学生へのアドバイス
(高校生と大学生)
 高校生と大学生の違いは、一言でいえば子供と大人の違いです。子供の世界は規制と保護の世界です。大人の世界は自由と自己責任の世界です。
 子供は大人の保護下にありますから、いろいろ口うるさく指示されますが、保護もされます。幼稚園児が赤信号を渡ろうとすれば、大人が制止しますし、万が一渡ってケガをすれば、「可哀想に」と言ってもらえます。大人が赤信号を渡ってもだれも抑止しませんが、事故に遭えば「バカだね」と言われます。
 高校生が授業をサボると、先生に怒られましたが、大学生が講義をサボっても、大学の先生は怒りません。黙って単位を落とすだけです。高校時代、怒る先生は怖い先生、怒らない先生は優しい先生でした。大学時代、怒ってくれる先生は優しい先生です。怒らずに黙って単位を落とす先生は怖い先生です。

(学生とサラリーマン)
 学生からサラリーマンになると、大きく変わることがいくつかあります。おもなものは「時間が貴重なものになる」「付き合う相手を選べない」「不合理なことを強いられてストレスがたまる」といったところでしょうか。
 このなかで、学生のうちから心しておくことは、時間の大切さです。学生時代に寸暇を惜しんで勉強しろというのは現実的ではないかもしれませんが、「何をするにしても真剣にやれ」ということは言えると思います。たとえばゲームに興じるにしても、暇つぶしとしてではなく、思い切り楽しむことです。海外旅行などで見聞を広めることもお勧めします。資金がたりなければバイトをすればよいですし、借金をしてもかまわないと思います。
 卒業してサラリーマンになる人(あるいはなった人)は、組織というものを理解してほしいと思います。学生が時計を仕入れて街で売っても買い手に信用されずに売れないでしょうが、同じ人が企業に就職して売り場に立てば顧客が信用して買ってくれるでしょう。それが組織の力です。その一方で、組織のデメリットもたくさんあります。嫌な上司や同僚とつきあわなければならない、同僚のミスで自分が顧客に謝らなければいけない、といったストレスは大きなものがあります。このストレスはヤケ酒を飲んで解消すればよいのです。「自分で売るより会社員として売る方が時計がよく売れる。だから会社員になってもらう給料は一人で働いた場合よりも多い。その差はヤケ酒を飲むためのものだ」と考えれば納得できるでしょう。(もちろん、運と才能に恵まれて努力もした人が起業してサラリーマン以上の生活をしている場合もあります。そういう人がしばしばマスコミに登場しますが、これは例外だということは覚えておいてほしいものです) 。

(就職先の選び方)
 就職先については、「寄らば大樹といった考え方はいけない」といった「べき論」を説く大人が多いのですが、そして私はかならずしもそうは思わないのですが、それは各自の人生観なので、よく考えて下さい。その際に大切なことは、起業して成功した人の話は耳に入るけれど、起業して失敗した人の話は耳に入って来ない、ということです。成功した人の話だけを聞いて「自分も起業すれば金持ちになれる」と考えるのは間違いです。そこだけは間違えないようにしましょう。
 つぎに、「社会人生活は30年以上続く。今栄えている産業や会社が30年後も栄えているとは限らない」ということを考えてほしいと思います。人間の想像力は乏しいもので、今の状況が今後も続くと考える傾向があります。今までの人生で大きな変化に何度も遭遇してきている年配の人でもそうなのですから、若い人はなおさらでしょう。しかし、過去にも変化は起きましたし、これからも起きるに違いありません。たとえば人工知能が発達したら、今の仕事の半分が消えてしまうという人もいます。そうなったら何の仕事が増えるのか、考えてみることが必要なのです。
 戦争が終わってから高度成長期が終わるまでが30年です。その間、日本のリーディング産業が石炭や繊維から鉄鋼などの重厚長大産業に変わりました。この間の企業の盛衰を考えると、戦後に就職した人が定年を迎えるころまで人気業種であり続けていたという例は稀でしょう。
 高度成長が終わってから今までが40余年です。「重厚長大から軽薄短小へ」と言われた70年代後半にはじまり、80年代後半にはバブルがあり、その後の長期低迷期があり、今また自動車や鉄鋼が元気を取り戻しているといった状況を考えると、これまた世の中の変化の大きさに驚かされます。
 30年先のことはよくわからないかもしれませんが、自分なりにいろいろと考えてみることは重要ではないでしょうか。
 もっとも、これからは転職が当たり前になってくるかもしれません(これも大きな違いで、30年前には一度入社した会社を辞めて別の会社に転職するなどということはほとんど考えられなかったわけです)。そうだとすると、転職に有利な職業に就くということも選択肢にはいってくるでしょう。「手に職が付く」ような職種です。一例を挙げれば、英語です。学生の中で英語が出来るほうだと、海外関係の仕事に就けるかもしれません。そうなれば、英語の力が一層増し、将来の転職で英語力がモノを言うかもしれません。学生時代のわずかな英語力の差が将来的には大きな差になるかもしれないというわけです。
 いろいろ考えても、結果として就職が成功であったかどうかは長い時間をかけないと分かりませんし、そもそも受けた会社に合格するとも限りません。それでも、何も考えずに就職して後悔するよりも、いろいろ考えた上で自分なりに納得した上で就職をする方が、後で後悔する度合いが少ないように思います 。
 充分考えた末に悪い結果となったら、神様を恨んで生きましょう。それも嬉しいことではありませんが、よく考えずに悪い結果となったら過去の自分を恨んで生きることになります。その方がずっと辛いので。

(学生時代の友人)
 学生時代の友人は大事にしましょう。就職すると時間がないので、学生時代の友人に合うことは難しいかもしれません。しかし、たとえば年賀状(年賀メイル?)だけでも出すように心がけたいものです。
目的の一つは「定年になったら遊ぼうね」ということを確認しあうということです。寿命が延びていく中で、老後をどのように過ごすかということは生涯のなかで重要な意味を持つわけで、利害関係なく付き合える友人をキープしておくということは、学生時代に考えているよりもはるかに重要なことだと言えるでしょう。
 
今一つの目的は、他社や異業種に知り合いを持っておくことの重要性です。会社の中で同じような文化に染まった人々に囲まれていると、どうしても発想が貧困になりがちです。異業種交流会といった集まりには積極的にでかけていくべきですが、知らない人と親しくなるのが難しければ、異業種に勤める旧友と話せばよいというわけです。
 また、旧友は意外な役にたつことも少なくありません。筆者は海外出張の際に年賀状ファイルに目を通し、出張先に駐在している友人にレストランやホテルのアドバイスをもらいます。お礼に日本酒でも持っていけば、お互いがよろこぶ立派なギブアンドテイクになるわけです。

他にもいろいろありますが、今回はこれくらいにしておきましょう 。
大学教育 ブログランキングへ