5月25日、NHKラジオの「夕方ホットトーク」に出演しました。その時の発言内容を記しておきます。

出川:明日から伊勢志摩サミットが開かれますが、塚崎さんは、どんな問題に注目していらっしゃいますか?
塚崎:最近は先進国経済が比較的安定しているので、経済の面では特に深刻な議論にはならずに、比較的落ち着いたサミットになりそうだと思っています。
   そうした中で私としては、景気対策の話に注目しています。安倍総理は、今回のサミットの議長として、「それぞれの国が財政支出で景気を回復させよう」という合意をとりつけようとしています。各国の政府が、それぞれに減税や公共投資などを行なって国内の景気を良くすれば、世界の経済が元気になる、というわけですね。

出川:ドイツなどが財政支出に反対しているとも言われていますが?
塚崎:そうですね。ドイツを説得するのは難しいかも知れませんね。
   ドイツという国は、私たちが信じられないほど徹底的にインフレが大嫌いな国なのです。

出川:どうしてでしょうか?
塚崎:昔、ものすごいインフレになった事があって、その時のトラウマが残っているということのようですね。そんなわけで、財政赤字はインフレの原因になりかねないので、財政赤字も大嫌いなのです。それから、今のドイツは比較的景気が良いのです。ドイツは貿易収支が大幅な黒字で、つまり外国がドイツ製品を買ってくれるので、政府が景気対策をする必要がないわけです。
   ですから、ドイツは本当は景気対策はやりたくないのです。まあ、サミットの場では、お付き合いとして賛成した振りをしてくれる、と期待していますけどね。

出川:ところで、塚崎さんはなぜ、景気対策の問題に注目されているのでしょうか?
塚崎:日本国内で、消費税率の引上げが延期になる、という話とリンクしているからです。各国が財政で景気を良くしよう、という合意がなされたとしますね。そんな時に日本が消費税率を引き上げるとすれば、日本が率先して合意を破ったのではないかと言われかねませんから、安倍総理としては消費税を見送るための絶好の口実となるわけですね。

出川:安倍総理は、消費税率の引上げを先送りしたいのでしょうか?
塚崎:難しい判断を迫られて、迷っておられるんじゃないか、という感じですね。
   日本政府の財政は大幅な赤字ですし、日本政府の借金は巨額にのぼっていますから、少しでも増税をして財政赤字を減らしたい、という気持ちは強いと思います。しかし、先送りしたい気持ちも同じくらい強いでしょう。
   前回、消費税が5%から8%に上がったことによって、日本国内の景気が大きなダメージを受けました。多くの専門家が予想していたよりもダメージが大きかったわけです。そうなると、この次に8%から10%に消費税率を引き上げることによって、ふたたび景気に大きなダメージが加わる可能性がある、ということになります。そういうリスクは避けたい、と思っているはずですね。

出川:塚崎さんは、消費税は上げない方が良いと思われますか?
塚崎:そうですね。消費税を上げて景気が悪くなってしまったら、元も子もありませんから、消費税を上げるのは待った方が良いと思っています。
   景気というのは、「財政再建という金の卵」を産む鶏なのです。増税を焦って金の卵を産む鶏を殺してしまってはいけないのです。
   景気が悪くなれば、会社の利益が減りますから、法人税が減ります。サラリーマンの給料も減りますから、所得税も減ります。一方で、景気が悪くなると、失業対策が必要となって、両面から財政は大幅に悪化してしまうのです。そのことを安倍総理にはしっかり認識して頂きたいですね。

出川:消費税を引き上げたら、景気はどれくらい悪くなるのでしょうか?
塚崎:前回の引き上げが、人々の予想を上回る悪影響だったので、次回についても大きなダメージとなる可能性は考えておいた方が良いでしょう。
   重要なことは、景気は方向が大事だ、ということです。景気回復の力が弱くなったとしても、回復が続いているならば、それほどの悪影響ではありません。しかし、ひとたび景気が方向を変えて悪化しはじめてしまうと、再び回復させるのは大変なのです。
   ちょうど、嵐で船が傾いている時、あと1メートル波が高ければ船が倒れてしまう、というギリギリの状況を想像してみてください。前回は、船が傾いたけれどもギリギリ倒れずに済んだ、というイメージだったわけです。次回の影響が、前回よりも少し大きいだけでも船が倒れてしまうかも知れません。そのリスクを冒すよりは、増税のタイミングを待つべきだと私は考えているわけです。

出川:そうなると、日本政府の財政赤字はいつまでも膨らみ続けるという怖れはありませんか?
塚崎:そういう心配をしている人も大勢いますが、私は楽観的に考えています。それは、少子高齢化で労働力が不足する時代が来るからです。
   歴代の政権が、今まで何回も増税をしようとしてきましたが、何回も見送られてきました。それは何故かと言えば、「増税をしたことで景気が悪くなって失業が増えたらどうしよう」と考えて、思いとどまったからです。
   これから少子高齢化が進んで、労働力が不足する時代になると、「増税をして景気が悪くなっても失業者が増えない」、ということになりますから、そうなれば政府は「気楽に」というと言葉が悪いですが、失業を心配せずに増税をすることが出来るようになるわけです。
   労働力の不足が本格化すると、インフレの時代が来るかも知れません。そうなったら、増税で景気をわざと悪くして、インフレを抑える、といった事も必要になるかも知れませんね。

出川:インフレは来るのでしょうか?黒田日銀総裁が就任して3年以上経ちましたが、なかなかインフレになりませんが。
塚崎:インフレについて考えるときには、話を二つに分ける必要があります。アベノミクスや日銀によってインフレになる、という話と、少子高齢化によってインフレになる、という話です。はじめにアベノミクスや日銀について考えてみましょう。
   黒田日銀総裁は、インフレになるには二つの経路があると考えておられたようです。一つは世の中に大量のお金が出回って、お金の価値が下がることです。しかし実際には、世の中にあまりお金が出回らなかったので、この予想は外れました。
   今ひとつは、景気が回復してインフレになることです。しかし、これには時間がかかります。ようやく労働力不足になって非正規労働者の時給が上がるようになりました。でも、まだ正社員の給料はそれほど上がっていません。正社員の給料が本格的に上がるようにならないと、本格的なインフレにはならないでしょう。

出川:しばらくすると、本格的なインフレになるかも知れない、というわけですか?
塚崎:そうですね。エネルギーを除いた物価は、すでに今でも前年比で1%ほど上がっています。エネルギー価格が下がり続けることは無いでしょうから、今後の景気にもよりますが、1%から2%程度、景気によってはそれ以上のインフレが続くと考えておいた方が良いかも知れませんね。

出川:少子高齢化によるインフレというのは、どういうものですか?
塚崎:これは、アベノミクスとか景気がどうとかいうよりも、長い目で見た話です。
   少子高齢化によって現役世代の人口は減っていきますが、高齢者の数はそれほど減りません。高齢者が減らないと、医療や介護といった人手がかかる仕事が減らない一方で現役世代の人数が減っていくわけですから、製造業で働ける若者が減っていきます。
   そうなると、国内で生産される物が減るので、物不足になります。物が不足すると、物価が上がりやすくなります。「物が足りなければ外国から輸入すれば良い」という事なのですが、輸入するためにドルを買う人が増えると、今度はドルが高くなりますから、やはり輸入品の値段が高くなってしまいます。

出川:なるほど。いずれにしてもインフレを招くというわけですね。少子高齢化による労働力不足で供給力が不足してインフレになる、ということですね。
   そうですね。加えて、労働力不足による賃金の上昇も、インフレの原因になります。労働力の需要と供給の関係から賃金が上がるので、企業はコストの上昇ですから、その分だけ製品の売り値を引き上げる、というわけです。
   これは、働いている人にとっては悪い話ではありません。特に、ワーキング・プアと呼ばれている非正規職員にとっては、賃金が上がるのは大変良い話だと言えるでしょう。ただ、引退して預金を取り崩しながら暮らしている高齢者が困りますから、やはり政府がインフレを止める必要が出て来るわけです。

出川:サミットの中では、為替相場への介入が問題にされる可能性もあるようですが、そこはどう考えておられますか?

塚崎:過去の円相場の動きを見ていると、過去の相場は非常に大きく変動しているので、それと比べると最近の値動きは特に激しいとは言えないでしょう。変動相場制という制度自体が、為替レートが乱高下するような仕組みになってしまっているので、変動相場制を前提とする限り、この程度の為替変動で介入をしよう、というのはアメリカなどの理解が得られないでしょうね。

出川:円高になると今後の日本経済に悪影響が出ると心配している人も多いようですね。
塚崎:為替レートが動くと株価がそれに影響されて大きく動く場合がありますので、株式投資などをなさっている方は、大いに関心を持って見ておくと良いと思います。
   ただ、今後の景気を考える際には、為替相場はそれほど重要でないと思っています。
   日本は、輸出と輸入が大体同じ金額なので、円高になると輸出企業の利益が減りますが、同じだけ輸入企業、つまり輸入品を原材料に使っている企業の利益が増えますから、プラスマイナスすれば、それほど大きな違いはないのです。
   従来は、というか経済学理論では、ドル高円安になると、数量で見た日本製品の輸出が増えて、日本の輸出企業が生産を増やすので、雇用を増やすので、日本の景気が良くなるはずです。しかし、過去3年間を見ると、アベノミクスで大幅に円安になったのに輸出の数量が増えていないのです。ということは、最近の日本の輸出数量は、あまり為替相場の影響を受けないようになってきているということでしょう。そうだとすると、この程度の円高ならば景気には影響が小さいでしょう。今回のサミットで為替介入の話が出ても出なくても、日本の景気には余り影響がないと考えています。

出川:それでは、今日の御話しをまとめていただきましょう。
塚崎:はい。ドイツを説得して、あるいは納得していただいて、財政で景気を回復させる、という合意が曲がりなりにも出来て、それを受けて日本の消費税増税が先送りされるかが、注目されます。
   為替介入については、特に問題にならないと思いますし、今ぐらいの値動きであれば、介入しづらくなったとしても特に困ることもないでしょう。

出川:有難うございました。
塚崎:有難うございました。


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