この作者に出会ったのは遥か昔で兄が愛読していた雑誌のコラム的なものだった。後にハードボイルド作家という彼の肩書きが数年後に目に付くが当時の私は書物自体に興味も関心も無く時は過ぎていく。大人になり小説も読むようになって歴史物もそれなりに読んでいくうちに中国史も良いが日本の歴史物小説は戦国時代と明治維新だけでいいのか?と思い始める。曖昧で複雑そうな時代として南北朝時代があり義務教育レベルの知識しか無い私は興味を持ち手に取ったのがこの作品で15年ほど前の話である。後に作者のほぼ全ての作品を読み漁るきっかけにもなったのが。(前置きが長くなった)作品の冒頭から度肝を抜かれる。海より来る〜で書き出しから「はじまるのはこれからだった」までに全て凝縮されているのである。戦闘の様子、時代背景、主従関係までが頭に入ってくる。もう読み進めるしか無いほど没入してしまっている。第二章の終わりに名場面が訪れる両雄の対面である。描写が実にいい。取り巻きの様子から互いの距離感、セリフ。何度見ても感動してしまう。この作品は何度読み返したか記憶なく誦じられるのではと思うほど読んだ。何故だか考えると主人公の生き方は勿論だが戦闘や生活感、人の考え方などが実にリアリティなのだ。人の潔さ誇り清廉さから汚さや欲、狡猾さにいたるまで良い意味で生々しい。誰もが知る人物(南北朝時代の主たる登場人物)の様子も教科書からは読み取れないものがある。懐良親王と菊池武光の堂々たる生き様に感動するのは勿論だが歴史にifが有ったとしたらと想像してしまうのも楽しい作業だったりする。この時代に関連する作者の作品は全て熟読したがどれも良さがあり全てが自分史上のベスト小説なのは間違いない。作者と作品に出会えたのは感謝しかない。*作品に関する意見は全て個人的見解です。