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就職活動中の学生に、日本的経営について考えてもらうための文章を記しました。若手サラリーマンにもお読みいただければ幸いです。

■日本企業は従業員の共同体
「株式会社は、株主が利益を上げるために作った組織であるから、当然に株主のものである」というのが理屈である。しかし、日本の大企業は「従業員主権」と呼ばれるように、従業員が会社の最重要プレーヤーとなっている。社長等は従業員の出世競争に勝ち残った「従業員の代表」であり、従業員のために会社を経営する、という意識が強いのである。

日本の大企業の経営者の多くは、「最も重要なことは従業員の雇用を守ることである」と考えている。不況で仕事が減った時には、従業員を首にして企業の利益を守るのが株主の利益であるが、日本企業の経営者はそうは考えないのである。

そもそも株主総会での社長の挨拶が、理屈に合っていない。「弊社の利益は、おかげさまで・・・」というのが普通であるが、会社は株主のものであるのだから、理屈上は「私が経営を任せていただいております皆様の会社は、・・・」というべきなのである。つまり、形式と実態、建前と本音が大きく乖離しているのである。

そうした乖離を可能としていた一因は、「株式の持ち合い」にあった。仲の良い企業が相互の株式を保有し、「御互いの経営には口を出さないし、配当も要求しない」と約束していたのである。

従業員の方も、「会社は家族」と考えており、会社は共同体だから会社の発展のために皆が力を合わせて頑張ろう、という仲間意識を持っている。小学校の運動会で「紅組頑張れ」と皆で心を一つにしているのと似ているのである。

■近年は「株主主権」が叫ばれているが・・・
近年は、会社は株主の物であるという形式に実態を近づけるべきだ、という人が増えてきた。そして、企業経営者が、次第に株主を意識するようになりつつある事も事実である。たとえば、かつては企業が儲かったら従業員の賃上げをしたものであるが、最近では儲かっても賃上げをせずに株主への配当を増額する企業が多くなっている。

そうした動きの発端は、一時期流行った「グローバル・スタンダード」という考え方であった。米国的なやりかたが世界標準であるから、日本もそれを真似るべきだ、ということである。これは、1990年代に米国経済が好調で日本経済が不調だった頃、「米国のやり方を真似すれば上手くいくだろう」と考えた人が多かったことで広まったのである。

リーマン・ショック後には、米国的なやり方が必ずしも素晴らしいわけではない、という認識が広まって、この言葉は聞かれなくなったが、今でも「日本の会社の経営を米国的なものに近づけて行こう」という機運は残っている。

加えて最近では、株式の持ち合いが減り、上場企業の株主に占める外国人投資家の比率が上昇したことが影響している。日本の企業経営者が株主を軽視していることに関して、外国人株主たちの眼が厳しいため、経営者もそれを意識せざるを得なくなっているのである。

しかし、こうした変化にもかかわらず、根本的な人々の意識は、やはり会社は従業員の共同体だ、ということであり、大きくは変わっていない。それは、企業が合併した時に明らかになる。合併すると、社名、社長、重要ポストをどちら側がとるか、といった争いが起き、合併後も長期にわたって「社内融和」が課題として残り続けるからである。

■バンク・オブ・アメリカは被買収企業の名前である
バンク・オブ・アメリカと言えば、長い間世界の金融業界の雄として君臨していた巨大企業であり、今でも巨大銀行である。しかし、実は一度経営が傾き、吸収合併されているのである。吸収したのは「ネーションズ・バンク」という銀行であった。急激に規模を拡大した巨大地銀であり、言葉は悪いが、「田舎の成り金が没落貴族を飲み込んだ」といったイメージであった。

日本では、吸収合併された銀行の名前を合併銀行の名前として使うことは考えにくい。あるとすれば、「合併された銀行の行員の御機嫌をとって、合併後の行内融和を円滑に進めるため」といった場合であろう。しかし、バンク・オブ・アメリカのケースは、そうではなかった。

筆者は、銀行員時代に、当該合併についてインタビューをした事がある。その時の衝撃は今でも忘れ得ない。合併銀行の人は「ネーションズ・バンクの株主にとって、バンク・オブ・アメリカという名前は喉から手が出るほど欲しいものであった。だから、バンク・オブ・アメリカという名前を使うことにしたのは当然の事だった」と言ったのである。むしろ、名門銀行の名前が手に入るなら、吸収合併のためのコストは厭わない、といったニュアンスであった。

株主主権というのは、こういうものなのだと思い知らされた。日本でも、こうした合併が行なわれるようになれば、真の株主主権が確立した、と言えるのであろうが、それにはまだまだ時間がかかりそうだ。


【参考記事】
■「社畜」は辛いが、組織って素晴らしい (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48869195-20160617.html
■銀行という職場の体験記(1) (塚崎公義 大学教授)
http://ameblo.jp/kimiyoshi-tsukasaki/entry-12149636451.html
■大学教授が教える、本当に役に立つ就活テクニック (塚崎公義 大学教授)
http://sharescafe.net/48796600-20160609.html
■就活の手を抜くと、過去の自分を恨んで生きる事になる(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48827988-20160614.html
■大学生は就活にどう備えるべきか?(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48798268-20160613.html
■就活は企業との相性だから、落ちる以上に受けるべし(塚崎公義)
http://sharescafe.net/48827663-20160613.html



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