夏、入道雲が高い日。
家の前に川があるせいで小さい頃から釣りが好きだった。
近所にあった堆肥小屋にミミズがたくさんいて、釣りエサに不自由することはなかった。
無心にミミズをさがしている時、幻聴が始まる。
ヒソヒソと数人のささやくような声。
何を話ているのかはわからない。
ただヒソヒソヒソヒソと終始まとわりつく。

秋、涼しげな風の吹く晴れた日。
草むらで無心に虫を追っている時、幻聴が始まる。
ハヤク!ハヤク!ハヤク!ハヤク!
ささやき声がつきまとう。
ハヤク!ハヤク!ハヤク!

うるさくも怖くもなかった。
無心の行為をおえると同時に幻聴はかき消えた。

今は手のひらをまるめて耳にあて潮騒のような音を楽しむだけ。
あの晴れた日に聞こえた幻聴がなつかしい。