弟が生まれた日のことを覚えている。


主に来客のための部屋があった。

板の間に踏み込み式の囲炉裏があり、三方は鉄の格子で足をおろす場所と火床が区別され、土間に向いた方だけが木炭を補給するために開放されていた。

冬になると天板の下に毛布がかぶせられコタツのような形になった。

客は山で炭を焼く人達が多く、来客といえばその囲炉裏の天板にコップが置かれ、酒が振る舞われた。


弟が生まれた時、兄と二人でその囲炉裏にいた。

障子一枚隔てた部屋に母と産婆がいて、祖母もいたような気がするが、父がいたかは覚えていない。


指折って数えてみると、その時の私が3歳1ヶ月、兄が5歳2ヶ月だった。

ふたりは隣の部屋の気配を感じながら、弟の名前について話し合っていた。

何故か、ふたりとも妹が生まれることは考えておらず、男の子の名前を色々出し合っていた。

今ある弟の名前を出したのは兄で、私も好ましく感じて賛成したことを覚えている。


弟が生まれた瞬間は覚えていないが、私達が選んだ名前に親たちも賛同してくれて、倉庫番の佐川さんが画数を見て漢字を選んでくれた。