ホスピスにつくと、抱えてきた手紙やノートやその他いろいろと預かったものを、アオイさんに託す。
ここへ来るたびに、持参するものが多くなっていった。
その度、アオイさんは目を丸くしてそれから笑って見せる。
「ホント、こんなに沢山。
これだけ、祈里さんが愛されているのだと思うと、
……なんだかうらやましくなってきますね。」
「……今日の容体は?」
「ここ最近はずっと部屋に籠っていましたけれど……
今は、海辺にいっていますよ。……ご案内しましょうか?」
「お願いします。」
一つ頭を下げた。
アオイさんの案内に続いて、いつも彼女がいるという海辺に向かった。
彼女は、砂浜に車椅子に座りながら佇んでいる。
足元からは、小さく煙が立っていた。
「まっ!
こんなところで……っ!
祈里さんっ!いけませんよっ!ここで物を燃やしちゃっ!」
アオイさんは両頬を膨らませながら、怒って祈里のところへ向かった。
アオイさんは祈里が手に持っていたマッチ箱を取り上げた。
すると、祈里は何も言わずに車椅子を反転させる。
目が合った。義足の両足で立っている俺を見て、目を丸くしたと思ったらすぐに視線を逸らされる。
浜辺から続くスロープを器用に上り始めたところで、身体が動いた。
車椅子の取手を握っていた。
前に進もうとしたところで、彼女はブレーキをかけた。
「…離して。
1人で行けます。」
久しぶりに聞いた声は、か細く潮風にかき消されそうなほどだった。
「……いつも、そう言っても…そこまでって押してくれた。」
「……」
ブレーキは解除しなかった。
その代わり、彼女はふらつきながら立ち上がる。
そのまま、ゆっくりと歩き出す。
「祈里さん…」
今にも崩れ落ちそうな、彼女をアオイさんは支えながら一緒に歩き出す。
俺は、その後を車椅子を押して続いた。