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■はじめに

私は、日本の財政は破綻しないと思っています。しかし、市場参加者が財政は破綻すると考えた場合、国債の相場が暴落することは充分に考えられます。その時、どのような事態に陥り、それがどのように収束するのか、頭の体操をしてみました。

5回の連載を予定しています。まずは初回分をご笑覧いただければ幸いです。ただ、クライマックスは第4回と第5回であり、第3回までは、少し理屈っぽい話が多くなりますので、理屈っぽい話が苦手な方は、第4回と第5回だけお読みいただいても結構です。もちろん、筆者としては全部お読みいただきたいですが(笑)。

第1回の冒頭には、経済初心者用の解説を載せました。一般の読者は飛ばしていただいても結構ですが、復習のために一読していただければ幸いです。

■金利はインフレ率との関係が重要・・・経済初心者向け解説
インフレの時には、人々は「来年使う物も今のうちに買っておこう」と考える(買い急ぎ)。そのために預金を引き出すか、銀行から借りる。そうなると、銀行は日銀に預けてある準備預金を引き出して顧客に支払うことになる。その結果、物が良く売れるので、物価が上昇する。そうなると、人々は一層買い急ぎをするようになるので、インフレが更に加速する、という悪循環に陥りかねない。

しかし、予想されるインフレ率が2%で、銀行預金の金利も銀行の貸出金利も2%であれば、わざわざ来年使うものを今のうちに買う必要はないので、人々は特に何もしない。したがって、インフレ率も特に変化しない。

このように、金利はインフレ率(=消費者物価上昇率)との関係が重要なので、金利マイナス消費者物価上昇率を「実質金利」と呼び、金利の経済への影響を考える際に注目される。

なお、銀行間資金貸借の金利が2%だとすると、顧客から預かる預金の金利は2%より若干低く、顧客に貸し出す際の金利は2%より若干高くなるが、本稿ではそのあたりの事は気にしないこととする。

■長期金利の基本は予想短期金利の平均・・・経済初心者向け解説
投資家は、10年国債を買うか、1年国債を買って満期に新しい1年国債を買うか、選択出来る。そこで、1年国債を10回買い換えた場合に比べて10年国債を買った方が有利ならば10年国債が値上がりし、10年国債を買った方が不利ならば10年国債は値下がりする。結果として、「どちらが得か不明」となるのである。

つまり、「短期国債を10回買うと受け取れると予想される金額が、10年国債を買っても受け取れる」ようになる。言い換えると、「長期金利は、将来の短期金利の予想値の平均になる」というわけである。

経済の仕組みとして、「どちらが得か不明」となるように価格が決まる場合は多い。どちらかが明らかに得であれば、そちらが買われて今一方が売られて価格が変化するので、結局は「どちらが得か不明」となるように双方の価格が調整されるからである。

なお、長期金利は厳密には予想短期金利の平均にはならない。長期債の需給によって若干の乖離が生じたり、若干のリスクプレミアムが上乗せされたりすることがあり得るからである。

長期債の需給としては、たとえば昨今は日銀が大量の長期国債を購入している(=日銀が巨額の長期資金を供給している)ため、長期債が値上がりしている。言い換えると、長期資金の借り手よりも貸し手の方が多くなっているので、長期金利が予想短期金利の平均よりも低くなっているのである。

リスクプレミアムというのは、貸し手が「リスクがあるから貸したくない」と考える場合、借り手が「その分だけ高い金利を払うから貸してくれ」という、差額の事である。貸し手としては、長期資金を貸し出すと、自分が途中で資金が必要になった場合に困るので、短期資金の貸出を繰り返した方が安心である。だから、長期金利は予想短期金利の平均よりも少し高くなるのである。この部分を、リスクプレミアムと呼ぶ。

リスクプレミアムには、「途中で資金が必要となる」という貸し手側のリスクのみならず、「貸している間に借り手が倒産する」という借り手側のリスクも含まれる。つまり、貸し手が借り手の倒産可能性を高いと思うと、長期金利が予想短期金利よりも高くなるのである。

■金融緩和の終了
日銀は、インフレ率を2%に高めるべく、かねてより金融の緩和を行ってきた。当初は「世の中に資金が出回って、物と資金の比率が変化して物価が上がる」といった期待をしていた人もいたが、世の中に資金が出回らなかったために、その経路は実現しなかった。

しかし、「黒田信者」たちが「金融が緩和されればドル高、株高になるだろう」と予想してドルと株を買ったため、実際にドルと株が値上がりし、結果として景気は回復した。金融緩和の「偽薬効果」である。

景気が回復したことで、労働力不足となり、非正規労働者を中心として時給が上昇をはじめた。非正規労働者の時給は、労働力の需給をストレートに反映するからである。

景気が回復し、賃金が上昇し、それがインフレに繋がるまでには、長い時間を要する。日銀が当初目指していた「2年以内に2%」という目標の達成は、大幅に後ズレし、7年で実現することになった。2019年のことである。

インフレ率が2%に達すると、日銀は金融の超緩和を続ける必要が無くなる。しかし、保有している国債を売却すると影響が大きすぎるので、「新たな購入は行わない」ということになった。保有している国債が償還されるたびに、日銀の保有国債が減少していくことになったわけである。

そうなると、当分の間、巨額の超過準備(銀行が日銀に預けておく準備預金には、最低必要額が決まっている。これを上回っている部分を超過準備と呼ぶ)が残ることになる。物価が上昇している時に、これに付利しないと、超過準備が一斉に引き出されて物品の購入に用いられ、インフレが加速する可能性が高くなる。したがって、日銀は超過準備に付利を行なう必要がある。

金利を何%にするかは、「インフレを加速させずにインフレ率を2%程度に保つために必要な金利水準」を模索することになるが、実質金利がゼロとなる2%程度がとりあえずの付利の目安と考えてよいであろう。

日銀は、預かっている預金に対して2%程度の金利を支払う一方で、保有している国債からの金利収入は見込まれないから、差額分だけ赤字となる。日銀は純資産が3.5兆円ほどしか無いので、200兆円の超過準備に2%の利払をすると、1年程度で債務超過に陥ることになる。

■日銀が債務超過になりそうだったが・・・
日銀が債務超過に陥りそうだということで、様々な議論が行われた。一つは、日銀の責任論である。今ひとつは、政府が日銀に資本注入すべきか、という議論である。

日銀の責任論については、「日銀が日本経済を回復させるために、将来赤字になることを覚悟した上で金融を緩和したのであり、結果として日本経済が回復したのであるから、日銀の責任を追求すべきではない」「数兆円の減税によって景気を回復させるのと、金融緩和で景気を回復させた副作用として数兆円の損失が出たのと、同じことだ」「日銀が国債を購入したおかげで長期金利が下がり、政府の利払が減ったのだから、政府と日銀の連結決算で見れば損は出ていない」といった意見が出され、結局日銀の責任追求はなされなかった。

政府が日銀に資本注入すべきか、という議論も、「中央銀行が債務超過だと、通貨に対する信認が失われかねない」ということで、仕方ない事だと了解された。上記のように、政府の利払が日銀のおかげで減った分を日銀に「出資」という形で戻してやると考えれば、財政赤字が膨らむという反対意見も説得力は今ひとつであった。

余談であるが、政府が無利息永久国債を日銀に購入してもらい、その代金でバラマキ政策を行なうという「ヘリコプター論」を採用した場合も、同様の事が起きるはずである。政府が返済すべき借金は減るが、一方で日銀支援のための支出も増えるので、それほど美味い話では無いのである。

日銀による超過準備への付利が行われると、短期国債の利回りも、銀行間の資金貸借も、裁定取引によって、概ね同じ金利となった。かつての金融政策は、銀行間金利を誘導目標に近づけるために、資金供給を増やしたり減らしたりする(増やすためには市場から国債を購入して代金を支払い、減らすためには市場に国債を売却した)ものであったが、今や銀行間金利を誘導目標に近づけるためには、超過準備への付利水準を誘導目標とすれば良くなったのである。

さて、超過準備への付利が概ねインフレ率と等しいとすると、短期国債の利回りも概ねインフレ率と等しくなる。将来的にもこの関係が続くとすると、長期金利は将来の予想インフレ率の平均が基本となるはずである。

市場参加者の予想する将来のインフレ率は、物価連動国債の価格と長期国債の利回りから逆算出来る。逆算された結果をBEI(ブレイク・イーブン・インフレ率)と呼ぶ。リスクプレミアムを考えれば、長期金利はBEIよりも僅かに高いのが自然である。

そして実際、日銀の増資が行われた時点でも、長期金利はBEIを若干上回る程度であった。これは、リスクプレミアムが小さいことを意味していた。もしも、投資家たちが政府の破綻可能性を強く意識していたのだとすれば、リスクプレミアムは大きくなっていた筈であるが、そうはなっていなかったのである。

少し専門的な話になるが、投資家が「10年後まで政府が破産しない」と考えていたとは限らない。「今日、日本国債を買って、明日売る」のと「今日、米国債を買って、明日売る」のとリスクを比べると、明日までに日本国債が値下がりするリスクは、明日までに米ドルが値下がりするリスクより小さい、と考えれば、日本国債を喜んで買う場合もあるからである。関連する拙稿を御参照いただきたい。http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9093

つづく。

P.S.
最後に宣伝です。
本シリーズの結論部分(第5回)は、拙著『経済暴論』の229ページを原作としたものです。
ご笑覧いただければ幸いです(笑)。



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