もう随分前のことだけど、沖縄に長期出張をしていた事があった。

大きな機械装置の納入で、メーカーの技師として毎日ホテルと現地の間をレンタカーで通勤していた。

通勤途上に海沿いを走る道があり、その途中に海を一望できる展望台があった。

どうしてのその展望台から眺める海がどんなものか確かめたくて、現場で残業になったある晩、

その展望台に立ち寄った。

目の前には視界の左端から右端まできれいに水平線が広がり、地球が丸いのだということがわかる。

しかも月の光が波に映ってキラキラと輝いて、何かの有名な絵画かと思うほど、それはそれは

広く美しい光景だった。

静かなその海を眺めながら、僕は小さな手漕ぎのボートで海原へ漕ぎ出す自分の姿を想像した。

これだけ広い海では、どんなに大袈裟に自分の姿を思い浮かべても、小さなノミほどにもならない。

そこで、ふと気付いたことがある。


毎日の生活や仕事の中で、もう人生が終るかもしれないと思えるほど、

世界中の悩みが全部自分の上に載っていると思えるほど、悩み苦しむ事があるけれど、

そんな自分にとっての最大であろう苦しみも悩みも、今目の前に広がる世界の中では、

バクテリアほどの大きさでもないんだ・・・・。


そう、苦しみに直面すると、人はどうしても目の前の大きな苦しみがこの世のすべてであるかのような

錯覚に陥る。

でもそれは明確に認識が間違っていた。

自分に降りかかる不幸な苦しみは、ほんの些細なものでしかない。

だから、必要以上に苦しんだり悲しんだりしなくても良いんだってこと。

きっとなんとかなる、大丈夫だよ。