子供の頃の我が家は変な形の屋根をしていた。

我々子供が寝ていた二階部分は普通の切り妻だったけれど、台所や風呂場のある東側が平屋で、屋根の形が切り妻を逆さにした様にへこんでいて、屋根のまん中を雨どいが通っていた。

そのために子供がのぼったとしても危険はなく、時に孤独を味わいながら周囲の風景を眺めたり、トタンの上に寝そべって空の雲を眺めるのにかっこうの場所だった。

その屋根にのぼるのは、雨どいの終点の裏の土手から渡ると子供の私でも割りと容易にのぼれるのだった。


屋根の中ほどに風呂釜からのびる煙突が立ち、あの変な形の屋根は煙突掃除を安全にするための設計だったのかも知れない。

煙突の先には滑車が付いていて、それを介してロープが伸び、そのロープを引いたり伸ばしたりすると煙突の中を煤をかき落す為の円筒形のブラシが上下する仕組みになっていた。

小学校の終わり頃に家が改築されるまで、この屋根にのぼってする煙突掃除は私の好きな仕事のひとつだった。


息子達が高校生、娘が中学生の頃、一度屋根にのぼる楽しさを子供達に教えたくて、ある日曜日、子供達を前にのぼるかと訊くと二つ返事でのぼりたいと言う。

今の我が家は総二階のつくりで屋根にのぼるのもハシゴを使わねばならないが、まだ裏の土手が健在でさほどの危険もない。

はしごで梅の木の根方にのぼり梅の枝を手がかりに屋根へと渡る。

初めての風景に子供達の顔が輝いていたけれど、以後もう一度の声を聞くことはないのだった。