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ホウドウキョク(フジテレビが運営するインターネットテレビ)に出演しました。その時のやりとりを御紹介します。原稿ですので、本番とは微妙に異なっていますが(笑)。

動画はこちらです。
http://www.houdoukyoku.jp/pc/archive_play/00082016080401/7/

Q 黒田総裁が率いる日銀を、どう見ていますか?

銀行では、景気を予想する仕事が長かったので、日銀の方々からは、色々と教えていただきました。金融政策を考える際には景気の予測が不可欠ですから、日銀の景気を予測する部署には優秀な人が沢山いて、凄いな、と思っていました。

昔に比べて、今の方が、金融市場を見なければならない分だけ大変なのだろうと感じています。昔の金融政策は、金利が下がると設備投資が増える、といったことを考えていましたが、今の金融政策は金利が下がるとドル高円安になるから輸出が増えて景気が良くなる、といったことを考える必要があるので、市場の動きも予想しなくてはならず、大変だと思います。

特に、ゼロ金利の時には、金融を緩和しても何も起きないはずなので、大変だと思います。

Q ゼロ金利の時に金融を緩和しても何も起きないはずだ、というのはどういう事でしょう?

銀行は貸出先が無いから仕方なく国債を持っているわけです。そんな時に、日銀が国債を持ち帰って札束を置いて帰っても、銀行は何も出来ませんから、札束を日銀に運んで預金するだけです。実際、白川総裁の時には何も起きなかったわけです。

そうした中で、黒田総裁は、見事に金融市場を動かして景気を回復させたわけですから、立派だと思います。「金融が緩和されたからドル高株高になるだろう」、と思った人々、私は彼等を黒田信者と呼んでいるわけですが、彼等がドルや株を買ったので、実際にドル高株高になったわけです。市場の期待に働きかけて市場を動かしてしまう、というのは凄いことです。

余談ですが、私も当時、株とドルを買って、少しですが、小遣いを稼ぎました。

Q 塚崎さんは、何も起きないと思っていたのに、ドルや株を買ったのですか?

はい。マーケットというのは、そういう所だと思っているからです。何が正しいのか、ということよりも、人々が何を考えているのか、という事の方が大事なのです。金融緩和でドルが値上がりする筈が無い、といった理屈を考えるよりも、ドルを買う人が多そうだからドルが値上がりするだろう、と考えた方が小遣いが稼ぎやすい、というわけですね。

Q スライドに「偽薬効果」って書いてありますが、何ですか?

小麦粉しか持っていない医者が、患者に向かって「高い薬だ」と言って飲ませると病気が治ってしまう事があるようですが、それと同じ効果が日本経済にも表れた、ということでしょうね。私はこれを偽薬効果と呼んでいます。

Q 今回金融政策決定会合で見送られたヘリマネ、ヘリコプターマネーですが、そもそもヘリコプターマネーとはどういう物でしょうか?

問題なのは、人によって言葉の使い方が違うことです。文字通り、日銀がお札を刷ってヘリコプターからバラ撒くことだと考えている人もいるでしょうが、日銀はお金を貸すことは出来ても、お金をあげる事は出来ないので、それは無理なのです。そこで、政府が景気対策を行なって、そのお金を日銀が政府に貸してあげる、という事になります。

日銀が政府の言いなりになって、いくらでも政府に金を貸し、政府が好き勝手をやる、という意味で使っている人も多いようです。戦前、軍部が資金調達のために日銀に金を出させたのと同じイメージです。しかし、今の日本は民主主義国家ですから、そんな政府を国民が選ぶ筈は無い、と信じています。

そうなると、残りは日銀が政府からゼロ金利の永久国債を買う、という定義です。

Q どうして永久国債なのでしょう?

これは経済学者の発想なので、チョッと説明が必要です。「政府は国債を償還しなければいけないので、いつか増税するだろう。それに備えて貯金しておこう」という人が多いと景気が良くならない、というわけです。そこで、日銀に永久国債を買ってもらえば、政府が借金返済のために増税をする必要がなくなり、人々は将来の増税の心配をせずに消費するようになるだろう、というわけです。

Q 塚崎さんは、日銀が永久国債を買うと効果があると思いますか?

実体経済の事を考えると、あまり効果は無いでしょうね。理由が二つあります。第一に、将来の増税を心配して倹約している人は少ないでしょう。経済学者は理屈で考えるから、そういう奇妙な事を思い付くのですが、一般人はそこまで考えて行動していませんからね。

第二に、そんな国債を買ったら、日銀が赤字になってしまうので、政府が日銀を支援しなければならないでしょう。支援のために増税をすることになったら、結局何をやっているのか、わからなくなってしまいます。

Q ということは、塚崎さんはやらなくて良かったという御意見ですね?

いいえ、そうではありません。「金融緩和をすればドル高株高になる」と信じている人が大勢いるので、今回も偽薬効果は期待出来るからです。「ヘリマネ導入」というニュースが流れれば、ドルや株の買い注文が増えるでしょうから、ドルや株は値上がりするでしょう。そう考えている私も、ドルや株を買うと思いますよ。

Q 弊害や副作用は無いのですか?

日銀が自発的に買うのであれば、それほど弊害や副作用は無いと思います。先ほど言いましたように、日銀が赤字続きで困ったときは政府が助ける、という手間がかかるでしょうが。

Q 結局ETFの買い増し、ということになりましたが、効果をどう見ますか?

経済実体を見る限り、追加緩和は見送るべきだったと思っていますが、それでは株式市場が暴落しかねないと考えて、必要最低限の対策を採った、ということでしょうね。

選択肢が限られている中で、苦しい選択だったとは思いますが、結果を見ると、マズマズではないでしょうか。国債をこれ以上大量に買うのは難しいですし、マイナス金利の深掘りは本当に困った時のためにとって置きたいでしょうから。

Q ETF買い増しは「株価を目標にしているとの誤ったメッセージを与える」との意見もあったようですが?

そう言っている人もいるようですが、何を買っても同じ事を言われるでしょうから、仕方ないのでしょうね。REITを買えば不動産価格への介入だと言われますし。偉い人で、日銀はケチャップでも何でも買って資金を市場に出すべきだ、と言った人がいましたが、ケチャップを買うよりはETFの方がずっとマシだと思いますよ(笑)。

Q ずばりETF買い増しはインフレ目標達成に向けて効果はあるのですか?

金融政策で直接的にインフレを作り出すことは難しいでしょう。しかし、景気が良くなれば、いつかはインフレ率も上がりますから、その意味では効果がゼロと言うわけでは無いと思います。

Q 日銀はもはや打つ手がなくなったという人もいますが?

そんな事はありません。ゼロ金利下での金融緩和は小麦粉ですが、マイナス金利は本物の薬ですから。

Q そのマイナス金利ですが、そもそもどんな効果が期待されたんでしょうか?

日銀としては、銀行が貸出に熱心になると期待していたのでしょうね。マイナス金利を払うくらいなら、貸出を頑張ろう、ということです。実際、貸出約定平均金利を見ると、0.1%以上下がっているようにも見えますから、銀行は貸出競争を行なっているのだと思います。

Q 効果は出ているのでしょうか?

本物の薬だと言っても、一滴しか飲んでいないので、効果は今ひとつですね。「金利が0.1%下がったから借りよう」と考える借り手はあまりいませんから。

大きいのは「日銀は新しい薬を投与する準備があるぞ」と宣言した事でしょう。副作用のある薬なので、投薬しないだろう、という見方も多かったですから。それから、マイナス金利という言葉に驚いて、長期金利が大きく下がった事も、効果の一つだったのかも知れません。

Q 今回追加マイナス金利が見送られた背景は?

マイナス金利の深掘りは、効果も大きいですが副作用も大きいので、本当に必要な時に備えて温存した、という事だと思っています。

Q 銀行経営には、どの程度の影響があるのでしょうか?

銀行は、貸出競争を激化させ、貸出金利を引き下げました。問題は「金利が0.1%下がったのなら借りよう」という借り手がいないことです。そこで、貸出の量が増えずに、利益幅が減っただけに終わっているのです。

0.1%という幅は、借り手が借りるか否かを判断する際には「わずか0.1%」ですが、銀行の収益にとっては「融資残高全体の0.1%」だけ利益が減るので、結構深刻な問題です。

もっとも、これは金利がマイナスになったという事よりも、金利が下がったという事の問題なので、注意が必要です。マイナス金利という言葉はインパクトがありますが、実際にはプラスかマイナスか、という事よりも、下がった事の方が重要なのです。

Q マイナス金利預金は現実化すると思いますか?

可能性はゼロではありませんが、非常に印象の悪いことですから、銀行としては、是非避けたいと考えるはずです。その前にあらゆる事を試みると思います。たとえば、個人向け国債を買ってくれた客にはプレゼントを出す、ということで、預金をおろして国債を買ってくれるように客に促すでしょう。

残高が少ない預金口座からは、管理手数料をとるかもしれません。銀行にとっては、顧客が預金口座を持っているだけで、結構なコストがかかっているので、零細な預金者には預金口座を解約してもらおう、ということです。これは、印象は良くないでしょうが、預金金利のマイナスよりはずっとマシでしょう。アメリカなどでは、実際に広く行なわれていますし、それほど抵抗は無いのではないでしょうか。

Q インフレ率2%の目標は達成可能だと考えていますか?

景気が良くなれば、じきに物価も上がるでしょうから、いつかは2%になると思っています。今の程度の景気だと、しばらく時間はかかるかも知れませんが。

それより私が考えていることは、2%にこだわらなくても良いという事です。今の日本経済は、インフレでもデフレでもなく、失業者も少ない、非常に良い状態です。改善すべき点はもちろんありますが、それは金融政策より財政や規制緩和等々の仕事だと思います。

そうだとすると、日銀としては、「デフレも終わったし、失業も減ったし、べつにインフレ2%でなくても良い」と考えても不思議ではありません。どうしても2%にこだわるとすれば、それは日銀のメンツにこだわる、という事だと思っています。

さて、そう考えると、日銀が9月の金融政策決定会合で行なう政策の「総合的な検証」がとても不気味なものに思われて来ます。マーケットが大きく反応しているのも、不気味さを感じているからかも知れませんね。

Q 塚崎さんは、今の景気をどのように見ていますか?

経済成長率や鉱工業生産などを見ると、決して景気が良いようには見えないのですが、企業の収益も雇用情勢も良いですから、景気を全体として見れば、決して悪くないと考えています。

Q 景気はこれから良くなって行くのでしょうか?

私は、比較的楽観しています。労働力不足になると、企業が省力化投資を始めます。たとえば、これまで、安い費用でアルバイトが雇えていたので、自動皿洗い機を買わずにアルバイトに皿を洗わせていたレストランも多いでしょう。そうした日本中のレストランが自動皿洗い機を買うだけでも、結構景気は良くなるはずです(笑)。

Q 最後に今回政府は28兆円規模の経済対策を打ちますが、これで景気はよくなるのでしょうか?

これまでの景気対策は、失業対策でしたから、公共投資などを行なえば良かったのですが、今の日本は労働力不足ですから、「労働力を使わずに景気を良くする」必要があります。これは非常に困難なことです。

数年前までは、私は公共投資が好きだったのですが、アベノミクスで労働力不足になってから、公共投資は抑えるべきだと考えるようになりました。その意味では、インフラ整備にはあまり期待していません。

それから、短期的な景気の話だけではなくて、日本経済を長期的に見た場合の最大の問題である労働力不足にどう備えるか、という事も同時に考える必要があります。

その意味では、働き方改革は非常に重要です。夫が夜中まで働いて主婦が家事を全部やるので働きに出られない、あるいは働きに出ると育児が出来ない、ということでは困ります。また、子育て中の女性が働きやすいようにテレワークなども重要でしょう。

人口知能やロボットなどの開発は、短期的な景気には役立ちそうもありませんが、長期的には労働力不足を緩和してくれそうですし、将来の日本の輸出産業に育つことも期待できますから、是非頑張って欲しいと思います。


塚崎さん、有難うございました。



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