今思うと、あなたと出会った頃、やっと終戦から立ち直った頃の、

まだ貧しくて食べる物さえろくになくって、

あの頃のあなたに出会えて、あなたと一緒になって、本当に良かったって

心の底から思っているんですよ。

あの頃のあなたは食べる事だけで手一杯なのに野心家で、夢ばかり見ていて

とても信用できる人じゃなかったし、何をしても失敗するに決まっているじゃないのって、

あなたには悪いけど、私はそう思っていたの。

でもね、あなたの目は本気だったし、成功してもしなくても後悔のない人生を

送ろうと真剣だったのは良くわかっていたから、信用してなかったはずなのに、

この人となら、どこまでもついて行こう、泥水をすすってでもこの人と一緒に生きて

行けるって、そう思ったわ。

それを信頼っていうのかしらね。

思った通りだった、苦労ばかりで何も良いことはなかったし、私は随分泣いたわよ。

でも、年をとって子供が大きくなって、孫もできて、父親としてのあなたと、夫としての

あなたが幸せを感じながら、今は平穏に暮らせているんだもの、昔の苦労なんてそれだけで

ご破算にできる。

それに、苦労だらけだった人生のはずなのに、こうして天国であなたと過ごした人生を思うと

不思議よね、幸せな人生だったって思えるんだもの。


あなたと私との間に信頼が作れて良かった、だから一緒にそれをい越えて平和な今を

迎えることが出来たのよね。

それなのに、私だけが先に天国へ来てしまってごめんなさい。

残したあなたのことも子供達のことも、孫のことも気がかりだけど、あなたがいるから

きっと大丈夫。

あなたがいないから天国は良いところだけど寂しいな。

でも、あなたはあなたの天寿を精一杯生きないと、ここへは入れてあげませんからね。

いつになるのかは誰にもわからないけど、いつか天国で逢いましょう。

それでは、それまでどうかお元気で。


あなたのたった一人の妻より