父親は神事に丁寧な人だった。

「エビスコ」と親が呼ぶ行事があって、年二回、神棚に祀ってある張りぼてに彩色されただけの素朴な恵比寿大黒を座卓におろし、尾頭付きの鯛や煮魚、てんこ盛りの炊きたてご飯、それに豆腐のお吸い物をならべ、お神酒も添えロウソクを燈して饗応の宴を張る。

倉庫番の佐川さんも神事が好きだったのか、この人は川で小魚をすくい、それをどんぶりの水にはなしてごちそうに添える係。


すべての準備が整うと恵比寿様と大黒様の間に一升マスが置かれ、そこへ各自の財布を入れて、全員うちそろって正座低頭かしわ手ふたつ、家内安全商売繁盛を祈願する。

海老で鯛を釣ると言うか、鯛で富を釣ると言うか、かなり現金なお祭りごとだった。


ただ、この恵比寿大黒にはいわれがあって、両親が結婚したばかりの頃、母がとある占い師に行く末をみてもらうと、恵比寿大黒が押入れに仕舞い込まれて泣いているとずばり事実を指摘され、驚いて帰宅するなり丁重に神棚に祀ったのだとか。

以来、今日まで毎朝のご飯と水のお供えを欠かさぬ我が家の習慣が続いている。


いまや我が家の「エビスコ」はかなり間欠的で手抜きな行事になってしまったが、思い出したように座卓を持ち出し、恵比寿大黒を並べてロウソクの灯かりを燈せば、その表情は父母存命の頃と変わらず、やさしく柔らかな笑みに満ちている。


あさって1月20日は恵比寿講。

実利を祈る行事はいつしか父母をしのぶ行事になってきた。