せっかちな彼は思っていた時間より10分早く出ていった。



時計をちらりと見て時間が迫っていると感じ取ったか彼はおもむろに抹茶フラペチーノを子供のようにゴクゴクと飲み干した。
そしてもう私に関心はないという顔をして窓の外を見たので


もう行く?


と聞いた。

すると
それを待ってましたというように席を立った。



私はそう言うしかないじゃない。
いつも私には選択肢はない。
彼の勝手な衝動で物事が決められる。
それに不服を言えば機嫌が悪くなる。



今日のフラペチーノはありがたく奢られて
今後私がお礼にと奢り返すことはないだろう。



だって彼はきっと女性とカフェに来るぐらいの為に
時間を融通するような人ではないから
もうこんな機会はないだろう。



今日のこの奢りは口止め料だと思っておく。



愛情とか同情という人間的な感情で動く男ではないからここまで出世したんだろうな。



虫のような直感力で自分に何が得か何が損かで生きてこなければここまでは辿り着けないのだとしたら
彼の私に対する態度も行いも彼の中では正義なんだろう。



何の憂いもなく淡々と席を立って
何の名残もなく背を向けて出て行った。



少なくとも今の彼はそんな人。
10年前とは変わってしまった。



それが分かっただけでも、今回の騒動には意味があった。


今回の事件は
はじめは神様からの制裁かと思ったけど
振り返ってみると私にとっては
私に新しい道へ踏み出せという贈り物だったのかもしれない。