君津で、文明を捨てた男に出会った。
ダンボールを渡したら、テナガエビが返ってきた。
この時点で、私はもう「普通の人じゃないな」と思っていた。
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最初に聞いた話は、
「ちょっと変わった暮らしをしている人がいる」という、それだけだった。
どんな“変わり方”なのかは、誰も詳しく説明してくれなかった。
だから正直、
・少し不便な田舎暮らし
・節約上手な人
そのくらいを想像していた。
実際に会ってみて、全部違った。
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彼は、川で魚やエビを獲って暮らしている。
網を構えて、何時間も同じ姿勢で待つ。
一日に獲れるのは、数匹だけ。
それでいいらしい。
「今日は獲れなかったですね」と私が言うと、
彼は笑って、こう返した。
「獲れない日もありますよ。でも、それも含めてですから」
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彼の家には、いけすがある。
自分で作ったものだ。
魚やエビを“獲る”だけじゃない。
“増やす”ことで、次の獲物を減らしている。
無理にたくさん獲らない。
足りなくなる前に、手を止める。
それが彼のやり方だった。
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ある日、私はダンボールを渡した。
理由は特にない。
「使うかな」と思っただけだ。
数日後、返ってきたのは、テナガエビだった。
「交換です」
そう言って、彼は受け取らない。
人からの施しは、受けない主義らしい。
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この人は、
お金がないからこう生きているわけじゃない。
文明を知らないわけでもない。
選んで、こう生きている。
それだけは、はっきり分かった。
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最初は、ただの「変わった人」だと思っていた。
でも話を聞くうちに、
この暮らしはサバイバルじゃない、と思うようになった。
これは、思想だ。
便利さを捨てた人の話ではない。
何を必要とし、何を必要としなかったか。
その結果としての生活だ。
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このブログでは、
君津で出会った一人の男性の暮らしを、
静かに書いていこうと思う。
驚いたこと、
考えさせられたこと、
そして、少しだけ羨ましくなったことを。
次は、
彼が「雨の次の日だけ、川に行く理由」について書く。