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日銀が大赤字になって、債務超過(資産より負債が多い状態。民間企業なら倒産するような状態)になる、と心配している人が大勢います。しかし、筆者は心配していません。今回は、日銀の財務の健全性について考えてみましょう。

■日銀がすぐに債務超過になるわけではなさそう
日銀は、巨額の国債を、非常に低い金利(最近はマイナス)で購入しています。同時に日銀はインフレ率2%を目指しています。彼等が目標を達成して極端な金融緩和を終了すれば、彼等が保有している国債の市場価格は大幅に値下がりするでしょう。もっとも、日銀の決算では原価法が採用されているので、ただちに日銀が債務超過に陥ることは無いようです。オーバーパーで購入した部分は毎年少しずつ消却損が出るようですが、これは無視出来る範囲でしょう。

日銀の資産である国債が原価法だとして、ゼロ金利だとすると、満期まで資産サイドは何も変化しないことになります。では、負債サイドはどうでしょうか。日銀のバランスシートを見ると、発行銀行券という項目がありますが、これは日本銀行券が日本銀行の負債として認識されている、というだけのことであって、これも時間の経過とともに変化することはありません。

負債項目で大きいのは、預金(準備預金)です。これは、一部に付利され、一部マイナス金利ですが、これも無視出来る範囲でしょうから、無利息としておきましょう。したがって、何事もなければ、日銀の資産も負債も現在のままで国債の償還を迎えることになり、日銀は債務超過には陥らずに済みます。

■インフレになれば日銀は債務超過になりそう
しかし、物価が上昇している時には、買い急ぎの動きが見られる可能性があります。そうなると、準備預金が引き出されて物品の購入に使われるようになり、一層物価が上がり、一層の準備預金が引き出され、2%を大幅に上回るインフレになるかもしれません。そうなれば、金融を引き締める必要が出て来ます。

準備預金の引き出しを食い止めるためには、預金準備率を引き上げるという手段が可能ですが、インフレ時に預金準備率の大幅な引上げを行なうことは、実質的な銀行への課税になりますから、あまり極端な事は出来ないでしょう。そうなれば、準備預金の金利を引き上げるしかありません。

日銀の資産は金利を産まない国債で、負債は利払いが必要な準備預金となりますから、単年度の決算は大赤字となり、遠からず純資産もマイナスになるかもしれません。

■日銀が債務超過になれば、政府が穴埋めをする
しかし、それの何が問題なのでしょうか?「日銀が債務超過に陥ったら、通貨に対する信認が失われる」という人がいるかもしれませんが、そうした事態を避けるため、必ず政府が増資をして債務超過を解消するでしょう。つまり、日銀単体の債務超過は何も気にする必要はないのです。

強いて言えば、日銀の職員が「国民の血税で救ってもらった債務超過会社の社員は給料を下げろ」といった的外れな批判を受けて困るかもしれませんが(笑)、気にしなければ良いのです。日銀は日本経済のためにベストだと考えて国債を購入したのですから、その結果の赤字は日銀職員の責任ではないので。

「政府が日銀の債務超過を補填すると、政府の財政赤字が増える」というのは、確かにそうでしょう。しかし、大騒ぎする必要はまったくありません。

(1)すでに政府は1000兆円の借金を抱えており、それが1010兆円になったとしても、「誤差の範囲」です。「海の水を一口飲んだから海の水が減った」といった議論です。もちろん、財政赤字が大きな問題であることは疑いありませんし、それを別の機会に論じる事は意味がありますが、日銀の債務超過を単体で論じる事には意味が無いのです。

(2)日銀が債務超過になる理由は、政府に低利で貸出している(低利の国債を保有している)ことです。つまり、その分だけ政府は利払い負担が軽減されているのです。したがって、日銀が債務超過に陥って、政府がそれを増資で補ったとしても、「本来利払いとして支払うはずであった金額を増資として支払っただけ」なのです。

■そもそも政府と日銀は一蓮托生だから連結決算で見るべき
そもそも政府と日銀は連結決算として見るべきで、単体の決算は意味がありません。日銀の独立性というのは、「政府は金融政策に口を出さない」ということであって、財務的には一蓮托生であることは疑いないのです。

日銀が債務超過に陥れば、政府が絶対にその分を穴埋めします。そこまで行かなくても、日銀が赤字になれば、政府への納付金が無くなりますので、政府の収入がそれだけ落ちることになります。

バランスシート面でも同様です。日銀が民間銀行から国債を購入しても、民間銀行の政府への貸出(国債の保有)が民間銀行の日銀への貸出(準備預金)になるだけで、何も変わらないのです。民間銀行にとっては、政府への貸出と日銀への貸出は、本質的には「同じもの」だからです。

脱線しますが、実際には、10年物国債を日銀が銀行から購入して準備預金を受け入れると、市場に長期資金が供給されたことになり、長期金利が低下します。しかし、これは国債が10年満期で準備預金が当座預金であるという期間の違いであって、政府と日銀の違いではないのです。

民間銀行は、政府が破産すると思えば日銀への準備預金を引き出しますし、政府が破産しないと思えば安心して日銀に預金しておくでしょう。この点については、「ヘリコプター・マネー」などを議論する際に、しっかり認識しておくべきでしょう。

■長期債務が短期債務に変わっている事の影響はあるが(マニアックな議論)
一部には、「長期債務が短期債務に切り替わっているので、連結決算が金利リスクを抱えている」と心配している人もいるようです。民間銀行が長期国債を持っていた頃は、「インフレで金利が上がっても、発行済長期国債分については政府の利払いは増えない」構造だったのに、銀行が日銀に準備預金をするようになると、「インフレになったら直ちに準備預金の利払いが増える」構造になってしまった、というのです。

そうしたマイナス効果はありますが、本日現在の連結決算の利払いが略ゼロであるのは日銀の金融緩和のおかげですから、「日銀の緩和がなければ支払うはずであった利払い額」を別会計で保管しておけば、「短期金利が直ちに上がる事のコスト」は賄えそうです。加えて、そもそも一般論として短期金利は長期金利よりも低いですから、連結決算が短期負債を持っている事が利払い額を増やすか否かは不明です。

今後、どのようなペースでインフレになり、長短金利が上がっていくかにかかっているでしょう。筆者のイメージとしては、連結決算の利払い額は「日銀が長期国債の大量購入をしなかったケース」と比べて少なくて済むような気がしていますが・・・。

【参考記事】
■株価を上げた「黒田マジックの偽薬効果」が減衰 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48963054-20160701.html
■金融緩和で物価を上げるのは無理なのか? (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48919755-20160624.html
■危機時に円が買われる真因は、過去の経常収支黒字 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48952109-20160629.html
■アベノミクス景気は謎だらけ(塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48918008-20160624.html
■株価が下がるほど売り注文が増える恐怖 (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48993614-20160706.html