商店会が主催する歌謡ショーが毎年、町の公民館で開かれた。

買い上げ額に応じてポイント券のようなものが客に渡され、一定額に達すると、御1名様、歌謡ショーにご招待というわけだ。

どんな歌手が来たのか、今ではほとんど忘れてしまったが、西郷輝彦と北原健二だけは覚えている。


生で見る西郷輝彦はスラリと足が長くてほんとうにカッコよかった。

舞台のソデ近くで見ていた私と西郷輝彦の視線がピタリと合い、5秒ほどだったろうか私を見つめたまま西郷輝彦が歌い続けた時があった。

田舎の少年に何を思ったのか知らないが、スターに見つめられてクラクラする思いだった。


北原健二は最悪だった。

歌謡ショーが始まり、何か変な雰囲気がただよっていることを子供の私も感じ出した時、突然、歌をやめた北原健二が

「ピアノもないところで歌えるか!」

そう捨てゼリフを吐いて舞台から引っ込んでしまったのだ。

若い人はその名前を知らないだろうが、鼻にかかった声が人気で二三のヒット曲を出したことがあった。

どうなだめられたのか、その後再び舞台に戻りショーは続けられたが、実に白けた思いがした。

5年ほど前、新聞の片隅に北原健二の死亡記事が載っていて、その気分の悪いショーを思い出した。