六月二十二日。
今晩のじめじめとした空気のせいか、いつもなら火薬が弾けるようなテンションの僕は湿ってしまったかのようにやる気も何も起きない。
ただボーッと、天井を見たり、壁のシミを見たり、机に突っ伏したりして、ため息をつく。
本当のところ、このやるせない怠惰感や無気力感、ため息の原因は学生の本分である学習や何ともいえない面倒臭い上下関係などではなく、隣のクラスにいるツミキさんである。
勝手にため息の原因にしてしまっているのは大変申し訳ないと思うのだが、彼女の魅力は僕を虜にしてならない。
廊下から見えるあの人はもの静かで、自称「可愛い女の子」のきゃぴきゃぴした奴らなんか足下に及ばないくらいの大人の女性らしい凛とした魅力がある。
周りがやれ化粧だの香水だのなんだの、わいわい騒がしい中でツミキさんはナチュラル、そう、自然のままの美しさをしているのだ。
さすがに今時の女の子だから化粧っ気がないというわけじゃあない、本当に素材の良さを生かしてほんのりと化粧をしてる。
ただただ彼女の美しさにため息しかでない。
ああ、一言でいいから、言葉を交わしたい。
本日何度目か分からないため息。
ああ、僕はこのままため息を出し続けていたら身体からありとあらゆる空気が失われてしぼんでくしゃくしゃになった風船のようになってしまうのだろう。
「あー」
机に突っ伏した状態でこんな声を出そうが何しようが、やかましい教室の中では埋もれて消えていってしまう。
「んっんー、ほぁああ」
なんて声を出そうが、僕の声は埋もれて消える。
ああ、なんでこのクラスにはツミキさんがいないのだろう。
「付き合ってくださーい」
「できれば、結婚してくださーい」
ちゃんと口にだしてるよ。
……ま、でも本人の目の前じゃあなきゃ、もっと大声じゃあなきゃこんな声は何の意味もない。
身体を起こして、頬杖をついて、ただボーッと廊下を見る。
あ、ツミキさんだ。
あ、行っちゃった。
所詮、僕の根性なんてこんなもんさ。
確かに自分のストーリーモードを順調に進めてはいるけど、そんなに積極的な物語じゃあないんだ。
山もなければ、谷もない。
希望がない分、絶望もしない。
そーんな楽で、平穏な人生が僕のストーリーモードだ。
ああ、付き合いたい。
できれば結婚してください。
言葉は交わした事はないけど、言葉を交わしている所は見た事がある。
目の前にはいないけど、見た事はある。
そんな断片的な彼女の姿をつなぎ合わせて作ったのが、僕の頭の中にはある。
ああ、美しい。
彼女は僕と楽しく会話して、彼女は僕に笑いかけて、彼女は僕に怒って、彼女は僕と仲直りして……。
君は僕の理想だ。
ああ、手を伸ばしたいのはやまやまだけど、貧乏人がショーケースの中に入った高級品に触れるなんてできやしないだろう。
ショーケースに入った高級品の写真を眺めるぐらいしか貧乏人にはできないように、僕は頭の中にいる君を眺めることしかできない。
行動できないよなー。
もし明日世界が終わるぐらい追い込まれないと僕は彼女に話す事なんてできやしないよ。
それぐらい追い込まれないと、世の中の人は店から品物を持ち出そうだなんて考えないだろう?
そんなもんだよ、僕の度胸なんてモノはさ。
実はツミキさんが男を取っ替え引っ替えしてるとか知らない。
実はツミキさんが口を開けば暴言陰口ばかりとか知らない。
実はツミキさんはガサツで化粧が面倒なだけなんて知らない。
実はツミキさんが僕の二つ隣の席のアイツの家から朝帰りしてるなんて知らない。
実はツミキさんが周りから嫌われてるグループにいるだなんて知らない。
実はツミキさんはこの1年間で高校デビューよろしく、脳みそ肥だめ状態になっただなんて知らない。
実はツミキさんの以前の姿はこんなひどい物ではなかったと知ってるのは僕ぐらい。
僕の目の前には二度と現れないであろう、僕のツミキさん。
ああ、君の姿が見れるだけでも幸せだよ。
決して手の届かない、理想。
まるで二次元の中のキャラクターのような存在。
僕の頭の中の物語のヒロイン。
瞼の裏ドリームシアター。
今晩のじめじめとした空気のせいか、いつもなら火薬が弾けるようなテンションの僕は湿ってしまったかのようにやる気も何も起きない。
ただボーッと、天井を見たり、壁のシミを見たり、机に突っ伏したりして、ため息をつく。
本当のところ、このやるせない怠惰感や無気力感、ため息の原因は学生の本分である学習や何ともいえない面倒臭い上下関係などではなく、隣のクラスにいるツミキさんである。
勝手にため息の原因にしてしまっているのは大変申し訳ないと思うのだが、彼女の魅力は僕を虜にしてならない。
廊下から見えるあの人はもの静かで、自称「可愛い女の子」のきゃぴきゃぴした奴らなんか足下に及ばないくらいの大人の女性らしい凛とした魅力がある。
周りがやれ化粧だの香水だのなんだの、わいわい騒がしい中でツミキさんはナチュラル、そう、自然のままの美しさをしているのだ。
さすがに今時の女の子だから化粧っ気がないというわけじゃあない、本当に素材の良さを生かしてほんのりと化粧をしてる。
ただただ彼女の美しさにため息しかでない。
ああ、一言でいいから、言葉を交わしたい。
本日何度目か分からないため息。
ああ、僕はこのままため息を出し続けていたら身体からありとあらゆる空気が失われてしぼんでくしゃくしゃになった風船のようになってしまうのだろう。
「あー」
机に突っ伏した状態でこんな声を出そうが何しようが、やかましい教室の中では埋もれて消えていってしまう。
「んっんー、ほぁああ」
なんて声を出そうが、僕の声は埋もれて消える。
ああ、なんでこのクラスにはツミキさんがいないのだろう。
「付き合ってくださーい」
「できれば、結婚してくださーい」
ちゃんと口にだしてるよ。
……ま、でも本人の目の前じゃあなきゃ、もっと大声じゃあなきゃこんな声は何の意味もない。
身体を起こして、頬杖をついて、ただボーッと廊下を見る。
あ、ツミキさんだ。
あ、行っちゃった。
所詮、僕の根性なんてこんなもんさ。
確かに自分のストーリーモードを順調に進めてはいるけど、そんなに積極的な物語じゃあないんだ。
山もなければ、谷もない。
希望がない分、絶望もしない。
そーんな楽で、平穏な人生が僕のストーリーモードだ。
ああ、付き合いたい。
できれば結婚してください。
言葉は交わした事はないけど、言葉を交わしている所は見た事がある。
目の前にはいないけど、見た事はある。
そんな断片的な彼女の姿をつなぎ合わせて作ったのが、僕の頭の中にはある。
ああ、美しい。
彼女は僕と楽しく会話して、彼女は僕に笑いかけて、彼女は僕に怒って、彼女は僕と仲直りして……。
君は僕の理想だ。
ああ、手を伸ばしたいのはやまやまだけど、貧乏人がショーケースの中に入った高級品に触れるなんてできやしないだろう。
ショーケースに入った高級品の写真を眺めるぐらいしか貧乏人にはできないように、僕は頭の中にいる君を眺めることしかできない。
行動できないよなー。
もし明日世界が終わるぐらい追い込まれないと僕は彼女に話す事なんてできやしないよ。
それぐらい追い込まれないと、世の中の人は店から品物を持ち出そうだなんて考えないだろう?
そんなもんだよ、僕の度胸なんてモノはさ。
実はツミキさんが男を取っ替え引っ替えしてるとか知らない。
実はツミキさんが口を開けば暴言陰口ばかりとか知らない。
実はツミキさんはガサツで化粧が面倒なだけなんて知らない。
実はツミキさんが僕の二つ隣の席のアイツの家から朝帰りしてるなんて知らない。
実はツミキさんが周りから嫌われてるグループにいるだなんて知らない。
実はツミキさんはこの1年間で高校デビューよろしく、脳みそ肥だめ状態になっただなんて知らない。
実はツミキさんの以前の姿はこんなひどい物ではなかったと知ってるのは僕ぐらい。
僕の目の前には二度と現れないであろう、僕のツミキさん。
ああ、君の姿が見れるだけでも幸せだよ。
決して手の届かない、理想。
まるで二次元の中のキャラクターのような存在。
僕の頭の中の物語のヒロイン。
瞼の裏ドリームシアター。