その年、小幡潤伍は内定も決まらないまま最後の大学生活を送っていた。
内定をもらえなかったのはただの怠慢だった。
2年半同棲した彼女が亡くなってから、彼は抜け殻同然となった。
蒼井夏。
オリンピックを楽しみにしていた夏は、その名の通り、潤伍にとっては爽やかな初夏の風のような存在だった。
大学近くの弁当屋でパートをしていた彼女に一目惚れし、らしくもなくナンパした結果。
「私、軽い男、嫌いなんです」
しかし、これまたらしくもなく、毎日昼夜の弁当を求め、また彼女をも求め続けた。
遂に失笑交じりで受け入れた夏の笑顔も、彼にとってはまだ鮮明だ。
涙もろくて、困ったように眉を下げながら、でも臆面もなく大口で笑う。
ブランド品には興味を示さず、服も家具も中古を求めることが多かった。テレビっ子でインドア派かと思いきや、アウトドアでも大いにはしゃぎ、細かい事を気にせず少しずぼらな面も気に入っていた。
何をしても、あっけらかんと笑う夏が、潤伍の全てだった。
同棲から半年、母親が末期胃癌で亡くなった。父は高校最後の冬、受験に勝利した後にやはり病が原因で亡くなっていた。
おしどり夫婦とはやされ、息子が恥ずかしくなるくらいに仲の良かった2人だ。後を追うように静かに逝き、彼女を紹介することも出来なかった。
普段はすぐ泣くくせに、その時の夏は泣かなかった。
ただじっと、喪主の彼を抱きしめていた。
夏は孤独だった。
小学生の時に両親を事故で亡くし、親戚をたらい回しにされたあげく、結局は20歳にも満たない歳で生計を立てていたのだ。
その強さに、優しさに、さらに溺れていく。
そんな直後、夏はトラ柄の子猫を拾ってきた。
霧雨の中、湿った段ボールで丸まった子猫を放って置けないと。
動物好きの彼女だ。気持ちは潤伍にも分かったが学生用の1Kのアパートでネコなどもってのほかだと里親探しを勧めたが、結局負けたのは彼の方だった。