小学1年生の時のこと。

図工にでも使ったのか文房具屋でセロファンを買った。

代金が2円か3円だった。

ところが買ってからお金を持っていないことに気づき、どうして良いのかわからなくてモジモジしていた。

店のおばさんが私の態度に気づき

「お金がないの?じゃ、明日でいいから必ず持って来てね」

顔をのぞき込んでそうやさしく言ってくれたけれど、恥ずかしさにいたたまれない思いだった。


そして次の日、お金を持っていたはずなのに、2・3円の少額を支払うということが何故だか恥ずかしくて、その店に入れなかった。

本当のところ、その時の心理が自分でもよくわからないのだけれど、どういう言葉を使えば良いのかわからなくて逃げてしまったのかも知れない。


ところが、その後も時々その店で買い物をしていたのだから、その辺りがさらにわからない。

おばさんは忘れてしまったのか、セロファンの代金を要求された記憶もない。

忘れるような女性とも思えないから、長い目で見た顧客への配慮だったのかも知れない。


時は過ぎ、40年ほどのちのこと。

時に頭をよぎるその記憶のもとを清算してしまいたくて、恥をしのびながら、くだんのおばさんのご亭主にその件について説明し、利息込みということで百円玉1個を差し出した。

普段から好意的なお付き合いをしてくれていたその人は、この珍奇な申し出に対して驚きながらも素直に受けてくれ、百円では多すぎるから五十円を頂きましょうと言い、五十円のお釣りをくれたのだった。