『…はあっ、はぁはぁ……』


どんどん息が荒くなっていく。

呼吸をするのも苦しい。


心臓が今にも口から飛び出しそうだ。


『くっ…わらびちゃん…!』


身を潜めていた俺は、鬼の背後から思いっきり石を投げつけて飛び出した。


『まっ、ままま待てっ!!』


『ああ?なんだお前は?』


『ひぃぃぃっ!!!』


ななな、なんて殺気だ!


鬼を目の前にすると、どんよりと冷たく重い音が一気に恐怖と緊張感を生み出す。


『おおおお前かっ……わら、わらびちゃんを…お襲ったのはっ!』


『あぁん?』


『こ、この山を下りた場所にある、だ団子屋の娘のことだっ!!』


『だんごやだぁ?…あ〜恐怖のあまり団子投げつけて泣きじゃくっていたガキの事か。俺に出会わなければ引き裂かれる事もなかったのにな!!ひひっ。』


やっぱりこの鬼がわらびちゃんを…

 

『お前、ガキの分際で一丁前に刀を差しているが鬼殺隊か?それともその刀はただの飾りかぁ?』


『ぐぐっ…!』


や、やばい…

恐怖と緊張で身体が硬直して刀が抜けない。


心臓の鼓動が速い。

足がガクガク震える。


『うひひひっ。恐怖のあまり動けないのか!腰抜けめぇ!!』


不気味な笑いを浮かべた鬼はザッと地面を蹴ると、俺の目の前まで素早く移動し勢いよく腹を蹴った。




『ぐはっっ!!!』


俺は地面に叩きつけられ、うずくまった。


受け身の体勢が取れなかった。

何一つ…

速くて動きが見えなかった。


蹴られた場所の痛みが全身に激痛を招く。


『あのガキの仇を打ちに来たんじゃなかったのか?勢いよく出てきたわりにはあっけないなぁ!!』


痛い…痛い、痛い。

怖い、苦しい、逃げたい…


『もっと楽しませてくれよっ!!うひひひひっ!』


『うっ……くっ…うぅ……』



俺は昔から嫌な事があるとすぐに逃げ出す。


怯えるし泣きますし弱虫だ。

そんな自分が大嫌いだ。


だけどわらびちゃんは笑う事なく、俺を強い剣士だと言ってくれた。


俺に剣の腕があるなら。

俺に少しでも勇気があるなら。


兄貴みたいに強かったなら、この鬼と闘えたのに…


『…はあ、はぁ……うぅっ……』


だけど俺はここで◯される…


『失神寸前かぁ?そのまま大人しくしていれば俺がゆっくり喰ってやるよ!!』


『……わらびちゃん…じいちゃ………』


『◯ねぇぇぇ!!!』


プツンッ…


『ああ?消えた!?何処だ!!』



『シイイィィィ…』


『いつの間に背後に!?(こ、こいつ、さっきまでとは違う、なんだ…気配が変わった!?)』


『雷の呼吸…一の型、』


『くそっ!!死に損ないめぇぇ!!!



『霹靂一閃!!!』


『……あっ?……こんな、ガ、キに………』


シュウウウゥゥ…


わらびちゃん…

ごめんね……ごめん………



ーーーーーーーーー



"きゃあぁっ!"

"こんなまじぃ団子食えるか!金返せ!"


"や、やめろぉ!この子に手を出すな!!"

"善逸にいちゃっ…"


"なんだ、このクソガキッ!"

"ぐあっ!"

"善逸にいちゃぁぁん!!"



あれ…

わらびちゃん…と俺?


この記憶…

なんだろう、夢のわりには懐かしいような…


霧のようにボヤけているけど、脳裏にぽつ、ぽつと情景が浮かんでくる。


わらびちゃんと出会って間もない頃、じいちゃんのお遣いで団子屋の前を通った俺は、治安の悪い大人からわらびちゃんを助けた事があった。


助けたと言っても、ボコボコにされただけだけど。


その後気絶しちゃって目が覚めると、わらびちゃんや親父さん達が心配そうに看病をしてくれていた。


なんで忘れてたのかな。

なんで今頃、思い出したんだろ…



つづく