車内にFMラジオがながれている。ロードノイズと車外の騒音だけで無言のまま目的地まで向かうよりは居心地よく感じた。「9月7日火曜日、東京地方は現在・・・」アッ!しまった!今日は涼子の誕生日だ。涼子とは、大学が同じで共通の友達を通じて知り合った。彼女は大学院へと進んで、僕は卒業後IT企業にエンジニアとして就職した。そして5年が過ぎた夏の日。日々プライベートーな時間も取らずに働いてきた自分への褒美として、夏期休暇に有給を加えて2週間をスイスでひとりで過ごそうと、成田に向かうべくホテルニューオータニでリムジンバスを待っていた。夏期休暇と言っても8月2日からなので学生以外の世の中はまだまだ仕事モードだ。リムジンが昼過ぎの発車なので、お昼をオータニでランチしようとOLたちが、少しでも時間を有効に使いたあのか小走りでヒールの音を響かせていた。
F5.F4...F1今日はラッキーと言えるほどと下界までスムーズに着いた。タクシーに乗れば間に合うな。呟きながら朝の清掃をしているコンシェルジュに会釈してマンションをでた。都合良く個人タクシーが客を下ろしたばかりなのかハザードを出して乗車記録らしきものにペンを挟もうとしていた。リアウィンドウを軽くノックすると振り向きざまに頭を下げドアがあいた。青山三丁目の方向へ向かってください。曲がる所は教えますから。「ハイ」と返事がありハザードを消すとタクシーは走りはじめた。
32F.31F. 30F エレベーター止まりドアが開く。どこから誰がみても紳士に見える60前後の男性が乗ってきた。何度となく出くわしたことはあるが、常に新品としか思えないほどのスーツを男ではあるがエレガントに着こなしている。男が男に惚れると言うのはこんな気持ちかもしれないと頭のなかで呟いた。29F....回数表示を瞬きもせずに睨みつけ止まるなと念じていたが15Fで再びドアがあいた。母親らしき女性と小学校低学年ほどの女の子が乗ってきた。「ママあとでリボンつけて」。女性は清楚でかなり若くみえるので、どういう関係なのか興味深いところがあったが、瞬時に打消された。女の子は東京では有名な"お嬢様学校"の制服を来て大人しくドアに向かって立っていた。