あなたへの、届かない手紙は、これが最初で最後です。


あなたは、貧乏をしていて、その日の米がなくても、僅かに残った手のひらほどの米を、まだ小さな僕にだけは食べさせて、あなたとあなたの妻は 『一食二食食わんでも死にゃぁせん』 と言いながら、そんな毎日を過ごしていましたね。

そして、毎晩僕を寝かしつけた後も、自分のためではなく、僕の明日の米のために仕事をしていましたね。


僕はあなたのそんな愛情を受けて、スクスクと育ち、あなたの背丈よりも大きくなると、生意気な事ばかり言い、自分の思うままに、自分一人で育ったかのように、あなたの愛情を忘れて生きてきました。


あなたがこの世から旅立った後、あなたの妻は僕が生まれた頃の生活振りとその後の数年間を、物語のように僕に聞かせてくれました。いえ、教えてくれました。

どれもこれも、あなたがたった一言でさえ僕に言わなかったことばかりです。


病気をして死に掛けている僕を背負って病院に無我夢中で走った事。

自分は味噌汁一杯の食事でも、無理して肉を買ってくると、それは全部僕に食べさせていた事。

僕の学費をなんとかするためにどれだけ走りまわっていたかって事。


愛とは、そんなふうに一切の見返りを期待することなく注ぐものなんだって、あなたが身をもって僕に教えてくれましたね。

残念ながら、僕がそれを学んだのはあなたが遠くへ逝ってしまった後でしたけど・・・。


今さらながらありがとう。