注1)これは、アダルト同人ゲーム<奴隷との生活 -TeachingFeeling->を基にした二次創作の小説です。
注2)原作はアダルトゲームですが、筆者の個人的な嗜好によりアダルト展開はほぼありません。
注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手Aな方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





以上が、私が御主人様のところに引き取られた時の大まかな顛末です。

御主人様と私がずっと昔から家族だったかもしれないという事実を知って私は、ようやく本当に御主人様の家族になる為に生きられるようになった気がします。

あの頃の私は知らなかったのですが、実は奴隷という存在自体がもうずっと昔に禁止されて本当はいない筈のものになっていたそうです。だから私が奴隷だったという事実は、表の社会には決して残らない虚構でしかなかったんです。

そう、私は生まれてからただの一度も本当に奴隷だったことはないんです。奴隷のように扱われていただけの人間だったんです。それを知った時にも、私は泣きました。つくづく泣き虫だと思いますけど、自分が御主人様と同じ人間だったことが嬉しくて仕方なかったんです。

御主人様と出会ってから10年。これまでの間、御主人様と私はただ穏やかで平穏な暮らしを心掛けてきました。多くを望まず、だけど互いを大切にして。

でもその10年の間に、大きなこともありました。一つは、私に<誕生日>ができたこと。それまで誕生日を知らなかった私にとって、御主人様と出会った日こそが誕生日に相応しいと、決めてくださったのです。

それと、御主人様と一緒に過ごすようになってから2年ほど経った時、私の体にある変化がありました。月経が始まったんです。体の成長は残念ながらそんなに進まなくて少し悲しかったけれど、これで私も御主人様の書斎で見たあの本と同じように、人間の母親になることもできるのだと、胸がつまる思いでした。

そして今日、あの日からちょうど10年の私の誕生日に、私は御主人様と晴れて本当の<家族>になります。先日結婚なされた女王様の純白のドレスに倣って白いドレスに身を包んだ私の隣には、真新しい近頃流行りだというスーツで固めた御主人様が。

本当に近しい人達だけを集めた小さな結婚式で、私は永遠の愛を誓います。

さらにその数か月後、私は家族が増えることを知るのでした。



「御主人様…愛しています。ずっと…ずっと……」





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注1)これは、アダルト同人ゲーム<奴隷との生活 -TeachingFeeling->を基にした二次創作の小説です。
注2)原作はアダルトゲームですが、筆者の個人的な嗜好によりアダルト展開はほぼありません。
注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手Aな方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





「あの、御主人様…?」

寝支度を整えている御主人様に向かって、私は声を掛けました。昨日の夜にも言おうとして、でも言い出せなかったことを今夜こそ言う為に。

「なんだい?、シルヴィ」

そう答えてくださった御主人様は、でもその時の私の様子にいつもとは違う何かを感じられたのか、不意に改まった顔をされてベッドに腰を下ろされました。そして私にも腰を下ろしように促します。私は御主人様のすぐ隣に座り、穏やかに見詰めてくださるその顔を見上げました。そして思います。今こそ言うべきだと。

「御主人様…何度も申し上げていますけど、私、御主人様にすごく感謝しています。食べ物に、お洋服に、たくさん頂いてしまってます。だから少しでもお返しをしたいって思ってるんです。それでいろいろ考えたんですけど、私簡単なお手伝いぐらいしかできないし…それで、その…」

そこまで言ったところで、言葉がつかえてしまいます。急に喉が渇いたようになって、上手くしゃべれません。だけど、もう後戻りはできません。

「…あの、御主人様…」

何とかして、言葉を絞り出し続けます。

「御主人様はお付き合いしてらっしゃる方とかはいないんですよね。それでもし、夜のお相手が…欲しいのであれば。わ、私と…、私を…だ、抱いてくださいませんか?」

その言葉を口にした瞬間、私の顔も体も、火が点けられたように熱くなりました。きっと顔は真っ赤になっていたでしょう。汗まで噴き出してくるのを感じます。

「私、経験はないですけど、こういうことも…奴隷として御主人様にできることです…よね?」

口もからからです。だけど…だけど私は続けました。言わなくちゃいけないから。いえ、ここからが私が本当に言いたいことだったんです。

「私、御主人様にだったら…いえ、私も…御主人様と、形だけでも…む、結ばれたい…なんて」

言いました。言ってしまいました。でも、御主人様の顔が見られませんでした。顔を上げることができませんでした。

「ううん、それは…おこがましいですね。ただ、御主人様の為に何かできないかという話です。私、発育も悪いし、醜い傷もあります…魅力なんてないとは思います。それでも…もし、御主人様が求めてくれるなら…私…」

と、思わず取り繕うように言ってしまった私に、御主人様は静かに語りかけてくださいました。

「ありがとう…気持ちは嬉しいけど、私は君をそういう風には見ていないんだ」

御主人様の言葉が耳に届いた瞬間、あれほど熱くなってた私の顔や体から、ものすごい速さで熱が引いていくのを感じました。体中の血が地の底へ流れ出してしまうみたいに、冷たくなっていきました。

「…はい、そうですよね。私なんかが…でも、もし気が変わったら、おっしゃってください。では、おやすみなさいませ…」

聞きたくなかった。本当ならそういう風に言われて当然なのに、心のどこかでは受け入れて貰えると思っていました。けれど、そんなはずはなかったんです。

私…馬鹿だ…私なんかが御主人様に釣り合うわけないのに、御主人様が優しいからってそれに甘えて…

私は立ち上がり、自分の部屋へと行こうとしました。もう御主人様と一緒には寝られないと思いました。だけどそんな私を呼び止めるように、御主人様は言いました。

「シルヴィ…よく聞いてほしい。前にも言ったが、私は君を家族だと思ってる。私にとって君は奴隷なんかじゃないんだよ。だから奴隷としてとか考えなくていい」

それは、いつもと変わらない、静かで穏やかで優しい御主人様の声でした。私のことを包むようにかけてくださる、いつもの御主人様の言葉でした。でも、だからこそ余計に意味が分からなかったんです。

「…でも、どうしてそれなら…?」

どうしてそれなら私を抱いてくださらないんですか?。という言葉は、私は口にすることができませんでした。思わず振り返って見た御主人様の目が、それを言葉にさせてくれませんでした。真っすぐに私を見詰める、真剣な御主人様の瞳が。

「…実は、これは確信が持てなかったから敢えて言わなかったことなんだが、私と君は、ずっと前からすでに会ってると思うんだよ」

御主人様を見詰めたままで固まってしまった私に、御主人様が静かに語りかけます。でも、その言葉の意味は、すぐには私の頭に入っては来ませんでした。

「え…?」

と聞き返してようやく、少し頭に入ってきました。会ってる…?。御主人様と私が…?。いつ…?。ずっと前、て…?。

「私も施設にいたことは前にも言ったね。その施設は、たぶん君がいた施設と同じなんだ。君が言った、ブランドン、チャーリー、トーマス、エレナという職員の名前に、私も心当たりがある。私と同じように施設にいた子供達と同じ名前だ。そしてエレナの顔半分を覆っていたという痣ができた顛末も、私には心当たりがある」

戸惑う私にも分かるようにということでしょうか。御主人様はゆっくりと、はっきりと、私の耳に染み込ませるように言葉を発していました。そのおかげで私にも、だんだんと意味が伝わってきたんです。

「まさか…」

それでも、御主人様の言葉は私の理解を超えそうになります。有り得ないと思ってしまいます。なのに御主人様は続けます。

「そう、私も最初はまさかと思ったよ…こんな偶然があるものかと。しかもそれだけじゃない。私が施設を出る一年位前に、一人の赤ん坊が引き取られてきたんだ。銀髪の女の子で、その子はシルヴィと名付けられた」

「…!」。私は頭が真っ白になるのを感じました。真っ白になって、ただ御主人様の言葉を聞きました。

「その赤ん坊が君だという確証はない。だが、君じゃないという確証もない。その銀髪とシルヴィという名前。それだけで私にはもう十分だった。私と君は、もともと家族のようなものだったんだよ。私は、赤ん坊だったシルヴィという女の子のおむつも換えたことがあるし、ミルクもあげたことがあるんだよ。その子は私によく懐いてくれていた。他の人が抱くと泣くのに、私が抱くと泣き止むんだ」

御主人様は立ち上がり、私のところに歩み寄って、そしてそっと私を抱き締めました。

「シルヴィ。君はこんな私を信じると言ってくれた。慕ってくれていることも感じてる。だからもう、あの時の赤ん坊が君だとしか思えなくなってきてるんだよ」

ああ…こんなことがあるのでしょうか?。こんなことって…こんなことって……。

「御主人様…!」

私は、ほとんど無意識のうちに御主人様の体に抱き付いていました。抱き付いて、その胸に顔をうずめていました。大きくて、穏やかで、優しくて、そして確かな御主人様の存在にすがりついていました。

「シルヴィ。君はとても魅力的なレディだ。でもだからこそ焦る必要はない。今は、君がこれまで過ごすことができなかった健やかな生活を送る時期なんだ。それを十分に過ごしてからでも遅くはないんだよ」

そっと私の頭を撫でながら、御主人様が語り掛けてくださいます。

「それにシルヴィ。何度も言うように私にとって君は家族だ。家族に見返りは求めない。家族の為にすることは、私の為でもあるんだ。私が欲しいものは、もう十分に君からもらってるよ」

御主人様に包み込まれるように抱き締められながら、私はまた涙が止まらなくなっていたのでした。





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注2)原作はアダルトゲームですが、筆者の個人的な嗜好によりアダルト展開はほぼありません。
注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手Aな方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





御主人様…御主人様は私のことを家族とおっしゃってくださいました。でも、いいんでしょうか?。本当に私なんかでいいんでしょうか…?。

その日私は、いつもの様に空が明るくなった頃に目が覚めましたけど、昨日御主人様がおっしゃってくださったように、朝食の用意をする時間まではベッドの中で体を休めてることにしたんです。でもその分、私のすぐ横に御主人様が眠ってらっしゃるのを感じる時間が長くなるということでした。

だからいろんなことを考えてしまって、何だか全然休めてる気がしません。それどころかまた体の奥がきゅっとなって、熱くなって、自然と脚をすり合わせてしまいます。そうしないと何かが零れ出そうな気がしたんです。トイレに行くのを我慢しているのに似てるような、でもトイレはさっき行ってきたばかりだし…

昨日思い付いた、御主人様へのお返しについて考えると余計にそれが強くなる気がします。どんどん体が熱くなって、きゅっとなる感じも強くなってくるような…

だけど同時に思ってしまうんです。本当に私なんかで御主人様はいいんでしょうか?。私なんかが御主人様のお役に立てるんでしょうか?。逆に迷惑になってしまうんじゃないか、私なんかより御主人様にはもっとふさわしいお相手がいるんじゃないかって。

そんなことを考えてるうちに、いつの間にか朝食を用意する時間になっていました。そこで私は考えるのをやめて起き上がって自分の部屋で服を着替え、朝食の用意を始めます。そこに御主人様が起きてらっしゃって、「おはよう、シルヴィ」と言いながら席に着かれました。

「おはようございます」と私も答え、焼いたベーコンと卵の皿をテーブルに並べます。さっきまで考えてた、御主人様にはもっとふさわしいお相手がいるんじゃないかっていうのはもう考えないようにしていました。だって、少なくとも今は私がこうして御主人様の朝食を用意させていただいているんですから。

食後のお茶も終え、御主人様をお見送りする時、いつもの様に頭を撫でていただきながら、私はその感触に包まれるのを感じました。

「本当に…今まで知らなかった温かさです」

今更かも知れないけど、素直にそう言葉が漏れます。

「人と触れるのが、こんなに心地いいなんて…今までは痛くて怖いだけだったのに……」

私を穏やかに見詰める御主人様の視線も感じながら、私の中にまだ残ってる辛いもの苦しいものがどんどん溶けて消えていくようにも感じました。

「なんだか力が抜けて、眠くなってきちゃいそうです」

起きたばかりだっていうのに、体の力が抜けて、もしこのまま横になったら本当に眠れてしまいそうでした。

「こうされるの。好き…です。優しくって、温かい…」

そうです。改めて感じます。御主人様が私にくれるものの大きさを。だから私は、それを何とかしてお返ししたいと思ったんです。何とかして…





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注2)原作はアダルトゲームですが、筆者の個人的な嗜好によりアダルト展開はほぼありません。
注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手Aな方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





今日は朝から雨でした。御主人様に引き取られる前の私なら、いつも以上に気持ちが沈んでいたはずなのに、それまでのことが嘘のように平気になっていました。ただ、お洗濯ができないと思うと残念な気持ちになるだけです。

でも、残念がっていても始まりません。それよりも、空が暗かったからかいつもより起きるのが遅くなっていました。とにかく出来ることはやらなくちゃと思って、私の部屋のクローゼットを開けました。私の服が掛かっているその光景を見るだけで、心が軽くなる気がします。

私の服…そうです私の服です。ちょっと前まではそんなこと考えるだけで怖くなってたことさえ、もう随分と昔の事のように思えました。だけどふと、私は思ったんです。御主人様はこんなに私にしてくださっているのに、私は御主人様にお返しできているんでしょうか?。

私がやっていることと言えば、奴隷、いえ、ハウスメイドとしてもすごく普通のことでしかありません。確かにハウスメイドならお給料という形で報酬をいただくのですから、私がいただいてる服もお食事もこの家に住まわせていただいてることもお給料の代わりだと考えればいいのかもしれません。でも、私がいただいてるものは服やお食事や住むところだけじゃないと思います。そういうものはどうすれば御主人様にお返しできるんでしょう?。

私が持っているもので、御主人様の為に使えそうなもの…

…駄目です。思い付きません。私は何も持ってないんですから…

考えても仕方ないので考えるのをやめて、服を着替えて掃除を始めることにします。私の部屋から始めて、トイレ、お風呂と掃除を終わらせました。続いて朝食の用意を始めます。その時、

「おはよう」

と声を掛けられました。

起きるのが遅かったから、御主人様が起きてらっしゃるまでに間に合わなかったんです。

「申し訳ありません。御主人様。今用意いたします」

私は焦ってしまっていました。けれどそんな私に御主人様はおっしゃってくださいました。

「いつも、朝早くから起きて家のことをしてくれてありがとう。でも、そこまで頑張らなくてもいいんだよ。本当なら君はもっとちゃんと寝るべきなんだ。私より後に起きても構わないくらいなんだよ」

その言葉に、私は戸惑ってしまいます。

「え…でも、それだと家のご用事が…」

そう言いかけた私を遮るように御主人様は続けます。

「私はずっと自分でこの家のことをしてきたんだから分かるよ。そんなに早くから始めなくても、夕方までには十分に終わらせられるだろう?」

言われてみればそうです。いつも殆どお昼までに終わってしまって、お昼からは二度目のお掃除をしたり、御主人様の本を読ませていただいたりと時間を持て余してるくらいでした。と言うことは、朝はもっと御主人様と一緒のベッドでゆっくりしてていいということでしょうか?。

そう考えた途端に、また私の顔が熱くなります。胸がどきどきして体まで熱くなってきた気がしました。でも、その時、私はそれまで感じたものとはまた違う、不思議な感じになったのでした。体の奥の方で何かがきゅっとなるような…

瞬間、何かが頭の中で弾けます。今まで解けなかった問いの答えが閃いたように感じました。

そうです。私が持ってるもので、御主人様にお返しできそうなもの。御主人様のお役に立てそうなもの。あるじゃないですか。持ってるじゃないですか。

だけど、それを思い付いたらさらに顔が熱くなってきてしまいました。胸のどきどきも激しくなって、息まで苦しくなりそうでした。

「どうした?。また熱が出てきたのか?」

その時きっと私の顔はすごく赤くなってたんだと思います。それに気付いた御主人様が、私がまた熱を出したのだと思ったのでしょう。額に触れられて、私の体は固まったように動かなくなってしまいました。

「少し熱があるような気もするけど、それほど高くはないな。だが、用心した方がいいかもしれないね。今日は休んでおくかい?」

そう言われて私は思わず、

「だ、大丈夫です!。風邪とかじゃないですから、今日は大丈夫です…!」

と、声が大きくなってしまっていました。そんな私に御主人様は、

「そうかい?。君が大丈夫だと思うのなら任せるけど、本当に無理はしなくていいからね」

とおっしゃってくださいました。だけど私は、顔が熱くなったまま、胸もどきどきしたまま、朝食の用意をさせていただいたのでした。





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注2)原作はアダルトゲームですが、筆者の個人的な嗜好によりアダルト展開はほぼありません。
注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手な方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





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思えば私は、この家に来てから泣いてばかりいるような気がします。怖くて泣いたり、不安で泣いたり、嬉しくて泣いたり、わけも分からなく泣いたりと、自分でもこんなに泣き虫だったかなって思いました。でも御主人様がおっしゃるには、今の私はこれでいいみたいです。ちゃんと自分の感情を出せるというのがいいそうです。

それがどういう意味なのか私にはまだ難しいけど、御主人様がそれでいいとおっしゃるのですから、それでいいんだと思います。

昨夜も結局御主人様と一緒に寝させていただいて、寝間着を着替えるために私の部屋に入った私は、クローゼットを開いたのでした。最初に買っていただいた服と、それの色違いの紫の服と、昨日買っていただいたひらひらの服が掛けられたその光景を見て、私はなんだか口元が変な感じになったのでした。前にもこんなことがあった気がします。

しばらくしてはっと我に返って慌ててまずはあの布切れ一枚と言われた服に着替えます。と言うのも、昨日の安息日に買い物から帰った後でお風呂に入ったから、窯の掃除をしようと思ったからです。昨日買っていただいたひらひらの服も持ってお風呂にそれを置いて、先に私の部屋とトイレの掃除をします。トイレは私ももちろん気を付けてますし御主人様もキレイに使ってらっしゃるので、いつも雑巾で拭くだけですぐ終わります。それから窯の掃除を始めました。

灰を集めて灰置き場に捨てるころには手も足も真っ黒でした。だから今度はお風呂に残してた水で軽く体を洗って汚れを落としてひらひらの服に着替え、今度は朝食の用意に向かいます。それを済ませた私が寝室に戻ると、御主人様がちょうど起きられたところでした。

「おはよう。早速その服を着てくれたんだね」

と言いながら頭を撫でてくださる御主人様に「おはようございます」と答えた私は、またあの何とも言えない感じに包まれていました。

「最初の頃は、こうやって頭を撫でていただくのが少し怖かったこともあります…でも、もう、すっかり慣れちゃいました」

私が感じてるそれをどう言っていいのか分からないから、そんな言い方になってしまいましたけど、御主人様は

「そうか、それは良かった」

と答えてくださいました。その何とも言えない感じが何だか心地よく感じて、

「もう少し、続けてもらってもいいですか?」

と言ってしまいます。だって、嬉しいような、気持ちいいような、すごく不思議な感じがして、ずっとこうしていたいっていう気持ちになったんです。

「私、今、幸せなんだと思います…この気持ち…御主人様にもお返ししたいです」

なんて、どうやってお返ししたらいいのかは全然分からないけど、私はそう思っていたんです。ただ黙って私の頭を撫でてくださる御主人様の手の温かさを感じていました。だけどいつまでもこうしていたら朝のお食事の時間が無くなってしまいます。残念だけど、

「ありがとうございます。朝食を用意してますので、お食事にしましょう」

と言って、御主人様と一緒にダイニングへと向かったのでした。





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注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手な方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





「今日は安息日だから、買い物に行こう。もちろんシルヴィも一緒にね」

昨日は、これからも時々一緒に寝てもらってもいいですかと言わせていただいたんですが、実は昨夜も御主人様と一緒に寝かせていただいて、朝の掃除と朝食の用意をさせていただいている時に御主人様が起きてこられて、突然そうおっしゃったのでした。

「は、はい、分かりました」

私は少し呆気にとられながら答えさせていただきます。

そして、朝食の後のお茶の際に、御主人様がおっしゃいます。

「服も二着じゃさすがに少ないし、身だしなみを整えるにはそれなりに小物も必要だと思う。食料の買い出しも必要だから今回は荷物が多くなるし、昨日馬車を手配したんだ。今日はそれで出掛けるよ」

馬車と聞いて、私は驚いていました。馬車に乗ったことがあるのは、たぶん一回だけです。しかもそれは、施設から奴隷としての躾を受けるための場所に移る時でした。その時のことを思い出して、体が冷たくなる感じもしました。

「どうしたんだい?。顔色が悪いね。もしかすると馬車は苦手なのかな?」

今度もまた、まるで見透かすように言い当てられて、思わず狼狽えてしまいます。

「い、いえ…そういう訳では…でも、そうですね、そうかも知れません。施設から奴隷になる為に連れ出された時に乗せられた時のことを思い出してしまったんです…」

答えた私の言葉に御主人様が訊きます。

「そうか、無理にとは言わないから、今日は留守番しておくかい?」

そう言われて、私ははっと御主人様を見ました。

「大丈夫です。私は大丈夫ですから。だから御主人様と一緒に…」

その時の私の焦りように御主人様が一瞬驚かれたような顔をされたのは、気のせいだったんでしょうか。とにかく御主人様と一緒にお出かけすることになり、馬車が来るまでの間に私は洗濯を済ませ、終わったところに丁度馬車が到着し、御主人様と一緒に乗り込んだのでした。

乗る時は少し怖かったけれど、あの時とは違います。あの時のような、同じ施設から連れ出された他の子の他には、いかにも人相の悪い、一目見てまともな仕事をしてるとは思えない男が見張ってただけのと違って、一緒に乗っているのは御主人様なのですから。

さすがに馬車は早くて、いつもの半分くらいの時間で街に着いたように思います。そこで御主人様はまず食料を買い、お仕事で使うという色々な道具を買い、そして最後に、あの服屋に寄ったのでした。

「あらあらいらっしゃいませ、ご自由に見ていってくださいな」

またあの不思議な女性が出迎えます。すると御主人様は、その女性に、リボンやヘアピン、靴下や下着などを指差して適当なものを見繕ってもらえるように指示なさいました。それと、寝間着も一緒に。

実は私は、一人で寝ている時はずっと裸だったんですけど、御主人様と一緒に寝る時には裸ではいられないと思って買っていただいた服のままで寝たんです。それで御主人様が「寝間着がいるね」とおっしゃっていたのでした。そして最後に、ヒラヒラとした可愛らしい服を指差し、「あれもいただこうか」とおっしゃいました。

「かしこまりました」と店員の女性が答えてそれらをまとめていきます。私がそれを受け取り、店を出て馬車に乗ると、新しい服に思わず見とれてしまいました。

「軽くてヒラヒラした服。リボンもたくさんで…かわいい。ありがとうございます」

そう言って思わず服を抱き締めた私に、御主人様は、

「喜んでもらえたら私も嬉しいよ」

とおっしゃってくださったのです。その、馬車に揺られての帰り道、私は御主人様に言いました。

「御主人様は、私が笑ったり、泣いたりしても、ひどいことはしませんよね」

今更また失礼な質問だと思いましたけど、つい口を吐いて出てしまったんです。だけど御主人様はいつもと変わらず静かに穏やかに、「もちろん」と答えてくださいました。だから私は続けて、

「御主人様に引き取ってもらえて、私本当に運が良かったですね」

と、素直な気持ちを言葉にさせていただきました。すると御主人様のお顔がいつも以上に優しくなったような気がしました。

「そう思ってくれてありがとう。でも、私も運が良かったと思う。君にこうして出会えたんだからね」

御主人様がそうおっしゃってくださった途端、私はまた顔が熱くなるのを感じました。なぜか御主人様を見ていられなくて思わず目を伏せてしまいます。

「私…奴隷だってこと、時々忘れてしまいそうになります…」

顔が熱くて、胸もどきどきしてきてしまって、何を言ったらいいのか分からなくなった私は、思わずそんなことを口走っていました。でもそんな私に、御主人様はおっしゃってくださったんです。

「忘れても構わないさ。私は君を奴隷とは思ってない。言ったろう?。私にとって君はもう家族なんだよ」

その言葉にはっとなって顔を見上げ、私はつぶやくように言いました。

「忘れてしまっても、いいんですか?」

そんな私の目を、御主人様が真っすぐに見詰めてくださいます。

「そうだね、私としては忘れて欲しいくらいさ」

御主人様の言葉に、私の中からまた何かが込み上げてきて、涙になってあふれだします。

「ありがとうございます。御主人様…私、がんばります…どうか、見捨てないでください……」

馬車に揺られながら私は、そう言って何度も涙をぬぐったのでした。





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注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手な方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





その朝は、たぶん、私が覚えてる限りで一番気持ちよく目覚められた朝でした。いつものように私の部屋と風呂とトイレを掃除して御主人様が起きてこられるのを待とうかとも思いましたけど、私は一つ、思い切ったことをしようと思いました。家族とおっしゃってくださっているのですから、家族なら当然のことをしようと思いました。

初めてだったのでちょっと大変でしたけど、何とか失敗はしなかったと思います。その用意を終えた私が御主人様の寝室に戻ると、その気配を感じられたのか御主人様が起きられたのでした。

「あ、おはようございます。御主人様」

初めて見る、御主人様が目覚めたばかりのお顔を見ながら、挨拶させていただきます。

「おはよう、シルヴィ。よく眠れたかい?」

優しく訊いてくださる御主人様に私は答えました。

「はい、昨日は、思った以上にぐっすり寝られました。朝まで目覚めなかったし、怖い夢も見なかったし。ありがとうございました」

と、頭を下げます。するとその時、

「そうか、それは良かった。っと、いけない、少し寝坊してしまったか?」

御主人様が時計を見て、少し慌てたようにおっしゃいました。だから私は言いました。

「御主人様、今日は私が朝食を用意したので、よろしければ召し上がってください。パンと、卵とベーコンを焼いただけですけど」

勝手なことをして叱られるかもしれないと心のどこかでは思いながら、だけど御主人様はやっぱり叱ったりされませんでした。

「ありがとうシルヴィ。助かったよ。じゃあ、ありがたくいただくとしよう」

二人でダイニングに入り、私が用意した朝食を前に席に着きます。それが何だか、すごく家族っぽいと私には感じられました。

「お味は、大丈夫でしょうか?」

初めて用意させていただいた朝食の出来栄えが心配で、思わず言葉に出てしまいました。でも御主人様は、

「うん、上手にできてるよ。おいしい」

と答えてくださいました。その言葉に、私はまた、くすぐったいような不思議な感じに包まれたのでした。

その後、朝食の後のお茶も、私が用意させていただきます。

「うん、初めてにしては上手だと思う。慣れてくればきっともっと上手にできるよ」

そうおっしゃってくださった御主人様の言葉の意味は、自分で入れた紅茶を口にした時に分かりました。御主人様が入れてくださったお茶と比べてお湯が少し温くて、香りが弱い感じがしたんです。

「申し訳ありません。御主人様」

初めてとはいえ、せっかくの朝のひとときを台無しにしてしまいかねない失敗に、私は恐縮しました。そんな私に御主人様は、やっぱり優しかったんです。

「大丈夫だよ。誰でも初めてというのはある。大事なのは経験を積み、それを活かすことだ」

そう言って私を穏やかに見詰めてくださる御主人様に、私は改めて引き取っていただけた幸運を実感していたのでした。そして思わず、

「ありがとうございます。御主人様。それでよろしければ、お料理を教えてくれませんか?。上手になって、御主人様のご飯を用意できたらなって…それと…あと、その…よければこれからも、時々一緒に寝てもらってもいいですか?」

と言ってしまったのでした。

「ああ、もちろん構わないよ」

その時の御主人様のお顔は、少し微笑んでいたように私には見えたのでした。

「ありがとうございます」

そして頭を下げさせていただいた私は、これでまた一つ、御主人様と家族のようになれたと感じたのでした。





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注1)これは、アダルト同人ゲーム<奴隷との生活 -TeachingFeeling->を基にした二次創作の小説です。
注2)原作はアダルトゲームですが、筆者の個人的な嗜好によりアダルト展開はほぼありません。
注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手な方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





やっぱり……

その日目覚めた私は、起きた瞬間にまずそう思ってしまいました。あの夢です。結局私はまたあの夢を見てしまったんです。もしかしたらもう見ないんじゃないかって少しは期待してみたんですが、駄目でした。

だから昨日決めた通り、そのことを御主人様に相談しようと思いました。でも、いざとなると言い出せなくて…

朝のお茶の時も、昼のお茶の時も、結局言い出せませんでした。だって、どう言えばいいのかというのもよく分からなかったんです。怖い夢を見るんですだけだと、御主人様にどうしていただければいいのかも分かりません。夢を見なくなればいいのか、夢を気にしなくなればいいのか…

ただ、夢を見なくなるか、見ても気にならなくなりそうな方法が一つだけ心当たりがあります。だけど、本当にそこまで御主人様に甘えてしまっていいのか、不安なんです。それに、そこまで甘えてしまってそれでも駄目だったら、もうどうすればいいのか本当に分からなくなってしまう気がします。

私はダイニングの椅子に座ったままで、ずっと考えていました。御主人様に相談するべきか、それとも私自身で何とかするべきか。けれど答えが出ないまま、日が傾いてきていることに気が付きました。そろそろ御主人様が帰ってらっしゃる時間です。答えは出ないけど、私は御主人様をお出迎えする為に玄関ホールで待つことにしました。

しばらくして、窓から御主人様が帰ってらっしゃるのが見えて、いつものように丁寧に落ち着いてお出迎えする用意をします。

「お帰りなさいませ、御主人様」

お辞儀する私の頭をいつものように御主人様が優しく撫でてくださると、もうそれだけで十分なような気にもなりました。そうです。これ以上望まなくても、もう十分なんじゃないでしょうか?。

そんなふうにも思えるけれど、あの怖い夢のことを思うとやっぱり気持ちは沈みます。

夕食を終えて、食後のお茶をしている時も、私は言い出せずにいました。すると、そんな私の様子に御主人様が何かを感じられたのでしょうか、語りかけてこられたんです。

「シルヴィ、もしかしたら何か悩んでるんじゃないのかな?」

その言葉に、私の胸がどきんとなります。この御主人様には隠し事とかできないと思いました。なのにそれでも言い出す勇気が持てないんです。

「なんでも…ありません……」

後から考えたら何でもないわけないのは自分でも分かるくらい、その時の私は不自然だったと思います。そんな状態のまま時間は過ぎて夜も更けて、そろそろ寝る時間という頃に、御主人様はおっしゃいました。

「前にも言ったけど、君はもう僕の家族だからね。何か望みがあるのなら、まずは言ってくれたらいいよ。聞ける願いなら叶えるし、私の力では無理なことでも、何とかそれを叶える努力はする。私のとってもたった一人の家族である君のために私自身がそうしたいと思うんだ。だから、言えるようになったらでいいから、私に言ってほしい」

私ははっとなりました。そうです。私は何をしてるんでしょう。何度おっしゃっていただいてもすぐ忘れてしまう。私が余計な気を回すのは、逆に御主人様に対して失礼だってことを。

「じゃあ、寝る用意しようか」

そうおっしゃって席を立った御主人様に、私は言いました。

「あの、御主人様、その…私、よく怖い夢を見るんです。昔のこととか、後ろ向きな妄想とか、寝てる時に思い出してしまって。それで、夜中に起きてしまうこともよくあって…」

私のその言葉に、御主人様が答えてくださいます。

「そうか、私にもそういうことはある。それは辛いよな」

御主人様も私と同じ…?。そうでした。御主人様はそういうこともおっしゃっていました。それが私の背中を押します。

「それで…あの……それで、お願いなんですけど…御主人様と同じ部屋で寝させていただいたら、ご迷惑でしょうか?」

言いました。言ってしまいました。私が思ってた、夢を見なくなるかもしれない、気にならなくなるかもしれないたった一つの方法。だけど言ってしまった後で、私は顔が熱くなるのを感じて、思わず目を伏せてしまいました。

「それは構わないが、そうなるとベッドを運ばなければいけないな。今夜からとなると、二人だけで出来るかな」

呆気ないくらい簡単に御主人様は私の提案を受け入れてくださって、しかも具体的にどうすればいいかということまで考えてくださいました。だから私はさらに言ってしまったんです。

「あの、御主人様さえ嫌でなければ、一緒のベッドで…御主人様となら、きっと安心できそうな気が…」

言ってしまってから、私の顔がもっと熱くなってくるのを感じました。しかも思わず服の裾を握りしめてしまっていいました。何だか体まで熱くなってきた気がして、御主人様の顔を見ることが出来ません。

「ふむ…確かに私のベッドは二人でも寝られるものだし、君がその方が安心できると言うのなら、私は構わないよ」

静かに、穏やかに、本当にいつもの御主人様のままで返ってきたその言葉に、私は思わず顔を上げます。

「本当ですか?」

顔を上げた瞬間に御主人様と目が合ってしまいました。胸がまたどきんとなって、慌てて頭を下げました。

「こんなに甘えてしまって、ご迷惑だとは思いますけど…お願いします」

御主人様が、さらにおっしゃってくださいます。

「迷惑なんて、君のように素敵なレディーと一緒とは、私こそ光栄だよ」

こうして私は、御主人様と一緒に寝ることになったんです。御主人様の寝室に一緒に入って、ベッドにもぐります。さすがに御主人様に触れるほど近付くことはできませんでした。そこまでは甘えられませんでした。でも、御主人様がすぐそばにいる。どきどきする感じもあったけど、それ以上に私は、すごく、すごく、安心していました。だから、横になってすぐ、眠ってしまっていたのでした。





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注1)これは、アダルト同人ゲーム<奴隷との生活 -TeachingFeeling->を基にした二次創作の小説です。
注2)原作はアダルトゲームですが、筆者の個人的な嗜好によりアダルト展開はほぼありません。
注3)この小説に登場する人物は基本的に原作に準拠しますが、筆者の個人的な解釈による性格付けがなされてますので、キャラ崩壊などが苦手な方は避けた方が賢明だと思います。
注4)原作をご存知の方なら分かりますが、登場人物の背景にはかなりの鬱要素が含まれます。そういうものが苦手な方もご注意ください。
注5)この小説の舞台は、現実世界とは違う時間軸上にあるパラレル世界の、19世紀初頭の頃のイギリスに近い歴史や文化を持つ国の小さな地方都市を、筆者が勝手にイメージしています。実在する国名や地名や史実が出てくることもありますが、それはあくまで偶然の一致です。決して筆者が時代考証の為の資料集めが面倒だとかそういうことではありません。…嘘です。あくまで趣味で書いてるものなのでそこまで手間が掛けられないのは事実です。ご愛嬌と思って大目に見ていただけると助かります。





########以降本編##########





また、あの夢でした。私が御主人様に人のように扱われることを責める夢。寝ている間にも何度も見て、何度か目が覚めてしまいました。その度に部屋に一人でいることを思い知らされて、胸が締め付けられるような気持ちになりました。

だけど、そんなことに負けてはいけないと思いました。私は御主人様に仕える奴隷として立派にならなければいけないんです。怖い夢くらいで泣いていてはいけないと思いました。

でも…でも同時に、御主人様の言葉を思い出してしまうんです。<辛くなったときは、それをちゃんと私に伝えて欲しい。それを伝えて欲しいというのは、私の望みだ>という言葉を。

これはどう考えたらいいんでしょう?。私が頑張れば我慢できそうな気もします。そのくらいは自分で何とかできないと立派な奴隷になれないという気もします。けれど、御主人様の言葉も大事です。従うべき気もします。

私はずっと考えることを避けてきたから、自分で考えて決めるというのが上手くできないんだと感じました。これまで自分で何かを決めたことが殆どなかった気がします。いつでも誰かの言うことに従って、誰かが決めたことに従って、それでずっと生きてきた気がします。奴隷なのですから、それが当たり前だったんです。

だからって、これからもずっとそれでいいんでしょうか?。それが御主人様にとっての立派な奴隷なのでしょうか?。いえ、でも奴隷なんですから御主人様のおっしゃることに従っていればいい気もします。それが奴隷としての本分の筈です。

ああ、何だかだんだんと訳が分からなくなってきました。頭の中でいろんな考えがぐるぐると回って何も考えられなくなりそうです。そこで私は一つだけ決めました。もし今晩もあの夢を見たらちゃんと御主人様にお話ししようって。そうです。そう決めました。だからこのことは今日はもう終わりです。

明日。とにかく明日です。





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