、現状に満足している人よりも、熱心に意思表示しますから。

 

■世論調査の方法を改善すべき

世論調査を対面や電話などで行なうと、「本音と建前の使い分け」をする回答者が出てきます。これは、「誰に投票するか」という質問のみならず、「投票に行きますか?」という質問に対しても起こりえる問題です。

 

それから、上には記しませんでしたが、「負け組の貧しい人々は、携帯電話は持っていても固定電話は持っていないから、固定電話の番号にランダムにかけても、正しい結果は得られない」という問題もあったのかも知れません。

 

そうした問題に対処するため、往復はがきでのアンケートを実施するという選択肢は検討に値するでしょう。回答は無記名とするのです。質問は、「誰に投票するか」と「投票に行くか」という2問とし、「投票に行かないかも知れない」と記した返信に対しては、半分として加算する、といった工夫も必要でしょう。

 

それでも、完璧ではありません。疑い深い人は、本音を書かないかも知れないからです。往復はがきを発送する時に、返信側に見えないインクで(あるいは暗号で)回答者(つまり往復はがきの送り先)が記してあるかもしれない、と考えるわけです。しかし、対面調査や電話調査よりは、遥かに正直な回答が増えることは間違い無いでしょう。

 

出口調査は、タッチパネルで投票した候補者の名前にタッチしてもらえば良いでしょう。タッチパネルを目隠しして、回答者以外には見えないようにすれば良いでしょう。もちろん、それでも疑い深い人はいるでしょうが、対面での聞き取りよりは、遥かにマシでしょう。

 

■インターネットでの投票には問題が多い模様

投票率を上げる(現状に不満な人だけではなく、現状に満足している人にも投票してもらう等の目的)ために、自宅でインターネットで投票出来るようにする、という選択肢があります。しかし、これには問題も多いようです。

 

第一は、不正の可能性です。ハッカーが不正をする可能性もありますが、有権者に金を払ってパスワードを聞き出す「買収」による「代理投票」が容易になるでしょう。

 

第二は、投票の秘密が守られなくなる可能性です。誰が誰に投票したのか、という記録が残ってしまうのです。まあ、疑い始めれば、投票用紙に記入する現在の方法も、筆跡鑑定をすれば誰が誰に投票したか、わかってしまうわけですから、限がありませんが。

 

今ひとつ、インターネット投票で投票率が上がるとは限らない、という話を聞いたことがあります。インターネットが使えない高齢者がいる、という事もありますが、「投票所へ行く事が重要だ」というわけです。

 

日曜日に教会に行く事で、本来の目的以外に「自分が敬虔なキリスト教徒である事を周囲に誇示出来る」「教会に集まった仲間と談笑する機会が持てる」というメリットも享受出来るわけですが、それと同じ事が投票所にも言える、というのです。

 

もっとも、本件については、「従来どおり投票所に来ても良いし、インターネットで投票しても良い」とすれば良いでしょう。2回投票する人がいないように、チェックするシステムを工夫する必要はありますが。たとえば投票所に持参する葉書にインターネットのパスワードを印刷し、その上から「一度剥がしたら貼れないシール」を貼っておき、シールの剥がれた葉書を持参しても投票所では投票出来ない、としておけば良いでしょう。

 

今回は、以上です。