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日銀は、20日と21日の金融政策決定会合で、長期金利(10年国債利回り)をゼロ%に誘導する方針を決定しました。どのような影響が考えられるのか、出口戦略とも絡めて考えてみましょう。

最初に、経済初心者向けの解説を載せてあります。一般の方は飛ばしていただいても大丈夫ですが、復習のために一読いただければ幸いです。

■日銀は金利ゼロの国債を無限に購入することに・・・経済初心者向け解説
長期金利をゼロに誘導するということは、利回りゼロの国債を日銀が無限に買うという事を意味しています。額面100円(満期に100円戻ってくる)、金利ゼロの国債を政府が発行したとします。これを買った投資家Aが、売りに出すとします。投資家Bがこれを100円で買えば、利回りはゼロです。

しかし、投資家Bがこれを90円で買うと、利回りは1.1%になってしまいます。90円で買った国債が10年後に100円で戻ってくるとすると、10年で10円の儲けなので、毎年1円の利益となります。90円の投資で1円の利益なので、利回りは1.1%となるわけです。実際のプロの計算は今少し複雑ですが。

日銀は市場金利がゼロ%になるように誘導するわけですから、これではマズイので、日銀が自分で100円で買うことになります。こうして、市場に売りに出された国債に対して、100円で買う投資家がいない場合には、必ず日銀が買う必要が出てきます。可能性としては、無限に買わなければならないかも知れないわけです。発行済の国債を全部日銀が買ってしまえば、それ以上の売り注文は出ないでしょうから、本当に無限というわけではありませんが。

■ゼロ%のコミットは、偽薬効果狙いかも
日銀が長期金利をゼロ%に誘導することで、物価が上がるでしょうか?市場の長期金利が低位で安定し、設備投資などを促す効果は見込まれるでしょうが、それほど効果が大きいとは思われません。しかも、設備投資を促したいのであれば、誘導目標を発表して自分の手足を縛らなくても、淡々と長期国債を購入して長期金利を押し下げれば良いだけです。

では、なぜ敢えてコミットして自分の手足を縛ったのでしょうか?筆者の邪推ですが、偽薬効果を狙ったのだと思います。「日銀が本気で金融緩和を推し進めている」と市場に思わせることで、市場参加者の株買い、ドル買いを誘い、株高、ドル高による景気回復が物価を押し上げてくれると期待しているのでしょう。

そもそも黒田総裁の大胆な金融緩和で株やドルが値上がりしたのは偽薬効果でした。「金融緩和で市場に資金が出回れば、株やドルが値上がりするだろう」と予想した投資家が株やドルを買ったわけですが、実際には市場に資金は出回らなかったのです。こうした偽薬効果に味をしめて二匹目のドジョウを狙ったのだと筆者は考えているわけです。

今ひとつの可能性としては、長期金利がマイナスならば国債買い入れ額を減らしても良い、という事です。「概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ」ですから、これを下回っても良いわけです。将来的にはマイナス金利の深掘りによって長期金利が大きく低下すれば、資産購入ペースを大幅に落としてくるかも知れません。

■インフレ率が2%に近づいても日銀は買い続ける必要
現時点では、日銀はインフレ率を高めることに集中していますから、出口戦略の事は考えていないでしょう。しかし、いつかは出口を迎えるわけですから、その時の事を想像して見る必要があります。インフレ率が1.9%になり、遠からず日銀が超金融緩和を終了すると投資家たちが考え始めたとき、何が起きるでしょうか。

「今ならば10年国債も5年国債も日銀が100円で買ってくれる(額面100円、クーポンゼロ%)けれども、日銀の超緩和が終了した後では、誰も100円では買ってくれないでしょう。インフレ率が2%で日銀が自然体ならば、遠からず金利は2%程度になるはずだから」と考えた投資家たちは、国債を売りに出します。

売りに出された国債は、投資家たちが誰も買わないので、買うのは日銀です。こうして発行済の国債(残存期間10年以内)はすべて日銀に買われることになります。

今回のコミットがなければ、長期金利は次第に上昇していくだけで、日銀が全部の国債を買う必要は無かったわけですから、ここは今回のコミットの影響が大きいと言えるでしょう。

■日銀は債務超過に転落
発行済国債(残存期間10年以下)を日銀が全部買うことになると、金融緩和終了後の日銀の赤字は巨額に登ります。それは、準備預金(厳密には超過準備)に金利を払う必要が出てくるからです。

物価が2%上昇すると人々が予想している時に金利がゼロであれば、「預金をおろして来年使う物を今のうちに買っておこう」と考える人が増えるでしょう。その結果、物の需給が逼迫してインフレが加速してしまうでしょう。そうならないためには、日銀が準備預金に2%程度の金利を支払い、銀行が預金者に2%程度の金利を支払い、預金者が買い急ぎをしないように誘導する必要があるのです。

日銀の資産は利回りゼロの国債で、負債(準備預金)には金利を支払うとなると、日銀の決算は大幅な赤字となります。ラフに言えば保有国債残高の2%分の赤字ですから、早晩の債務超過は免れないでしょう。

■ただし、政府と日銀の連結決算はそれほど傷まず
しかし、日銀の債務超過を問題視すべきではありません。本来ならば政府が支払うべき金利を日銀が支払っているのです。インフレ率が2%なのに政府は利払をしていません。それは日銀が金利ゼロの長期国債を大量に持っていてくれるからです。

政府と日銀の連結決算で見れば、日銀が準備預金に付利している分は、政府が払うべき金利とほぼ等しいので、連結決算上は大きな問題は無いという事になります。あとは、政府が日銀の増資を引き受ければ良いだけの事です。

■出口戦略で債券市場は混乱するか・・・オマケとしての頭の体操
日銀の緩和終了が近づいてくると、債券市場の参加者たちは様々な事を考えるでしょう。それにより債券市場は混乱するのでしょうか?頭の体操をしてみましょう。

まず、国債先物市場で売建てが増える可能性があります。明日、金融緩和が解除されて長期国債が暴落するという確信が持てれば、国債の先物を売り建てておく事で巨額の利益が得られるからです。しかし、仮に次回の受け渡し日まで緩和が続いていたら、売り方には大きな打撃となります。何しろ発行済国債は日銀が全部持っているのですから、受け渡す債券が調達出来ないからです。

それを考えると、「リスクが無い儲け話」とは到底言えないでしょう。日銀としても、あまりに巨額の先物売りが出てきた場合には、決済日の後まで緩和解除を待つという選択肢がありますから、それをチラつかせて投機筋の動きを牽制するでしょう。そうなれば、大した混乱は起きずに済むかも知れません。

今ひとつ、残存11年の国債はどうなるのでしょうか?クーポン1%、額面100円の国債が100円で取引されているとします(利回り1%)。1年後も緩和が続いているとすれば、日銀が約110円で買ってくれるはずですから、利回り11%の投資ということになります。

一方で、1年以内に緩和が終了すると、保有国債が暴落して大損を蒙ります。利回りが2%になっただけで10%程度の損失です。利回りマイナス10%ということですね。

そうなると、緩和の時期がいつになるのか、という賭けが残存11年の国債市場で繰り広げられることになるでしょう。

もっとも、実際の出口戦略は、利回りがゼロから2%に急変するのではなく、激変緩和措置が講じられるでしょうから、その辺りの読みも加わって、結構変動の大きな相場になるかも知れませんね。

【参考記事】
■日銀は、偽薬効果狙いの量的緩和から、マイナス金利という実弾にシフトすべき(塚崎公義)
http://sharescafe.net/49576104-20160920.html
■株価を上げた「黒田マジックの偽薬効果」が減衰(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48963054-20160701.html
■日銀が債務超過になりそうだが、それが何か問題ですか?(塚崎公義)
http://sharescafe.net/49066392-20160715.html
■金融の超緩和が続くと思い込む事の二つのリスク(塚崎公義)
http://sharescafe.net/49253815-20160808.html
■国債暴落シミュレーション:日銀の債務超過(塚崎公義)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12199547792.html

塚崎公義 久留米大学商学部教授






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