正月が明けてまだ間もない頃、事業で失敗した僕は借金を抱えていた。
だから、稼ぐために朝暗いうちから市場で働き、冷凍庫から商品を出しては店先に並べていた。
休む間もなく売れた商品はお客さんの車に積み込む作業を繰り返す。
で、その日の販売が終わると残った商品はまた冷凍庫に戻すんだ。
しばらく冷凍庫の中で商品を元に戻すと、真冬なのに外へ出るととても暖かいと感じた。
冷凍庫は本当に寒かったからね。そりゃぁそうさ、マイナス25度だもん。

市場の仕事が終わるとその足で、飯も食わずに警備の仕事へバイクで行くんだ。
夜まで続くから、家に帰るとヘトヘトだったよ。
財布には千円札が1枚か2枚入ってたかな。
あんまり腹が減って、仕事の帰りにコンビニで弁当を買うんだけど、給料日までまだ少しあるから、300円くらいの海苔弁当だけ我慢するんだ。
冬だろ?バイクだしさ、帰るまでにギンギンに冷えちまってね。
あれだけ寒い思いをしてバイクでも冷えて、その上氷みたいに冷えた海苔弁の硬くなったご飯に飛びつくみたいに食らいついてんだからたまんない。

冷えてるせいかご飯が少し硬くてね、割り箸がポッキリ折れて、それで食べるのを途中でやめて、思わず割り箸を放り投げちまった。
なんだかさ、部屋の隅に転がった割り箸を見てたら涙が出てきたんだよ。
一日中働きずくめで、やっとありつけたせめてもの安弁当にまでコケにされて、俺なにやってんだろって、そう思ったら涙が止まらなくなった。
夜中なのに声出して泣いたさ。
悲しくて泣いたわけじゃない、今の今まで張り詰めてた何かがプツンと音を立ててはじけたんだよね。
朝から晩まで、俺はいつもギリギリだったから。
気持ちがとんがってて、張り詰めてて、自分以外のなんでもかんでも敵に思えたよ。

人間なんてさ、それでも生きていけるんだ。
自分が追いかけて、自分で失敗して、自分でその尻拭いをする。
そう、それが自由。だから俺は本当の意味での自由を謳歌していたんだ。
だから泣くのも自由。誰にも邪魔されずに泣くこともできた。
生きるってこういうことかなって思えて、壊したものも失ったものも多かったけど、俺にとっては悪い人生じゃないなぁ。