スタジオ・アバター号が虹色のトンネルを抜け、窓の外(ディスプレイ)に宝石を散りばめたような極彩色の惑星、アバタードールが見えてきた。
「マコト、見て! あれが私の故郷よ。あそこへ降りるには、一つだけ大事なルールがあるの」
アイは目を輝かせながら、マコトの前にスッと指を立てた。
「ルール?」
「ええ。アバタードール星では『本来の魂に相応しい遊び心』を纏わなきゃいけないの。今のマコトは……うーん、ちょっと『真面目』っていう殻が固すぎて、星の重力に馴染めないかも」
アイはそう言うと、手元のコントローラーを慣れない手つきでカタカタと操作し始めた。画面には「Character Create」という文字と、マコトの 3Dモデルが浮き上がっている。
「ちょっと待って、アイ。何を……」
「いいから任せて! マコトの中に眠っている『柔らかい部分』を引き出してあげる。
……髪は艶やかな黒のショートボブにして、少しだけ結んで白い花を飾りましょう。
瞳の色は……そう、吸い込まれそうな夜空の紫……。よし、これよ! 決定(エンター)!」
「えっ、ちょ、アイ!?」
瞬間、マコトの体を眩い光が包み込んだ。 自分の体がふわりと軽くなり、重心が少し変わったような奇妙な感覚。光が収まり、マコトが恐る恐る自分の手を見ると、そこには元のゴツゴツした骨格ではなく、白くてしなやかな、細い指先があった。
「な、なんだこれ……! 声が、声が高い!?」
「大成功! 宇宙一キュートな女の子、『マコちゃん』の誕生ね!」
アイが船内の壁面を大きな鏡に切り替えると、そこには見知らぬ美少女が映っていた。
少し幼さを残した顔立ちに、意志の強さを秘めた大きな紫の瞳。
ぶかぶかの白いパーカーが、華奢な肩を包み込んでいる。
「ど、どうして女の子なんだよ! アイ、早く元に戻してくれ!」
慌てて自分の体を触りながら(そしてその柔らかさにさらにパニックになりながら)叫ぶマコトに、アイは腰に手を当てて、アミが教えを説くときのような「ちょっと背伸びした聖者」の顔をして言った。
「いい? マコちゃん。アバタードール星では、性別なんてただの『色彩』の一つなの。マコトはいつも『男らしくなきゃ』とか『青年らしく正しくなきゃ』って自分を縛ってるでしょ? 一回その重石を捨てて、可愛い女の子になって、世界を思いっきり楽しんでみるの。それが『愛の度数』を上げる近道なんだから!」
「そんな、無茶苦茶だよ……」
「ほら、鏡を見て。そんなに困った顔をしてても、マコちゃんはとっても可愛いわよ。さあ、上陸よ! 恥ずかしがってたら、アバターが消えちゃうんだからね!」
アイは赤くなって俯くマコちゃんの背中を、楽しそうにポンと叩いて、ハッチを開けた。そこには、想像を絶する「自由な姿」の住人たちが待つ、光り輝く世界が広がっていた。
※この物語はフィクションであり、おとぎ話です。 実在の人物及び団体とは一切関係ありません。

