生来が内気な子供であったせいか、電話で話すことがひどく苦痛だった。

子供の私にかかってくる電話など有りはしなかったが、親の留守中に電話がかかってくることがあり、初めは知らんぷりを決め込んでいるのだけれど、間をおかずに幾度もベルが鳴るとそうもゆかず、子供なりに重要な電話かも知れないなどと思い、意を決して受話器を取り上げる。


「ホラ!いたじゃないの、出なきゃダメじゃない!」と叱り声の電話交換手の声が響き、とたんに電話に出たことを後悔させられる。


電話の内容はまずほとんどが父の商売上の用件で、電話をかけてくる相手も気軽にかけられる環境でないためか、相手が子供でも容赦なく話を押し付けてくるのだった。


電話代が気になるのか相手の口調は速く、子供に話を理解させようという姿勢は皆無に近い。

加えてひどくなまった話し口も理解のさまたげに拍車をかけるのだった。


かくして、そのちっとも理解できない電話の終了ばかりを待ち望む子供はハイとしか言えず、電話の終了と同時に自責の念と後悔にまみれるのだった。