ー…ぃっ……
ん…いつ…
ぜんいつ……
『善逸っ!』
『………じぃ……ちゃ……』
『はっ!善ちゃんっ!』
『善逸!気がついたのか!』
『……おや、じ…さ……お、くさん……』
目が覚めると、俺はじいちゃん家の布団に横たわっていて、周りには俺を囲むように親父さん、奥さんが涙を浮かべていた。
隙間から日の光が差し込んでいる。
あの暗闇から一夜が明けたのか。
俺、助かったんだ…
『無理しおってこのバカ者!』
じいちゃん…
俺が朝方急に家を飛び出したから、随分心配かけただろうな。
じいちゃんだってずっと寝ずに走り回っていたのに。
『なにこれ…体中がズキズキ痛いんだけど……俺、このまま死ぬの?』
『何言っとるんじゃ!そのくらいの傷で済んだから良かったものの。鬼に◯されなかっただけ不幸中の幸いじゃ。』
『…でも俺は、鬼と遭遇したのに何も出来なかった…。じいちゃんが助けてくれなかったら本当に◯んでた…』
『善逸、覚えとらんのか。』
『えっ?』
『お前が鬼を倒したんじゃぞ。』
『…な、何言ってんの?俺気絶してたんだよ?じいちゃんが鬼を倒してくれたんじゃないの!?』
『確かに儂が辿り着いた時お前は気絶して倒れておったが、落雷の轟音が鳴り響いたのを耳にした。それはいかにも儂が教えた"霹靂一閃"という技じゃ。』
『善ちゃん…昨日は、ごめんなさい。あんな酷い態度をとって……わらびの為に、命をかけて鬼と闘ってくれてありがとう…』
『ま、待ってよ。俺っ、』
『前に店に文句を言ってきた輩がいただろ。その時もわらびを庇ってくれたよな。今回だって……お前は何も悪くないのに出て行けと追い出してすまなかった……わらびがいたら怒られたよな。』
『いや、だから俺は何も……』
じいちゃんと親父さん達の表情、心音からは嘘をついているように思えなかった。
人間は嘘をつくとまた違う音がするから。
頭が混乱する。
俺が鬼を倒した?
呼吸も使えない俺が…?
"善逸にいちゃん…"
『えっ…』
微かに聞こえた声のする方に目を向けると、親父さんと奥さんの背後に、窓から差し込む光の中に包まれて、笑みを浮かべるわらびちゃんの姿が目に映った。
"ありがとう"
悲しくも優しい、穏やかな表情を浮かべながら聞こえた言葉が俺の耳に、心に響いた。
『……わらび…ちゃん……』
光に包まれたわらびちゃんはふわりと笑って、すうっと消えていった。
涙が止まらない。
お礼を言いたいのはこっちの方だよ。
たくさん、たくさんありがとうと言うよ。
こんな情けない俺だけど、今まで優しくしてくれてありがとう…
それから数ヶ月が経って、親父さんと奥さんはおばあさんの時代から続いた団子屋の店を畳んだ。
経営が難しくなったわけではない。
また別の場所で新しい人生を送る為だ。
中には心無い言葉を言う人もいたけれど、俺は寂しい感情を隠して2人を笑顔で見送った。
そして…
『こら善逸!!待たんかぁ!!』
『ぎぃやああああぁぁぁー!!!』
俺は相変わらずじいちゃんの修行から逃げ出しては捕まって、死に物狂いで毎日の鍛錬に耐える日々を送っている。
結局呼吸法は上手く使えないし、技なんて尚更だ。
あの晩、本当に俺が雷の呼吸を使えたかどうかはいまだに信じられないけど、何か自分の中で変化が起きていたのは何となく分かる。
何となく…だけど。
この耳の良さだって…
悪い事ばかりじゃない。俺だってこの先誰かの役に立つ時が来るかもしれないんだ。
その時が来たら、その時は……
ーーーーーーーーー
『むーむー。むーっ!』
『ふがっ!…あ、あれ…?』
『起きたか善逸。禰󠄀豆子、善逸を起こしてくれてありがとうな。』
『むんむんっ。』
『炭治郎…禰󠄀豆子ちゃん……』
『猪之助ー!そこで待っててくれ!今善逸が起きたんだ!』
『モタモタすんじゃねえ!休憩は終わりだ!先へ進むぞっ!子分ども!!』
『あぁ〜待ってくれ!禰󠄀豆子、善逸行こう!』
『はぁ…こっちの気も知らないであいつは。おかげではっきりと目が覚めましたよ。』
『善逸、どんな夢を見ていたんだ?』
『ん〜?』
『何となくだけど、善逸から懐かしくも優しい、何だか泣きたくなるような匂いを感じ取れたから。』
『…あぁ、夢というより、昔の記憶を思い出してた。俺さ…昔から弱くて泣き虫だったから、そのせいで大切な人を守れなかった事があるんだ。鬼殺隊になってからも毎日いつ死ぬかもしれない恐怖と闘いながら生きてきたけど……お前や禰󠄀豆子ちゃんや猪之助に出会えたおかげで、今日まで生き延びて来れたと思ってる。』
『そんな事はない。俺達だって善逸に助けてもらった事は何度だってあるよ。俺は善逸が思うほど、弱虫ではないと思うな。』
『ははっ。お前はいい奴だな、炭治郎。』
相変わらず泣き虫で弱虫で頼りない俺だけど、こうやって嬉しい言葉をかけてくれる仲間に出会えた。
それだけで、幸せだ…
『…こんな俺だけど、これからもよろしく頼むよ。』
『ああ。もちろんだ。』
この先愛する人や守りたいと思う誰かに出会えたら、その時は必ず俺が守り抜きたいと思っていた。
それを気付かせてくれたのは、紛れもなくわらびちゃんだ…
『何してやがるっ!早く来い!!三太郎!紋逸!!』
『なぁ、あいつはいつになったら俺達の名前を覚えるの?』
『違うぞ、猪之助!俺は炭治郎!こっちは善逸だ!』
今の俺は、あの頃より少しはわらびちゃんの言う強い剣士になれたかな…
Fine





