あと二日で私はいよいよ30歳になる。


もう30代になるのかと思うと、私は憂鬱だった。


幸せだった時代は、もう終わってしまったのかもしれない。


私は毎日、スポーツジムでひと汗流してから会社に行く。


そのジムで、毎朝ニコラスに会う。


ニコラスは79歳だが、鍛えた見事な体をしている。


その朝、いつもどおり「おはよう」と声をかけたのだが、

彼は私がふだんのように元気でないのに気づいた。


「具合でも悪いのかい?」


私は30歳代にさしかかって不安だと打ちあけた。


私が彼くらいの年になったら、人生をどうふりかえるのだろうか・・・。


「ニコラス、人生でいちばんいい時っていつだった?」


彼は即座に答えた。


「ジョー、きみの哲学的な質問に対して哲学的に答えよう。」


「オーストリアで何ひとつ不自由のない子ども時代を送り、両親に守られていた。


あのころが人生でいちばんいい時だった。


学校にあがり、今の自分を作った知識を学び始めた。


あのころが人生でいちばんいい時だった。


社会に出て就職し、一生懸命働いてお金をもらった。


あのころが人生でいちばんいい時だった。


いまの妻と出会い、恋に落ちた。


あのころが人生でいちばんいい時だった。


第二次世界大戦になり、私は生き延びるため妻とオーストリアから逃げた。


北アメリカ行きの船の甲板で妻と無事を喜んだ。


あのときが人生でいちばんいい時だった。


カナダに行き、二人で新しい生活を始めた。


あのころが人生でいちばんいい時だった。


父親になり、子どもたちが成長するのを見守った。


あのころが人生でいちばんいい時だった。



そしていま、


ジョー、私は79歳だが、病気もせず、元気で、結婚したころと同じように妻を愛している。


いま、この時が人生でいちばんいい時さ。」






おれは、パチンコに行く前。

あのころが人生でいちばんいい時だった。。。